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◇オレは悪くない…。
しおりを挟む所々で写真を撮りながら、清水の舞台まで上ってきた。
「すげ――――……」
京都の町が見下ろせる。
すごい、景色だな。
「三上、こっち向いて」
京都の景色を背景に、先輩が写真を撮ってくれる。
「オレも撮りますよ」
「うん」
場所を交換して、先輩を撮る。
そのまま下を見ている先輩の隣に立って、その写真を見せる。
「良い景色」
「ですね」
ていうか。景色はもちろんなんだけど。
先輩の写真が良すぎる気がする。
「先輩って、なんかやってました?」
「何かって?」
「モデルみたいな仕事」
「やってたように見える?」
「今やってるって言われても、信じますけど」
「はは、何それ」
「この写真、そのままどっか出せそうですもん」
「そうかなあ?」
先輩はオレの手元のスマホを覗き込んで、んー?と首を傾げてる。
「ていうか、んな事言ったら、三上の写真だって」
ほら、と写真を見せてくる。
「オレのは別にいーですよ」
適当にチラ見して、さっきから何枚か撮ってる先輩の写真を眺めていると。
「オレの写真、そんな見なくていいって」
スマホに手が伸びてきて、隠される。
あ、恥ずかしいのかなと思って。
先輩に視線を向けると。
「も、写真しまえよ。景色見ようぜ」
そんな風に言って、視線を逸らす先輩。
頷いて、スマホをポケットに入れた時。
隣に居た女の子2人に、話しかけられた。
「あの、写真撮ってもらえませんか?」
「あ、いいですよ」
先輩、普通に愛想よく受けて、スマホを受け取ってるけど。
多分これは……。
何となく、黙ったまま、そのやり取りを眺める。
まあ、先輩は何も気づかず。
――――……何なら、さっき門の所でしてたやり取りの時と、先輩は何にも変わらないのだけれど。
何枚か写真を撮ってあげて、その子達に確認させて、ありがとうと言われた先輩は、いーえ、と笑顔でその子達から離れようとして。
また呼び留められてる。
だよなあ。
絶対、そうだと思ったけど。
こっちにもその子達の視線が飛んでくるけど。敢えて近くに行かず、後ろからやり取りを見守る。やっと今、それが誘われてると認識したらしい先輩は、初めてちょっと困った顔をした。
……鈍い。
ふ、と笑ってしまう。
笑った所で先輩がちょうど振り返って、オレと目が合うと、助けろよ、という顔で見つめてきた。
困ってるの可愛いけど。まあ……助けるか。
先輩に近付いて、ぐ、と腕を掴む。
「先輩。早く行かないと、時間が」
「あ。うん」
「ごめんね、オレ達、急いでるから」
女の子達に、にっこり笑って見せて。有無を言わさず。
そのまま、先輩の腕を掴んで、歩き出す。
少しその子達から離れてから、先輩の腕を離した。
「もう、ここ、良いですか? もう少し、景色見たいです?」
「ううん。違うとこ、行こ」
「はい」
「……急いでるって言っちゃったしさ。てかさー。三上、圧が強い」
「……そうですか?」
まあ確かにちょっと圧、かけたけど。
「三上が来て女の子達、何も言えなくなっちゃたし。ああいう圧ってさあ、族長ん時の――――……」
クスクス笑って言いかけた先輩の口を、ぱ、と覆う。
「声でかいし」
黙った所で、ぷ、と笑って手を離したけれど。
先輩が、何やら固まってる。
「――――……先輩?」
聞いたら、先輩は俯いて、言った。
「……悪い、今、あんまり触らないでくれる?」
「は?――――……あ、嫌、でした? すみません」
気安く触りすぎたかな、と思って。
小さくため息をつく。
んー。
難しいな。
何を話していいかちょっと分からなくて、しばらく無言で歩いてると。
先輩が、不意に、はあと息をつきながら、自分の額を、手の甲で擦った。
「先輩?」
「……違う」
「え?」
「……お前が今思ってるの、違う」
「……オレが思ってるのって?」
俯き加減の先輩に、少し首を傾げて、顔を見たいなと思った瞬間。
先輩は、ふ、と顔を上げた。
「……三上に触られるのが嫌だから言ったんじゃないから」
「――――……」
綺麗な瞳がまっすぐこっちを向いてて。
「……あ、そう、なんですか?」
……嫌じゃないなら。何だ?
「今お前が触ると、オレ」
「――――……」
「……昨日の、事、よみがえるから、ほんとに、無理」
「――――……」
また俯いてしまった、先輩の事を。
いますぐにでも、どっか連れ込みたいって、思ったって。
オレは、悪くない。
と。
……真剣に、思ってしまう。
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