62 / 105
第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」
50.弱ってる時に。
しおりを挟むシャワーを浴びて、肌のお手入れをしてから、髪を乾かした。
お水を飲んで、ふう、と息をつく。
なんとなく時計を見て、ふっと浮かんだのは、ちょっととんでもないこと。
昨日のこの時間は、琉生と……なんて思い出しかけて、ぶるぶる、と頭を振った。
「…………」
本当なら、ただの良い思い出になるだけの夜だった。あのおかげで泣かずに済んでよかった、王子様に感謝。不思議な体験として、終わるはずだった。
まさか、その後、再会するなんて思わないし。
その人が、昔から、私を知ってるなんて、夢にも思わないし。
好きだって。
言われるなんて……。
水をテーブルに置いて、椅子に腰かける。目の前のスマホを近くに引き寄せて、琉生との画面を開けた。
「今日は、初日お疲れ様。おやすみなさい」
ただの後輩の先生相手だったら、こう入れるかな、と思った言葉を入力してみた。
……なんか。変?
わざとらしく、よそよそしさ満載な感じ……?
おやすみなさいだけの方が、いいのかな?
……っていうか。
こんな一言を入れるのに、こんなに悩むとか。
それ自体が、おかしな気がする。
どうしよう、なんか、悩んでないで早く送らないとって気になってきた。
とりあえず。
これで、送ってみよう。多分、これ、すごく普通だから。
ドキドキしながら、送ってみる。
すぐに既読がついて。……待ってて、くれたのかななんて、思うと。
ふわ、と気持ちが和らぐ。
正直なところ。今まで、帰りが夜になる時は、春樹と電話しながら帰って来たし。寝る前に、おやすみなさいのやりとりを、時には電話で、時にはメッセージでしていた。それは、別れを告げられるまで、ほとんど毎日。
帰り道が心配だから。電話しながらも、周りに注意しなよ、と、春樹は言ってた。そういうのは、ちゃんと心配してくれてた。
その間に、彼女とも、もしかしたら連絡を取ったり、気持ちが揺らいだりしていたんだろうけど。でも、大事にされてると思ってたし、一日の最後に連絡を取る人は、ずっと春樹だった。
別れて、一番、実感するのは、そういうところな気がする。
今まで毎日繰り返してきたことを、しなくなる。
その日の愚痴を聞いたり、楽しかったことを話したり、おやすみ、と言ったり。……春樹は朝が弱い人だったから、おはようコールもよくしたったけ。
毎日、お互いを大事に思ってしていたはずのことを、しなくなる。
ぽん、と、突然、一人ぼっちで放り出されたみたいな感覚。
こんな時に、普通に友達や関係ない人に連絡を取るのもなんだか虚しい気がするし。
そんなことを、ぼーっと考えていたら。ぶ、とスマホが震えた。
『琴葉とだったから、初日、楽しかったよ』
ぽっと光って、そんなメッセージが入ってきた。
一人で放り出されたところに。
自分を好きだと言ってくれる人の、優しい言葉。
……弱ってる時に、落ちやすいっていうのは。
そういうことなんじゃないかなと、なんだか、身をもって実感中……。
……待て待て……落ち着け私、と、自分に言い聞かせる。
16
お気に入りに追加
580
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする
カエデネコ
恋愛
※カクヨムの方にも載せてあります。サブストーリーなども書いていますので、よかったら、お越しくださいm(_ _)m
リアンは有名私塾に通い、天才と名高い少女であった。しかしある日突然、陛下の花嫁探しに白羽の矢が立ち、有無を言わさず後宮へ入れられてしまう。
王妃候補なんてなりたくない。やる気ゼロの彼女は後宮の部屋へ引きこもり、怠惰に暮らすためにその能力を使うことにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる