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第3章「一人で実家帰りと思ったら」

7.過去の私

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 お昼を終えて数学準備室に戻ると、琉生も同期との食事を終えて戻ってきていた。
 
「おかえりなさい」

 なんだかとってもいい笑顔で微笑まれる。平常心を保つ努力をしながら「早いですね」と言ったら、「聞きたいこともあって」と言う。
 
「なんですか?」

 少しドキドキしながらそう聞くと、午前中にした授業の話だった。教科書を見せてきて、この問題なんですけど、と言う。
 
「さっきのあの教え方で良かったのかなーと思って。もっと分かりやすい教え方ありませんか?」
「んー。さっきのでも、分かりやすかったけど……」
 
 なんだ、数学の質問……。
 と、なんでだか、ほっとしてるよく分からない私。何を聞かれると思ったんだろ。

 学校なんだし、変なこと言わないって琉生も言ってたし。って、変なことってなんだろう、私。はー。ダメだ、これ。私、こういうの耐性なさすぎて、恋愛の偏差値が低い。

 春樹と長年付き合って、色々経験したと思ってたけど……あんまりパターンが無いというか。
  告白されて、何度かデートして、優しくて、ほっとして、付き合うことに決めて、ただずっと春樹と一緒に居た。落ち込んだ時は、琴葉のままでいいとか言ってはくれたけど、普段から好きとか言われこともなかったし。まあでも日本人ってそんなに言わないって聞くし、そんなものかなーって思ってたし。 

 そんなことを頭の片隅で考えながら、琉生に、指導の仕方を教える。
 
「ああ……こっちの方が分かりやすいです。ありがとうございます」

  ふ、と笑う顔が……綺麗だなぁ、この人。

 その顔に、高校時代の琉生と、バーでの真っ黒な感じの琉生が、なかなか重ならないんだけど。と、思ったらちょっと可笑しくなってしまった。ふふ、と微笑んだら、琉生に、ん? と見つめられた。
 
「なんですか?」
「あ。いえ。なんだか、高校の時とは別人、だなぁって思って」
「ああ……努力はしましたよ? 色々」
「努力ですか?」
「筋トレとか運動とか。朝言ってた、生徒会も、先生と会ってから、思い切ってやったし」
「そうなんですか?」
「そうです。本も読んだし」

 筋トレ、運動、読書、生徒会……。
 私と会ってから、チャレンジしてくれたんだと思うと、もう、不思議な感覚になる。

「なんだか色々言っちゃって、すみません……」
「え、何で謝るんですか?」
 
 琉生が面白そうに、クスクス笑う。
 
「なんか私、突っ走って色々言ったなあと思って……だけど、そんなことで、筋トレとかも続けられたんですか?」
 
 私がすすめるのは簡単だけど、それを継続するって、結構大変なことだと思うのに。

 ……琉生の腹筋とか、すごく、綺麗って思ったけど。
 あれが、それの成果だとすると。私が言ったところから始まってるのかと、思うと。なんだか本当に、びっくりする。


「そんなこと、じゃなかったんですよね、オレにとって」
 

 琉生が笑顔で私を見つめた。


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