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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」
26.浮気って。
しおりを挟む「あ、琴葉!」
数学準備室に向かうまでの間の廊下で、千里と会った。
「ちょっと、中川先生借りますねっ」
そんな風に琉生に言う千里に、腕を組まれた瞬間。
「あ、中川先生、荷物、机の上に置いておきますよ」
「あ。うん……ありがとう」
私の荷物を全部琉生が受け取ってくれて、にこ、と笑う。
「オレ、日誌書いてます」
「うん。ごめんね」
すぐに千里が私の腕を引いて、そのまま、保健室に連れ込まれた。
「千里、どうしたの??」
「さっき、春樹に会って。少し話したのよ」
「あ、そう、なんだ」
私を抜きにしても、千里と春樹は同期で、同僚で、普通の友達同士。
だから、話すのとかは、当たり前。なんだけど。
「付き合ってはないみたいだった」
「え?」
「池田先生とはまだ付き合ってないって」
「そうなんだ」
「二股とかでは、なかったみたい。それはとりあえず良かったかな」
「うーん……」
まあでも、それにしても。
天秤にかけられて、捨てられた事には変わらないけど。
浮気って……よくどこからが浮気って言われるけど。
つまり気持ちが浮いて、他の人に向かったらもう浮気って言えると思うんだよね……。だって、きっともうそこからは、どんどんそっちに、行ってしまうもん。
付き合うとか、そういうことする、とか。
……それは、気持ちが移った後の話だし。
まあでも……そういう事実が、ないのは、それでもよかった、かな。
まだ、マシ、というレベルだけど。
「ありがとね、千里」
「それでさ。琴葉を今ここに連れてきたのはね。んー、何かね、春樹が気にしてたのよね、王子のこと」
「え? どういうこと?」
気にしてた?
「何か琴葉と話そうとすると来るんだけど、みたいなこと言ってて」
「……んん?? でもそれは偶然かな、ていうか、一回目は掃除中だったし、二回目はもともと授業の練習してる時でね。そこに、池田先生だって居たからね」
「うん。まあ学校だからねって、すっとぼけといたけど」
「――ていうか、ほっとけばいいのにね、私のことなんて」
「そうだけど……まあなんか、池田先生にそそのかされて、別れを告げてみたけど、気になってしょうがない。て感じかなあ、あれ……バカだよねえ、春樹ってば」
千里はやれやれ、とため息をついている。
まあ……こんなことになって庇うつもりはないけど。
春樹は気持ちが優しいから。きっと、それなりに色々考えて、悩んで、決めたんだろうけど。それでも私のこと、大丈夫かなとか考えてしまうんだろうな。
でも、そこで私を気にして声をかけるのは、本当は優しさではないんだけど。春樹は、そこが分かってないんだと思う。もう決めて別れを選択したなら、むしろ捨てておいてくれないといけないと思うのよね。
「もしまた話す時があったら、私のことはもう気にしないでって言っといて? ……今更だもん。もう一度、結婚を前提にとかは思えないしさ。もう放っておいてほしい」
「まあそうだよね。うん、今度話したら、言っとく」
「うん。ごめんね」
そう言って千里を見ると、千里はクスクス笑う。
「琴葉は、新しい恋に生きてね」
「うん、そうだよね」
「清水先生でも、他の誰でも良いけどさ」
「うん……清水先生はないけどね」
「何で?」
「今日少し一緒に居たけど……話してても、ほんとにすごくモテそうでね。絶対私じゃ無理だと思う」
「まあモテるっていうのはそうかもしれないけどね」
ふむ、と千里が頷いている。
「なんか話してて、会話がね、ドキドキさせられちゃうっていうか? 翻弄される子もいっぱい居そう。あんなモテそうな人、無理、私」
「なるほどー……ん? ていうか、ドキドキするの? 琴葉」
「だって、なんか、視線っていうか……見られるだけでも、ドキドキするよ? 昨日の記憶もまだ消えてないし…… 早く薄れてくれないと、心臓がもたない……」
「へーー?」
「……?」
何だか、千里は、すごく楽しそうだけど。
なになに? …………ちょっと、怖い。
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