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side*陽斗 8

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 外に来て周りに観光客がいっぱいで、2人きりのあやしい会話がなくなったら、消え去っていた平常心が、とりあえず戻って来た。

 一緒に観光を楽しみましょう、夜までに考えてくれたらいいからって。
 ……とりあえずそう言ってくれたし。

 せっかくだから、楽しんだ方がいいよなと、思って。
 観光マップも買ってみた。
 ……スマホで調べればいいし、普段は、そんなの買わないんだけど。

 高校時代の修学旅行の話をしたり、一緒に写真撮ったり、
 なんかすっごく楽しい。

 三上、ほんと。いい奴。
 たのしーなー。ていうか、めっちゃ優しい。優しすぎて、なんかちょっと困る位。
 そう思って優しくて戸惑うって言ったら。

「――――……つか、そんな事言ったら、先輩とこんな風に一緒に居る事自体、オレの方が戸惑いまくりですからね。昨日までのオレが見たらひっくり返りますよ」

 と、突っ込まれてしまった。

 ――――……でもなんかそういうのを、嫌な感じじゃなくて、きっぱりはっきり言って、笑い返してくれるとか。やっぱりなかなかできない気がする。

 隠し事、しないで付き合えそう。三上って。

 ……そもそも、昨日みたいな話、他人にしてしまった事自体、
 オレ、おかしくなってたとしか思えないし。

 なんか三上なら大丈夫かもって、思っちゃったんだよね。
 仲良くなるのを避けてきた後輩なのに、ほんの数時間一緒に過ごしただけで、あんな事相談しちゃうとか。

 ……普通なら酔ってても話したりしない。
 だって、この2、3年、ずーっとぼんやり思ってたけど、仲の良い友達とかにも誰にも、言わずに来てたのにさ。

 この2年、仕事の付き合いだけだったけど、三上のこと、かなり信頼してたんだろうなぁ……。
 

 清水の舞台から、京都の町を眺めながら、色々考えていたら。
 女の子達に話しかけられた。

 写真を撮ってあげて、離れようと思ったら呼び止められて、ああ、逆ナンだったのかとそこで気付いた。
 連れも居るしと、やんわり断っていたんだけど、男2人なのはもう知ってて、良かったら一緒にと言ってくる。

 オレこの精神状態で、見知らぬ女の子達となんて絶対無理。
 三上を振り返ると、なんか笑ってるし。助けろ、と見つめたら、面白そうな顔して、近づいてきた。

 有無を言わせない感じで、三上が断って、オレの腕を掴んで歩き出した。

 三上、圧が強いな、族長ん時の圧??なんてふざけて言い出した瞬間。

 三上の手が、ぱ、とオレの口を覆った。

「声でかいし」

 そんな風に囁きながら。

 瞬間、息も出来ずに固まる。
 ダメだ。

 オレ今、三上が、触ると、昨日の事が――――……。
 

「……悪い、今、あんまり触らないでくれる?」

 思わず言ったら、嫌だったか、と謝られてしまった。
 ……違う。嫌とかじゃない。

 違う。
 三上が言ってるの、違う。

 何て言ったらいいか分からなくて、黙ったまま三上の隣を歩いていたけれど。三上も気にしてるのか何も言ってこない。

 きっと、三上が考えてる事は、全然違うから、オレは。

「……三上に触られるのが嫌だから言ったんじゃないから」

 そう言った。


「今お前が触ると、オレ……昨日の、事、よみがえるから、ほんとに、無理」
「――――……」

 なんかすごく恥ずかしいけど、事実なので、オレは、そう言った。
 そしたら。どこかに座ろうと言われて、静かなカフェに入った。


 ……でも。
 三上が勘違いしてるだろうから、否定するために言ったその言葉は。

 ……多分、オレが、昨日の事思い出して。
 …………意識、しちゃうから、やめてという、そんな意味になっちゃうよなと思うし。……ていうか、まあ、そういう意味なんだけど……。

 いいのかな、オレ。


 このまま、この気持ちのままだと。
 ――――……今夜、オレ……。


「さっきの話、なんですけど」
「……触るなって言った、やつ?」

「それなんですけど」

 三上はめちゃくちゃオレをまっすぐ見つめてくる。
 
「オレが今、人もいっぱい居る所で、先輩にどんだけ触っても、何も意図はないですから。――――……あんまり、意識、しないでください」


 ……なんかオレが1人で意識しまくってるみたいで、恥ずかしくなる。

 そうだよね、オレ男だし、三上がずっとオレを意識してるとか、ある訳ないよね。昨日はあれは特別だったし。


「でも――――……でも、2人になって、触るのは、意味ありますよ。昨日のを思い出すとか。そういうのって……オレにとって、めちゃくちゃ意味があって。誘われてるのかなって、思っちゃいます」
「ち」
「違うのは分かってます。先輩、きっと考えずに言ってるんだろうなって、分かってるけど――――……オレは、そう思います」


 誘われてるとか、あまりの恥ずかしさに、咄嗟に違うと言ってしまいそうになった言葉を即遮られて、言われて。

 ――――……それも違うと、俯いた。
 つか、そんなの、何も考えずに、言う訳ないじゃん。

 誘われてるのかなって言う三上の言葉は、ちが、くない。

 オレが今言ってるのって、どう考えても、明らかに、
 ――――……今夜、オレ……。

 
「……陽斗さん」

 咄嗟に、顔を上げて、三上を見つめてしまった。
 昨日――――……おかしくなりそうな、感覚の中で、何回か呼ばれた名前。

 う、わ。
 やばい。な。 心臓、ドキドキしだした。

「……無理なら、陽斗さんとは、二度と、呼びませんから。無理しなくて、大丈夫ですよ」


 ――――……三上は、ほんとにそういう奴なんだと、思う。

 無理強いなんか、しない。
 ――――……昨日だって、何回も、途中で聞かれて。

 ずっと優しかった。


 陽斗さん、て呼んだのも。
 オレが、先輩後輩、気にしてたから。

 あの時だけ、「先輩」をやめてくれた。
 耳元で、「陽斗さん」て、呼ばれた感覚が、不意によみがえって、顔が少し熱くなる。


 ――――……何かオレ。ほんとにヤバくないだろうか。



 三上はきっと、ああいう事に慣れてて。
 そんなに嫌でもなかったから、続けて――――……。

 キスしてたら、反応したそれを、ただ鎮めただけ。
 ――――……そんな、気がする。



 ……ん? 
 そういえば。

 ……キス、したいって、なんだろう。


 美味しいスイーツ、食べさせたり、食べさせられたりしながら、
 すごく美味しくて、幸せに浸りながら。

 頭の中は、その疑問でいっぱいになってくる。


 キスしたい、触りたい、先輩じゃなかったら、してない。

 …………何それ。

 三上って、オレの事、好き。 ……じゃないよな。
 絶対昨日まで、嫌な奴ナンバーワンだったよな、オレ。

 好きなわけないし。


 じゃ何だろ??


 ツンツンしてた憎たらしい先輩が、変なことで悩んでて。
 ちょっかいだしたら、思ってたより良かった……から、もっと触りたい?
 
 …………なんか相手は三上だし、それとも違うような気がするけど、よく分かんないな……。





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