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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」

14.自問。

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 一、二時間目は、これからの予定を話して、それから、書類の配布と説明、教科書を配って名前を書いてもらったり、とにかく、生徒に説明することで終わった。琉生には、配布を手伝ってもらって、あとは一緒に説明を聞いてもらう感じ。
 で、今。三時間目は、大掃除。琉生の前で説明することも無くて、やっと力が抜けた。
 生徒達とあれこれ話しながら、掃除してるのは、楽しい。

 琉生は? ……と思うと、生徒達に囲まれて、楽しそう。
 んー、すぐ人気者の先生になりそうだな。うん、まあ。絶対なるよね。

「中川先生ー」
「はーい」
「上の棚、届かないんですけどー」
「ああ、そこ……届かないねえ。私も届かないなー。誰か、背の高い男子に頼もうか…… 誰が一番背が高い?」

 女子達が誰だろーと顔を見合わせていた時。

「オレですね、一番高いの」

 涼やかな……甘い、声。
 後ろから手が伸びてきて、容易く拭かれてしまった。
 女子達がきゃあきゃあ言ってる。

「清水先生、背ぇたかーい」
「めっちゃかっこいー」
「先生何センチ―?」

 興味津々、群がられている琉生。
 盛り上がってるそこから、私は、そっと離れた。

 近づくと香る琉生の匂いは。昨日の甘い感覚が、よみがえるみたいで。
 すごくマズイ。
 学校なのに。教師なのに。生徒達が居るのに。

 ていうか、昨日のことは一夜限りの二度と会わない筈なのに、なぜか会ってしまって、一緒に居るけど。
 うぅ、もう忘れたい。

 今朝、春樹と池田先生に会った後は、あんなに泣きそうな気持ちになってたのに。琉生の登場ですべて吹き飛んだ。泣かなくて済んだけど。化粧も落ちずに済んだし。

 春樹との六年間。
 ほんとはもっと、重かったと思うのに、ほとんど泣いてもないし。
 これでいいのかなあ?って。何だか、逆に自問してしまう。

 雑巾が汚れてきたので、水道に向かう。
 途中も生徒達、あれやこれや話しかけてくる。

 挨拶の時の態度もだったけど。割と、明るい子が多いクラスかな。
 ――まあでも、明るい子が多いとそれはそれで、輪に入れない子が出て来たり、色々あるんだけど。一年後、笑顔で、修了式、迎えられるように頑張ろう。

 琉生とは今こんなに大変だけど。特に私が大変だけど。
 一年後には、担任と副担任として、クラス、無事に終えられたねって。笑って話せてるといいな。

 とりあえずその為にも。
 今日、ちゃんと――話さないと。

 私が昨日、ほんとに、ちょっと自棄になってたってことと。
 あんな事したのが初めてで、これからも無いと思うってことも、改めて言っとかないと。
 じゃないと、飲んで酔っ払ったらああなる先生、とか、そんな思われてたら、先輩教師としてありえないし。

 あとは、何を話せばいいんだろう。

 あ、一応、春樹だってことは言っておこうかな。探られるのも、嫌だし。……でも別に探らないかな。関係ないか……これは、もし、聞かれたら、伝えようかな。

 あとは……。

 とにかく昨日みたいなことは、もう会わないと思ったから出来たわけで、だから、さっきみたいに赤くなるとか、あれは、もう、不可抗力と言うか、別に琉生とどうにかなりたいとか意識してるとか、そういうんじゃないってことも……恥ずかしいけど話しておこうかな。
 その内薄れていくから、しばらく、こういうことに慣れてないんだなって思ってもらって、スルーしてくれるように頼もう。それだけは、なんか恥ずかしいけど、勘違いさせたら困るし、お願いしとこう……。

 あと何だろう。

「――――」

 少し考えただけでも、話すのが恥ずかしいことが、やまもり浮かんできて。ものすごく、憂鬱になりながら、雑巾をごしごし擦って、めちゃくちゃ綺麗になるまで、洗ってしまった。 
 

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