上 下
75 / 273

◇女にモテたい?

しおりを挟む

「先輩、そろそろこっち向いてくれません?」
「――――……」

「変ですよ、2人で居るのに、完全に先輩がそっち向いてるの」

 苦笑しながらそう言うと、先輩、ようやく、こっちを向いてくれた。


「……なんかさ」
「ん?」

「……三上って、結構」
「うん?」

 そこまで言って、先輩が固まってる。
 やっと食べ終わったらしい、クレープを包んでた紙を折りたたみながら、続きが出てこない。

「何ですか?」
「――――……結構意地悪い?」
「――――……」


 えーと。 
 ……意地悪い?


「……そうですか?」
「――――……分かんない。でも、なんか、からかって楽しそうに見える」
「んー……」


 まあ確かに、ちょっと、反応が面白いなとは思ってた。
 意地悪いとは言われた事ないけど――――…… ああ。そういえば。

「Sだよねって言われる事がたまにありますけど……」
「あ、そうそう、そんな感じ!」

 食い気味に乗っかっけて来て、うんうん頷いて、なんか楽しそうになってる。 ……面白いなーこの人。

 まあ。Mじゃねーから、どっちかっつったら、Sかも知んねーから別にそれは良いけど。

 じゃあこの人は何なんだろう。


 ……無意識で、突撃してくるのを何て言うんだろう。

 Sな訳じゃない。別にМでもない。

 ……無意識。無自覚。天然。


 ――――……この人って、これで何で仕事、あんなに出来るんだろう。
 謎に思える位、鈍い時あるし。

 ああ。でも昨日の、あのキモイおっさんのとこでの対応見てても。
 そういえば、一番キモイとこは、この人、ほとんど分かってなかった。

 仕事関係は、敏いしすぐ分かるし、ちゃんと話も通じてたけど。
 でも、キモイとこは、見事にスルーか、違う意味で取って、なんか適当にうまく返事になっていたような。ある意味天才……。

 ――――……だから、ほんとにその関連だけにものすごく鈍いって事で。なんでこんなにモテそうなのに、そこら辺発達しないで生きてこれたんだろうなあ?

 ……分かりやすい好き好きアピールしてくる子としか、付き合ってないんだろうなあ。と、勝手に予想しながら。

 謎すぎて、アイスティーをストローで飲んでる先輩を見つめてしまう。


「……あ、先輩、クリーム。ちょっとついてる」

 右の唇の端。こっち、と、オレ自身の唇を指して教えてあげたけど。
 逆側に触れてる。


「こっち」

 紙ナプキンで、そっと拭き取ってあげると。


「――――……」

 先輩、黙ってから。


「……三上って、すげー恥ずかしい」
「――――……」

 本気で恥ずかしそうに言われて、がく、と崩れそうになる。
 
「はいはい……すみませんでした」

 苦笑いしながら、紙ナプキンをくしゃ、と丸めてトレイに置く。


「もう行きます?」
「うん」

「どこか行きたいとこあります?」
「ううん。いいよ、適当に回るんで、十分楽しいし」

 ――――……素直。
 ふ、と笑ってしまいながら、先輩のトレイと重ねて、「ちょっと待ってて」と立ち上がって、トレイを片付けた。

 先輩の元に戻ると、「ありがと」と言われるのだけれど、何か、ちょっと複雑そうな顔してる。


「……どーしました?」
「なんかさー。三上ってさー」
「はい」

 またきた、「三上って」。
 ……次はなんだろ?

 先輩の次の言葉を待っていると。



「なんかあれだよね」
「……あれ?」

「……あれあれ」
「あれ、とは?」


「理想の彼氏、みたいなこと平気でするよな?」
「――――……」


「絶対モテるよな。三上見てると、ああ、こうやれば、いいのかーって、勉強になる」
「――――……」

 またこの人は、ほんとに何言ってんだかよく分かんねえけど。


「……何が勉強になったんですか? たとえば?」
「えーたとえば…………」

 2人で歩き出しながら、先輩のあほ発言の先を促すと。


「スイーツ頼む時は、相手の食べたいもの頼んであげる、とか」
「…あれは、オレがどれでも良かったからですけど」

「乗り物乗る時、自然と先に乗せてくれるとか。ドア開けてくれるとか」
「……それはやってるかもですけど」

「飲み物買ってくるから待ってて、とかさ。水持ってきてくれるとか。さっさと片付けてくれちゃうとか?」

 ――――……なんかそこだけ聞いてると、オレ、めっちゃ尽くしてる気がしてきて、ちょっと笑える。

「そういうのを自然とやれると、絶対女の子にモテるんだろうなーて、感心してるところ」


 ――――……女の子に、モテる。ね。

 何か、そこ、引っかかる。



 女の子に、モテたいの? 
 ――――……オレと夜、とんでもないことしようとしてんのに?


 口をついて、出てしまいそうになって、一呼吸おいてみる。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

見せしめ王子監禁調教日誌

ミツミチ
BL
敵国につかまった王子様がなぶられる話。 徐々に王×王子に成る

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺

toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染) ※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。 pixivでも同タイトルで投稿しています。 https://www.pixiv.net/users/3179376 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/98346398

処理中です...