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第3章「一人で実家帰りと思ったら」

15.数学の教師

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 新幹線が走り出して少しして落ち着いてから、駅で買ってきたお弁当を広げた。
 
「すごく美味しいー」
「ねー、なんか子供じゃないけど、電車でお弁当とか、わくわくするよねー」
「ほんと」
  千里がすごく楽しそうなのでつられて笑ってると、ふと、琉生の視線に気づく。
 
「こうしてると、二人が先生とは思わないですね」
 ふ、と笑われて、千里と顔を見合わせる。
 
「どういう意味?」
  と聞いた千里に、「弁当食べて満面の笑みだからだよ」と言って、健司さんが笑った。
 え、そんなだった? とまた、千里と顔を見合わせて、笑ってしまう。
 
 楽しいな。ほんと。一人じゃなくて、良かった。
 健司さんがふと琉生を見て、そういえば、と話し始めた。
 
「琉生くんも数学の先生なんだよね、琴葉ちゃんと一緒で」
「はい」
「何で数学? オレは苦手だったから、正直先生にまでなりたい気持ちが全然分かんない。すごいよね」
  健司さんが苦笑しながら言うと、琉生は健司さんを見ながらちょっと考える。
 
「何で……まあ、得意だったから、ていうのもありますけど、教師になろうと思ったきっかけが、数学の先生だったから、ですね」
「へえ。そうなんだ。」
「はい」
「教えるのって大変じゃない? 歴史とかならさ、教科書に書いてあることとかを説明すればできそうな気がするけど、数学って、理解してもらわないといけないしさ」
「確かに分かってもらうのが大変なのもあると思うんですけど……分かってもらえた時、楽しいのかも?」

  クスクス笑いながら私に視線を流して言う琉生に、すごく同意。
 
「健司さんと一緒で、私も昔、数学あんまり得意じゃなくて」
「え? 琴葉ちゃん苦手だったのに、先生になったの? ますます何でって感じ」
  健司さんに笑われて、そうなんですけど、と苦笑。
 
「でも、私みたいな分からない子にどうやって分かりやすく教えるかって……使命みたいなもの、勝手に感じて……」
  言ってる内にちょっと恥ずかしくなって、笑いながら最後の方をぼやかしてたら、琉生が「そうだったんですか?」と、びっくりした顔。

 「よく先生になれましたね」
  なんて言って、可笑しそうに笑う。

 「ほんとによくなったなーって思うんだけど……」
  苦笑してしまう私に、琉生は、でも、と呟いて、微笑んだ。

 「それであんなに補習するって言って教えてあげようとしてるのかと思ったら、なんだか余計に……」

  そこで少し止まってから。
 
「……めちゃくちゃ、尊敬ですね」
 
 ふ、と笑って見つめられると、なんだか返事も出てこない。
 尊敬とか。こんなまっすぐ言われることって、そんな無い。

「……口説いてる?」
 千里が横で、クスクス笑う。え、と琉生が千里を見て、苦笑い。
 
「いえ。今は、口説いてませんよ。本気で思って言ってます」
 
 そう言った琉生に、「今はって」と、千里と健司さんがハモってツッコミを入れて、二人で顔を見合わせて笑ってる。
 
 何だか何も言えないまま、琉生を見ると、にこ、と笑う。

 ……どうしてそんなに、可愛く笑っちゃうんだろうか。
 カッコよかったり、大人っぽかったり……すごく男っぽかったのも知ってしまってるし。なのに可愛いとか。なんだかほんとに私には手に負えない気が。困っていると、千里があ、そうだ、と話し出した。

「とりあえずさ、琴葉の実家に着いたら、私は仲良しの同僚で、清水先生は後輩で、健司は私の旦那っていうそれで行こうね」
  千里は私を見て、笑いながらそう言った。
 
「うん」
 頷くと、琉生も、「はい」と笑ってる。
 
「そしたら、オレ、やっぱり、中川先生って呼んだ方がいいですね」
「あー……そうかも。入って一週間の後輩が琴葉のこと、呼び捨ててたら、すごくおかしいかも」
「ですね」
 千里と琉生は、顔を見合わせて、うんうん仲良く頷いている。
 
 ……何だかな。この二人ほんとに、気が合うんだなぁ。
 健司さんも、面白そうにその様子を眺めてる。
 

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