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◇おかえりなさい

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【side*蒼生】


 祥太郎の店を出た時とシャワーを浴び終えた時に、電話をかけたけれど、タイミングが悪くて繋がらず。少しスマホから離れた隙に、先輩から「おやすみ」と入っていたので、仕方なく夜はそのまま寝た。

 朝は、部長と一緒で慌ただしいだろうから、「おはようございます。気を付けて帰ってきてください」とだけ入れておいたら、「おはよ~」と一言で返って来たから、おそらく部長と一緒でスマホをあまり弄ってられない中、入れてくれたんだろうなと判断。

 会社に来ると、分かり切っていたけれど、先輩の席が空いてる。

 特別連絡もないまま昼が過ぎた。
 午後の仕事につきながらも、何度も何度も時間をチェックしてしまう。

 なんかトラブルとか、無いよな……。ものすごくそわそわするが、狼狽えてても仕方ないし、何かあったら会社に連絡が入るはずだしな。連絡がないってことは元気な証拠。

 でも、心配だな。
 早く帰ってきてくれたらいいのに。

 もやもやしながら仕事をこなし、そろそろ一回、電話してみようかなと思ったその時。


「あー、おかえりなさーい」

 ドアの方がざわついて、騒がしくなった。
 見ると、案の定、先輩と部長。


 あー、良かった、無事で。
 心底ほっとして、息をついた。

 きっと、色々話して中々こっちには来れないだろうから、よし、この隙にめっちゃ仕事終わらせて、休憩、一緒に行こう。

 つい今さっきまで、もやもやでちっとも進まなかったのが嘘みたいに、すごい勢いで仕事を片付け始める自分に若干呆れるが、まあ……仕方ない。

 それから案の定、三十分位かかって、ようやく先輩がオレの近くにやってきた。


「おー、陽斗、お疲れ」
「お疲れ様でーす」

 皆が先輩に声を掛けるので、それに答えながら、ようやく隣に来て、鞄を置いた。


「ただいま、三上」


 ――――……一日ぶりの、綺麗な笑顔。
 一瞬、言葉が、出ない。


「三上? 大丈夫?」

 答えないオレに、先輩は、首を傾げる。


「……先輩」
「ん?」

「……相談があるんで、休憩、しません?」
「え。あ、うん……? いいけど……」

「何か誰かに報告とか、ありますか?」
「いや、今話してきたし……」

「じゃあ、休憩、行きましょう」

 ガタン、とオレが立ちあがり、先輩の腕を軽く掴んで引っ張る。


「ちょ、引っ張んなよ、行くから」

 先輩が苦笑いでそんな風に言うと、周りの人達が、「三上寂しかったんだろ、渡瀬が居なくて」とか、「良かったなー帰ってきてくれて」とか、ふざけたこと言ってるが。

「相談ですよ、相談」

 そう言って、ポーカーフェイスで完全スルーして、先輩と歩いて、業務室を出た。

 エレベーターの前で待ちながら、オレを見て笑ってる先輩。



「もー何なの、三上……引っ張んなよ」


 苦笑いだけど、オレを見上げて、嬉しそうに笑う。

 周りに誰も居ない。
 それを確認して、見つめ合った。

 
「……陽斗さん、おかえりなさい」


 しみじみ、心から言うと。


「――――……うん。ただいま」


 ふ、と微笑んで、そう言う。


 もうなんか。
 可愛すぎて。




「――――……陽斗さん、もう、定時で帰りましょ」


 そう言うと、先輩は、一瞬、え?という顔をした後、苦笑を浮かべた。


「定時って……無理だよ、あと何分? しかも今から休憩行くんだろ?」


「……じゃあ……一時間残業で」
「えー、それも無理かも……」

「……オレ、何でも手伝いますから、早く帰りましょうね」
「……休憩やめとく? 戻っていますぐ仕事する?」


「……いや。五分だけでもいいから行きましょうよ。今なら休憩の所、人少なそうだし」


「ん。OK。いこ」


 先輩はクスクス笑いながら、到着して開いたエレベーターに先に乗り込んだ。
 



 少しでもいいから。
 誰も居ないとこで、話したい、とか。まだ仕事も残ってるのに、我儘言ってるよなあ、オレ。


 でも。

 ――――……二人きりのエレベーターで、すごく楽しそうに笑ってるのが可愛いし。


 嬉しそうだから、まあ、多分、大丈夫そう、かな。
 






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