上 下
145 / 273

◇かいつまんで?

しおりを挟む

 休憩後の先輩は、大分吹っ切ったのか、ため息もつかず、いつも通り普通に仕事をしていた。

 やっぱり先輩も、兄貴に隠し通せない気がするって言うんだなと思うと、苦笑いが口元に浮かぶ。

 事実を掻い摘んで説明するとか言ってたけど。
 何言うんだろ。

 ……先輩がなんか最近いまいちそういう気分になれないと悩みを相談したら。
 オレが試しにキスしてみます?ってなって色々しちゃって。さらに、翌晩、色々……というか最後までしてしまった。


 掻い摘みすぎか。
 何か、こう言ったら、結構ひでーかも……。


 ……オレは多分元々先輩が好きだった。憧れてたし。もともと仕事出来る人なのは認めてて――――……。まあ、先輩の態度がアレだったから、諦めてたし、ムカついてたし、全部おさえて、気づこうともしてなかったけど。

 先輩の事は綺麗だって思ってたし。他の奴ばっかりに 褒めて笑いかけて何なのってのは、思ってた。

 そしたら、あんな理由で……っつーか、そもそも全部兄貴のせいじゃねえか……。

 もしかしたら普通に最初から仲良かったら、こんな風になってないかも。
 2年拗らせてたから、余計、そうなってるのかも?

 ……いや違うか。
 …………綺麗だって思ってるもんな、オレ……。仲良かったら余計最初から、好き好き言ってたかも……。まあもしもの話してもしょうがねえけど。


 まあ、とにかく、想い拗らせてたところで、しかも旅を一緒にして、風呂一緒に入ったりしてる内に、一気にそっちに感情が移行して、あれこれしてたら先輩がめちゃくちゃ可愛くて。もうどうしようもなく好きだと思って。

 ――――……ていう所を、ちゃんと言って貰わないと、
 ほんっとーに、マジで、「何やってンだよ」と言われる。絶対。


 もともと好きで、それが溢れちゃって。
 色んな状況が混ざって、ああなった。


 掻い摘んで話したら、兄貴から呼び出しがかかるだろーなー……。
 まあしょうがねーか……。



 まあいいや。
 ――――……先輩プレゼン得意だし。どーにかするだろ。
 と思うのだけれど。この恋愛とかそういう事に関してのこの人、なんか急に幼い感じになるからなー……。うーん……。


「……かみ? 三上ってば」
「……あ。 はい?」

「寝てた?? 3回呼んだけど」

 笑いながらそんな風に言ってくる。

「起きてましたけど。考え事してて」

 苦笑いで言うと、先輩がちょっと心配そうな顔をする。


「何か問題あった? 対応困るなら聞くけど?」

 仕事の事だと思ってるらしく、そんな事を聞いてくる。


「大丈夫です。あ、すみません、何ですか?」
「もうすぐ18時だけどどうする?」

「オレ、別にいつでも終わらせるので。先輩に合わせますよ」
「ああ。じゃあ、もういい――――……あ、ちょっと部長んとこ行ったら終わり。待ってて」


 先輩が部長の所に歩いて行く姿を見送りながら、パソコンの電源を落として、机の上に出していた物を片付けていると、同期の晃司が隣にやって来た。


「お疲れ。帰んの?」

 そう聞くと、晃司は、ああ、と言って笑いながら。

「ごめんな、昼行けなくて」
「全然。渡瀬先輩と行ったの?」
「ん」
「珍しくねえ?」
「……まあ」

 ……つか、どうしても必要があった時以外では、初だけど。
 とは言わず、曖昧に頷いてると、晃司が、にやっと笑いながら、オレに顔を寄せてきた。

「なんかさ、渡瀬先輩と仲良くなった?」
「――――……」

「出張2人で行って打ち解けた?」
「ああ。……まあ」
「そっか、良かったな」
「ああ。そーだな……」

 晃司はクスクス笑ってオレを見て。

「渡瀬先輩、大好きだもんな、お前」
「――――……は? なんだよ、それ」

「いや。なんか先輩が冷たいから、嫌いムカつくっぽい事さんざん言ってたけどさ。それって、逆に好きだからムカつくんだろーなーって」
「……別に」

 ……ていうかこいつもこういう、セリフの裏読むタイプか。
 言えよ、そう思ってたんだったら。

「まあ、直の先輩とは仲いいに越した事ないよな」
「……ああ。まあ」


 余計な事はこいつには言うのやめよ。
 ――――……少なくとも先輩がばらしても良いって言うまでは、会社では。


 ちょっとため息を付きたくなる。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

処理中です...