上 下
71 / 105
第3章「一人で実家帰りと思ったら」

6.ありがと

しおりを挟む


 昼休み。
 癒しの場所にたどり着いた。……千里の居る、保健室。
 
「あ、来た」
 顔を見た瞬間、千里が笑う。
 
「ごめんね。朝、清水先生誘おうとしてたらさ、登校してすぐ気持ち悪くなっちゃった子が居るとかで呼ばれて」
「あ、いいの。呼ばれちゃったの聞いたし」
「飲みにいこう位までしか話せてないんだけど。まあとりあえず、お昼たべよ」
「うん」
 いつものテーブルにお弁当を置いて、手を洗う。
 
「飲み、行きましょうって、言ってたよ」
「あ、そうなの? 行くことになった?」
「うん……千里と話すの面白そうって言ってた」
「へえ? あら。私もそう思ってるから。楽しみ~」
 
 そんなに千里も楽しみとなると、なぜか私はそんなに楽しみではないような。いや、楽しみではあるんだけど、なんかドキドキする気持ちなのだけど……。
  手をハンカチで拭きながら、向かい合って、座る。
 
「どうだった? 今日の午前は」
「んー。すごく楽な後輩かも」
「清水先生は優秀?」
「うん。授業もやってもらったんだけど。緊張とかしないのかなあ。全然問題ないの。分かりやすいし。昨日こうした方がいいかもって言ったことも出来ちゃって、生徒の顔を見ながら、授業の速さ調整してたり。教えることないかも」
「楽ならよかったんじゃない?」
「まあそうなんだけど……清水先生を見てると、しっかりしなきゃってすごく思っちゃう」
 
 そう言うと、千里は苦笑いを浮かべながら。
 
「しっかりしてるから、それ以上しなくていいよ」
  クスクス笑ってそんな風に言う。
 
「あ、そうだ。そういえば、実家の方、どうなった?」
「あー……どうなった……んーと、とりあえずお姉ちゃんに電話したら、結婚前にそういう人だって分かって良かったねって言われた」
「なるほど」
「皆、私の顔見たいのが一番だから、そっちは別にいいよって」
  そう言うと、千里はクスクス笑って頷いた。
 
「じゃあ良かったね、普通に顔見せに帰るだけで済みそう?」
「うん。何人か連れて帰ってきてもいいよとか言ってたけど、そんな急遽実家に連れてける友達も限られるし……」
「連れて帰るってどういうこと?」
 「なんか、友達連れて帰ったら、私が楽しくこっちで過ごしてるのが分かるし、おばあちゃんとかも安心するかも、みたいな感じで言ってた」
「へー……そんな広いの、琴葉んち」
「うん。田舎だからねー。広さだけは」
「そうなんだね」
 
 ふーん、と千里は楽しそうに頷く。
 
「誰か誘ったの?」
「ううん。結構、結婚してる子も多いし、彼氏が居て週末デートの子も多いし……泊りになっちゃうから、誘えないかな」
「そっか……」
「なんかそう考えると、泊りで旅行とかしてた若い頃が懐かしいなあ」
 
 そんな風にしみじみ言うと、「まだ若いって」と千里が笑う。
 
「ねえねえ、私、行こうか?」
「え? 旅行?」
「違う違う。……って、旅行も良いけど」
「うん?」
「琴葉んち。行こうか?」
「え?」
 向かいに座ってる千里を見つめると。
 
「田舎に癒されるのもいいかなあって。結局春休み、旅行も行けなかったしさ」
「そっか。お仕事、忙しかったんだよね、健司さん」
「そーなの」
 「んー……でも、うち、何もないよ??」
「いいよ別に。琴葉の家族と飲もう~」
「本気? 旅費、かかるよー? あとうちの家族、結構皆うるさいよ~?」
「平気平気」
「でも、駅から遠いよー??」
「あらいいじゃん、それ。ますます田舎っぽい。後で健司に電話して確認しとくから」
「でも、無理しないでね、健司さんとゆっくりできるの週末だけなんでしょ?」
「そうだねー、結構夜遅いから。でもまあ、きっと大丈夫」
 
 思いもしなかった千里の提案に、首を傾げながらも、笑顔になる。
 
「なんか、ありがと、千里」
「まだ確定じゃないけど」
  ふふ、と笑う千里。
 そう言ってくれるだけで、ありがとうなんだよなぁ、と、嬉しい。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

完結【R-18】公爵様と侍女

みるく
恋愛
私のお仕えしてる公爵様。 お優しくてちょっぴりお茶目な旦那様。 憧れからいつの間にか・・・

イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~

美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。 貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。 そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。 紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。 そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!? 突然始まった秘密のルームシェア。 日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。 初回公開・完結*2017.12.21(他サイト) アルファポリスでの公開日*2020.02.16 *表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。

天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ
恋愛
※カクヨムの方にも載せてあります。サブストーリーなども書いていますので、よかったら、お越しくださいm(_ _)m リアンは有名私塾に通い、天才と名高い少女であった。しかしある日突然、陛下の花嫁探しに白羽の矢が立ち、有無を言わさず後宮へ入れられてしまう。 王妃候補なんてなりたくない。やる気ゼロの彼女は後宮の部屋へ引きこもり、怠惰に暮らすためにその能力を使うことにした。

処理中です...