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◇腕の中に

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 先輩は、すっぽり、オレの腕の中に埋まった。
 こんな風に埋まって、抱き締められたままでじっとしていてくれるとか。
 
 ……なんか、はっきりいって、奇跡みたいな気がする。

 もちろんもっとすごい事はしたんだけれど、あれは「気持ち良い事」だし。すると決めてしまえば一連の動きとして出来る気がするけど。


 そうする必要もない時に、こうして抱き締めるとかの方が、なんだかよっぽどハードルが高い気がして。

 ……抱き締めさせてくれるんだなあと、内心感動していると。


「……ちょうどいい」
「ん? ……何ですか?」

 ぽふ、と余計にオレの胸に埋まって、オレの浴衣の背中部分を、きゅ、と握ってくる。


 ……ナニコレ。
 可愛すぎるんだけど。


「……なんかめちゃくちゃ、照れるからさ……」
「……え?」

「顔見ないですむから、こーしてるの、ちょうどいい……」
「――――……」

 オレは、先輩をぎゅ、と抱き締めた。


 ――――……あー。……可愛い。
 
 照れるから、埋まってるのかー……。
 まあ確かに、顔見つめ合うと、今は恥ずかしいかも……。

 ――――……あんなに色んな事しておいて、照れるとか。
 オレ達、なにしてんだろ……。


「……陽斗さん」
「……ん?」

「水飲みますか? 喉乾いたでしょ?」


 結構、声、出してたし。……特に最後の方とか。
 言ったら慌てふためきそうなので、心の中だけで言いながらそう聞いたら、うんと頷く。

「水持ってきま……」
「それでいいよ」

 離れようとしたのを、止められた。


「三上が持ってるの一口くれれば」
「飲みかけですけど」

「……今更じゃない?」

 そんな風に笑う先輩に、確かに、と思って、持ってたペットボトルを渡す。

 先輩を少し離して、でもその腰のあたりに手を置いたまま。

 先輩が水を飲む首元を超間近で見つめてしまう。


 ――――……喉、綺麗。
 あー。キスしたい。なめたい。甘噛み、したい。


 抱いてる時そうすると、めちゃくちゃビクビク震えるから、そこら辺、かなり弱い。

 でもなんとなく、唇を寄せる事はできなくて。
 すり、と手で触れてみた。

「……? なに?」
「美味しいです?」

「うん、美味しい」


 ふ、と微笑む先輩がキャップを閉めたのでそれを受け取って、そのまま、抱き締めた。


「三上って……くっつくの好き?」
「……うん」


 頷くと、ぷ、と笑う先輩。



「……陽斗さんさ――――……オレとすんの……嫌じゃなかった?」

「――――……」


「……陽斗さん?」


 少しだけ腕の中を覗き込むと。
 俯いてるけど。真っ赤。


「……だから……オレ、照れるって言ってるじゃん…… 嫌だったら、照れてないで青ざめてるから。……ていうか、ここから脱走してるから」


 そんな台詞に、ぷ、と笑ってしまう。


「脱走しちゃうんですか?」
「……うん。してるな、多分」


「……じゃあ逃げられてないから嫌じゃなかったって事ですね?」


 クスクス笑いながらそう言ったオレに。
 オレを少し見上げた先輩は。


 少し体を伸ばして、不意に、オレにキスをした。



「……陽斗さん?」



 驚いて、名を呼ぶと。
 キスしてきたのに、恥ずかしそうに、少し視線を落とす。



「あのさ……嫌じゃなかったですかとか、聞くなよ」
「え?」



「そうじゃなくて……よかった?とか、聞けば?」



 ――――……ああ。確かに。
 ……なんか、知らず自信無えのかな、オレ。

 否定っぽいとこからの質問してるな。



 ……つか、この人相手で、そんな自信とか、ある訳ないけど。





「……陽斗さん、良かったですか?」

「――――……うん」



 何か言おうとして。結局言えなかったみたいで。
 頷くと。
 先輩は、オレの肩に、額をのせた。


 すごく時間が経ってから。
 先輩は、くす、と笑って。埋まったまま。



「……よくて、びっくりした」



 とか。いきなり言うから。



 つか。はーー。もーー。なんなの。

 ――――……こっちがびっくりだっつーの……。 ……マジで。





 そのまま、ぎゅー、と抱き寄せてしまった。




 

  

 


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