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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」

50.弱ってる時に。

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 シャワーを浴びて、肌のお手入れをしてから、髪を乾かした。
 お水を飲んで、ふう、と息をつく。
 
 なんとなく時計を見て、ふっと浮かんだのは、ちょっととんでもないこと。
 昨日のこの時間は、琉生と……なんて思い出しかけて、ぶるぶる、と頭を振った。
 
「…………」
 
 本当なら、ただの良い思い出になるだけの夜だった。あのおかげで泣かずに済んでよかった、王子様に感謝。不思議な体験として、終わるはずだった。
 
 まさか、その後、再会するなんて思わないし。
 その人が、昔から、私を知ってるなんて、夢にも思わないし。
 
 好きだって。
 言われるなんて……。
 
 水をテーブルに置いて、椅子に腰かける。目の前のスマホを近くに引き寄せて、琉生との画面を開けた。
 
「今日は、初日お疲れ様。おやすみなさい」
 
 ただの後輩の先生相手だったら、こう入れるかな、と思った言葉を入力してみた。
 
 ……なんか。変? 
 わざとらしく、よそよそしさ満載な感じ……? 
 おやすみなさいだけの方が、いいのかな? 
 
 ……っていうか。
 こんな一言を入れるのに、こんなに悩むとか。
 それ自体が、おかしな気がする。
 どうしよう、なんか、悩んでないで早く送らないとって気になってきた。
 
 とりあえず。
 これで、送ってみよう。多分、これ、すごく普通だから。
 
 ドキドキしながら、送ってみる。
 すぐに既読がついて。……待ってて、くれたのかななんて、思うと。
 
 ふわ、と気持ちが和らぐ。
 
 正直なところ。今まで、帰りが夜になる時は、春樹と電話しながら帰って来たし。寝る前に、おやすみなさいのやりとりを、時には電話で、時にはメッセージでしていた。それは、別れを告げられるまで、ほとんど毎日。
 
 帰り道が心配だから。電話しながらも、周りに注意しなよ、と、春樹は言ってた。そういうのは、ちゃんと心配してくれてた。
 その間に、彼女とも、もしかしたら連絡を取ったり、気持ちが揺らいだりしていたんだろうけど。でも、大事にされてると思ってたし、一日の最後に連絡を取る人は、ずっと春樹だった。
 
 別れて、一番、実感するのは、そういうところな気がする。
 
 今まで毎日繰り返してきたことを、しなくなる。
 その日の愚痴を聞いたり、楽しかったことを話したり、おやすみ、と言ったり。……春樹は朝が弱い人だったから、おはようコールもよくしたったけ。
 
 毎日、お互いを大事に思ってしていたはずのことを、しなくなる。
 
 ぽん、と、突然、一人ぼっちで放り出されたみたいな感覚。
 こんな時に、普通に友達や関係ない人に連絡を取るのもなんだか虚しい気がするし。
 そんなことを、ぼーっと考えていたら。ぶ、とスマホが震えた。
 
『琴葉とだったから、初日、楽しかったよ』
 
 ぽっと光って、そんなメッセージが入ってきた。
 
 一人で放り出されたところに。
 自分を好きだと言ってくれる人の、優しい言葉。
 
 ……弱ってる時に、落ちやすいっていうのは。
 そういうことなんじゃないかなと、なんだか、身をもって実感中……。
 
 
 ……待て待て……落ち着け私、と、自分に言い聞かせる。

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