上 下
54 / 105
第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」

42.可愛く見えて。

しおりを挟む

 
「私、何て、答えた?」
「何て答えたと思う? 覚えてる?」
「覚えてないけど……言いそうな答えは、思い浮かぶかも……」
 
 そう言うと、琉生は、ふ、と楽しそうに笑う。
 
「言ってみて?」
 
 うう。……ちょっと恥ずかしいけど。
 
「とりあえず一生懸命生きてから探してみて?とか……」
「はは。あたり」
  嬉しそうに笑って、琉生が、私をじっと見つめる。どき。と、胸が。音を立てる。
 
「生きてる意味なんて、とりあえずめちゃくちゃ一生懸命生きてから探すんだよって言われてさ。なんかその後も、生きてるってだけで、奇跡なんだよ、すごいんだよって、熱弁されて……」

「あー……何か、ごめんね……」
「何で謝るの。すごい面白くて。……なんかすごい……よかったんだよね」
 
 昔を思い出してるっぽい琉生は。
 唇に笑みを浮かべたまま、懐かしそうに目を細める。
 
「――」
 
 なんか。
 ……不思議。
 
 あの時、会った、あの子と。今こんなところで、一緒にお酒飲んでるとか。
 しかも見た目、全然違うし。
 ………………しかも、昨日。あんなこと……しちゃったとか。
 ――っっっ。
 
 ……思い出すんじゃなかった。
 顔に勝手に熱が集まる。
 
「琴葉?」
「――」
 
 琉生の手が、私の頬に、触れる。
 
「赤い――何で?」
 
 クスクス笑われて、優しく見つめられる。
 
 ……昨日の自分を思い出したからなんて、言えるわけがない。
 あと。触られてると、とてもじゃないけど、顔の熱、引かない。
 
「なん、でも、ない……」
 
 少し顔を引いて琉生の手から離れて、自分の両手で自分の顔を挟んで俯く。
 
「ちょっと、酔ったのかも……」
「そうなの? お水貰う?」
 
「あ、大丈夫……」
 そう言うと、マスターの方を見た琉生は、そう?と視線を戻してくる。
 
「話、続けて平気?」
「うん」
「とにかくその時、めちゃくちゃ熱弁されたおかげで。そこから、精一杯やってみようかなと思ったんだよね、オレ」
「そう、なの?」
「目立たないように、適当にやってたこと全部。ちゃんとやってみた」
「そうなんだ……」
 
 それは素直に、何だか嬉しい。
 恥ずかしい熱弁をしたみたいだけど。それを聞いて、色々一生懸命やった子が居てくれるって。しかもあの時まだ私、ただの教育実習生で、先生でもなかったのに。そんな風に聞いてくれるって、嬉しい。
 
「あれ、覚えてるかな」
「……何?」
「琴葉の実習最後の日に、あげたプレゼント」
「覚えてる。ていうか……しおり、使ってるよ」
 
 そう言うと、琉生は、ぱっと私を見た。
 
「ほんと?」
  めちゃくちゃ嬉しそうに、にっこり笑った。
 
 うわ。……可愛い。
 ……何なの、もう。 
 
 もうちょっと。自分がどんな顔してるか考えてから、その笑顔、むけてくれないかな。
 本当に強烈なんですけど……。
  ドキッとしたのを誤魔化すためにも、グラスを手にしてストローで中をかき混ぜる。
 
「すごく綺麗だったし。ステンレスだから、壊れないし」
「良かった」
 
 琉生が笑う気配。琉生もグラスを手にするので、少しだけ隣に視線を向けると、すごく嬉しそうに微笑んでる。
 
 実習最後の日。職員室に来てくれて、くれたんだっけ。
 ありがとうって、言ってくれた。……それは、覚えてる。
 
 クラスの子や、顔を出してた吹奏楽部の子達には、手紙や色紙や、ちょっとしたものをくれる子も居たけど、それ以外の子でくれたのは、あの場所で会った、その子だけで、なんだかすごく嬉しかった記憶のまま、今も使ってた。
 ……ただ、あの子と琉生が、全く結びつかなかったけど。
 
「見たいなぁ……しおり」
「あ、見たい?」
「うん。なんとなく、覚えてるけど……どんなのだっけ、と思って。見てみたい」
「ん。いいよ。明日学校持って行くね」
「うん」
 
 琉生は本当に嬉しそうで。
 なんだかほんとに。可愛く見えてしまって困る。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

友達の肩書き

菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。 私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。 どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。 「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」 近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

完結【R-18】公爵様と侍女

みるく
恋愛
私のお仕えしてる公爵様。 お優しくてちょっぴりお茶目な旦那様。 憧れからいつの間にか・・・

ハズレの姫は獣人王子様に愛されたい 〜もしかして、もふもふに触れる私の心の声は聞こえていますか?〜

五珠 izumi
恋愛
獣人の国『マフガルド』の王子様と、人の国のお姫様の物語。  長年続いた争いは、人の国『リフテス』の降伏で幕を閉じた。 リフテス王国第七王女であるエリザベートは、降伏の証としてマフガルド第三王子シリルの元へ嫁ぐことになる。 「顔を上げろ」  冷たい声で話すその人は、獣人国の王子様。 漆黒の長い尻尾をバサバサと床に打ち付け、不愉快さを隠す事なく、鋭い眼差しを私に向けている。 「姫、お前と結婚はするが、俺がお前に触れる事はない」 困ります! 私は何としてもあなたの子を生まなければならないのですっ! 訳があり、どうしても獣人の子供が欲しい人の姫と素直になれない獣人王子の甘い(?)ラブストーリーです。 *魔法、獣人、何でもありな世界です。   *獣人は、基本、人の姿とあまり変わりません。獣耳や尻尾、牙、角、羽根がある程度です。 *シリアスな場面があります。 *タイトルを少しだけ変更しました。

処理中です...