上 下
7 / 8

第7話

しおりを挟む


「んー。……どーだった? 涼真とすんの」

 軽い口調でいうのが、信じられない。

「……っつ……翼のバカ!!!!」

 どうしていいのかわからず、バカな自分への自己嫌悪もあって、叫んでしまった。

「うるさいって、翔。……母さん、もうすぐ帰ってくるし、静かに話そうよ」

 そんな風に言われたって、落ち着いてなんて話せない。

「……っ涼真と、つきあって、るの?」
「付き合ってないよ。言ってただろ、涼真。好きな奴の名前をいつも呼んでるって」
「――っ意味、分かんないんだけど……!」

 もうすぐ、熱いものが、溢れ落ちそう。視界が滲む。
 オレの顔を見て、翼は、ふー、と息をついた。

「オレ、翔が最後まで許すとは思わなかった」
「――――っ……」

「すげえ喘いでたじゃん、翔」
「……っお前の体……だからだろ」
「ああ。まあそうかもね。オレの体、男にされんの気持ち良くなってるからね。中身変わっても、体の感覚は引き継ぐんだなあ。新発見だな」
「……翼!!」

「大丈夫だよ。全部は聞いてないから。本格的に始まってからは、電話も切ったし」
「……っ」

 そんなこと言いたいんじゃ、ない。
 聞きたいのは……。

 何が聞きたいのかも、分からない。

「――――良かったでしょ、涼真とすんの」
「……っ」

「翔、オレほんとのことだけ話すから。ちゃんと聞いてて」

 珍しく真面目な顔をする翼に、オレは唇を噛みしめた。

「オレは、涼真じゃなくて別の男が好きなの。で、涼真も、オレじゃない別の男が好きでさ」
「――――」

「オレ達は――――慰め合ってた訳」
「………………っ……」

「翔には分からないかも、だけど……。オレは、叶わない恋が辛くて、SNSで知り合った奴とホテルに行こうとしてたの。二か月位前。そこを涼真に見つかって、咎められて……」
「――――」

「……オレは、涼真が好きな奴のことも知ってたから。お互い、慰め合う?って誘った。オレも知らない奴とやんのはやっぱ腰がひけてたし、涼真がいいならって」

 そんなの。全部、全然何も、知らなかった。

「涼真は、ほんとは、辛かったろうけどね」
「――――つ……つばさだって……辛かったんじゃないの?」

 全然、気付かなかった。ずっと一緒にいたのに。
 ……双子の神秘なんて信じてなかったくせに、全部知ってるみたいな気でいて……。
 全然……。

 
「――――……っ」

 感極まって、大粒の涙がボタボタ溢れてきた。
 すると、翼が苦笑した。

「こんな時に、よくオレの心配とか、するよね……ほんと、翔は……」
「――――っ」
「兄貴だよなー、ほんと……」

 ……翼の体で、涼真に抱かれるとか、ほんと意味わかんないし。
 全然兄貴なんかじゃない。……ほんと、バカだ、オレは。
 
「オレはほら……知らない奴とヤるよりは、マシだったから。でも涼真は……どんなに似てても、結局本命とは違うからね。辛かったと思うけど」

 その言葉が指す意味。

「……涼真の……好きな、奴って……」
「もう、分かるだろ?」

 ……さっき。
 何度も……翔って、呼ばれた。
 それが、いまつながった気がする。

 でも、それをどう受け止めたらいいのか、分からない。

 だったら何で。オレから離れたんだよ。
 ――――だからオレは、女の子と、付き合ったり、して……。

「さっきさ、涼真にキスされたんでしょ?」
「…………」

 何でキスのことなんて……と思いながら、頷くと。
 翼は、はは、と笑った。

「オレと涼真はキスしてないんだよ。オレ達二人共、体はいーけど、キスはやめとこっていう、よく分かんない倫理感が合致してさ」
「――――」

 もうなんか……良く分かんない。
 オレ達は、さっき……すごく、キス、した。

「なあ、何で今日、キスしたの? 翔っぽいって思った?」
「――翼……?」

 誰に話してんの? そう思った瞬間。翼の手に、スマホがある事に気付いた。
 そして、それが、通話中な事も。翼がスピーカーにした瞬間。

「二人共、うちに来て」

 涼真の声が、した。

「分かった。今行くから待ってて」

 翼が、涼真にそう言って、スマホを切った。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~

雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。 元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。 ※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。

義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。

アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。 捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!! 承諾してしまった真名に 「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

嘘つき同士は真実の恋をする。

濘-NEI-
恋愛
都内郊外のリゾートホテルでソムリエとして働く瑞穂はワイン以上にゲームが大好き。 中でもオンラインゲーム〈グラズヘイム〉が大好きで、ロッソの名前でログインし、オフの時間と給料の全てを注ぎ込むほどのヘビーユーザー。 ある日ゲーム仲間とのオンライン飲み会で、親から結婚を急かされている話を愚痴ったところ、ギルマスのタラントの友人で、ゲームの中でもハイランカーのエルバに恋人役を頼めば良いと話が盛り上がり、話は急展開。 そしてエルバと直接会うことになった瑞穂だったが、エルバの意外な正体を知ることに⁉︎ Rシーンは※ ヒーロー視点は◇をつけてあります。 ★この作品はエブリスタさんでも公開しています

処理中です...