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◇人生初

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「――――……んん、ぅ、……ふ」

 声。可愛い。なんか涙目で、必死に見上げてきてるし。
 何なの。すげえ酔ってんのかな、これ。可愛い。

 ぴくん、と震える手を、繫いでベッドに括りつける。
 ぎゅ、と握り返してきて――――……そんなのだけで、死ぬほど可愛いとか。


「……っみ、か……み……ん……」
「――――……蒼生」

 一瞬離してそう言って、また唇を塞ぐ。

「ん――――……あお、い……」
「――――……っ」


 あー、もう……。
 可愛いからずっと呼んでいて欲しいけど、そうするとキスできねーし。
 ……こんなの迷うの初めてだし……。
 
「……んっ、――――……あおい……」

 少し息が出来る程度に離して、呼ばれたらまたキスで塞ぐ。


 なんかめちゃくちゃ気持ち良くて。
 舌、溶けあって、どっちのか分からなくなってるかのような、感覚。


「んン……」

 喉の奥でくぐもる声。


 会社で、皆の前で話したり、プレゼンしたり、指導してたりする先輩の声は、凛としてるし、ほんとにカッコいい。

 なのになんでこんな可愛くなっちゃうんだろう。

「ふぁ……ん、っぅ……」

 最初からだったけど、舌吸われるの、本当に弱いと思う。可愛い。
 噛むと、びく、と体が震える。

 漏れる息が熱くて。

「あおい……」

 うわごとみたいではなくて、呼びかけられた気がして、キスを離して見つめると。

 涙目で、見つめ返されて。
 そのまま、ぎゅう、としがみつかれた。


「陽斗さん……?」
 陽斗さんの後頭部に手を置いて、よしよしと撫でてると。


「――――……す、き……」


 ――――……。

 ――――……ん?

 すき、て、言った? 今。聞いてもないのに、好き、て?


 あーもう、時間遅いけど……もう、このまま触れて、抱いて――――……。

 思った瞬間。
 ぽとん、と、先輩の手が布団に落ちた。

 え? ――――……。

 まさか。と思いながら、先輩を見ると。
 ふ、と瞳を閉じていて、かくん、と力が抜けていく。


「――――……」


 あんまりな事態に、しばし呆然と見つめた後。


 そー、と、枕に頭をしずめさせて。
 ……そのまましばらく、手を先輩の顔の横について、囲ったまま、じっと見つめる。


「――――……」


 ……寝てるし。

 この盛り上がりすぎてる気持ちと、体の熱はどーしてくれるのかなあ。
 ……つか。

 手を、下に這わせて、先輩のに触れると。ちょっと反応してるし。

「……んん……」

 ちょっと嫌そうに眉を寄せて、体をよじって、そのまま、 横を向いて、寝てしまった。


「――――……」

 ぷ、と。吹き出してしまった。

 先輩の上から起き上がって、隣に座り直して、壁に背を付いた。



 ……こんな、体も心も盛り上がりすぎてんのに、放りだされたの、人生初かも。


 もー、ほんと……。
 やれやれなんだけど……。

 思いながらも。すやすや寝息立ててるのが可愛くてならないとか。

 苦笑いが浮かぶ。

 ……しょーがないなー……。
 なんて思いながら、隣ですやすや寝てるその顔を見てると、顔が綻んでしまうのだけれど。


『すき』

 目の前の、可愛い唇が。
 発した言葉が、よみがえる。


「――――……っ」



 ――――……だめだ。これ。おさまんねー。



 てことで。これまた人生初。
 触りたい相手が同じベッドに居るのに、自分でするという。




 意味不明な初体験をしてしまった。








(2022/6/8)


昨日別のお話でしたのですが……(笑
「蒼生くんがんばってー(笑)」て方、いらしたら、
挙手('ω')ノ頂けたら♡

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