上 下
16 / 273

◇来て良かった。

しおりを挟む

 謝罪先の会社について、受付の人に案内された。
 応接室の前で待ってた奴が、先輩を見て、笑った。

「やあ、渡瀬君」

 どんな奴が相手だと、思っていたら。
 多分若い頃は色々派手に遊んでただろうなというイケメンなオッサンだった。40前後?てとこかな。
 左手薬指には、指輪がはまってる。

 は? 何、結婚してんのに、先輩を狙ってンの?
 ふざけんなよ。

 狙われてる云々の話を聞いた時は、部長の気のせいというか、取り越し苦労なんじゃねーかと、思っていた。だからそこまでは、警戒せず、ただ、部長がそう言うからには何かはあるんだろうかと思ってはいたが。

「木原さん、申し訳ありませんでした。こちらの書類の手違いで、ご迷惑をおかけしました」 

 先輩がそう告げて、きっちり頭を下げてる。慌てて一緒に申し訳ありませんでしたと言って、頭を下げる。

「いいんだよ、悪かったね、遠くまでわざわざ。私は別に来なくてもいいと言ったんだけどね」

 ……は? 部長の話じゃ、先輩をよこせって聞かなかったらしいけど。
 頭を上げて、みたいに言われて、ゆっくりと顔を上げると。

 オレの目の前で、とりあえず中へどうぞ、なんて言いながら、先輩の背中に触れた。

 つか――――……触んな。

 要るか、その手。
 触んじゃねえよ。

 後ろから蹴りを入れてしまいたいのを、かろうじて耐える。

 結構大手の取引先……。さっき先輩が言ってた。
 ――――……この謝罪時間さえ済めば、こんなおっさんからは離れられる。
 後数分のはず。

「うちは本社がこっちだから、戻れたのは良いんだけど――――……こっちには渡瀬君、居ないからねえ」

 ――――……キモ。 キモすぎ。

 先輩はさりげなく距離を取りながら、そんなキモイ発言にも、うまく返事をしている。

 とりあえず部屋に入ると、そこからは、まあ、向かい合わせて座ったから、先輩に触られる事はとりあえず無くなったが。

 今回の手違いの説明を、先輩がうまく話しながら謝ると、そいつは、もうそれは良いよ、分かったから。と言う。

 ここまでで、先輩がわざわざ東京からここまでくるような理由は、1個も見つからない。
 やっぱり、支社の奴で全然良かったと思われる。

 マジでこいつ、先輩に会いたかっただけか?
 ……部長、さすがだ。ついてきて良かった。

 オレが居なかったら、こいつ、先輩の隣に座りかねない。

 そこからしばらく、普通にやりとりが終わって。
 とりあえず謝罪も終わったし、あとは、帰るだけ。
 もう触らせないように、オレが、間に入ってやる。

 と思っていると。


「あ、渡瀬君、ここの工場見ていくかい?」

 は? 
 何、言い出しやがった?

「良いんですか?」

 とか、先輩も言ってる。
 ……ていうか、先輩は、無下に断る訳にもいかないから、そう言ったのは分かってるけど。

「前の工場より改良された所もあってね」
「そうなんですね。ぜひ」

「じゃあこっちの資料の訂正については、そこの君、うちの担当と一緒にしてもらえる? 今担当を呼ぶから」

 …………は?
 それ、今、オレに言ったの?

 資料の訂正なんか、そっちの担当でやりやがれ。


「三上、頼める? オレちょっと、工場見せてもらってくるよ」


 何いってんの、あんた。

「いや、出来たらオレも、工場見てみたいです」
「え、見たいの?……木原さん、良いですか?」

「んーでも前の工場も知らないし、見ても面白くないと思うけど」

 あくまで、先輩と2人になる気だな。
 ぜってー、無い。

「いえ、ぜひ。一緒に見たいです。書類はその後で、先輩にも居てもらった方がいいので」

 奴は、ち、と舌打ちでもしそうな顔でオレを見てるが。

「なんかやる気だな、三上。 木原さん、一緒に良いですか?」

 先輩はまた綺麗に笑って、オレを見て、そして奴を見上げた。

「……もちろん」


 先輩の笑顔には勝てなかったらしい。
 渋々頷いてるが、先輩はそこらへんは鈍すぎるらしく、良かったな三上、ちゃんと勉強していけよ?なんて、言ってる。

 ――――……先輩、これ、オレでも分かるわ。この人があんたを狙ってんの。 部長が、先輩はするするうまく避けてるとか言ったけど。
 ……分かって避けてる訳じゃなさそう。

 ただちょっと、距離が近いかな? くらいで離れてるだけっぽい。
 背中に手を置かれても、別に平気な顔してるし。


 …………ダメだこの人、鈍すぎる。
 部長、オレ、絶対守りますから。

 遠い部長に、誓いつつ。
 オレは先輩の隣に並んだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

ホントの気持ち

神娘
BL
父親から虐待を受けている夕紀 空、 そこに現れる大人たち、今まで誰にも「助けて」が言えなかった空は心を開くことができるのか、空の心の変化とともにお届けする恋愛ストーリー。 夕紀 空(ゆうき そら) 年齢:13歳(中2) 身長:154cm 好きな言葉:ありがとう 嫌いな言葉:お前なんて…いいのに 幼少期から父親から虐待を受けている。 神山 蒼介(かみやま そうすけ) 年齢:24歳 身長:176cm 職業:塾の講師(数学担当) 好きな言葉:努力は報われる 嫌いな言葉:諦め 城崎(きのさき)先生 年齢:25歳 身長:181cm 職業:中学の体育教師 名取 陽平(なとり ようへい) 年齢:26歳 身長:177cm 職業:医者 夕紀空の叔父 細谷 駿(ほそたに しゅん) 年齢:13歳(中2) 身長:162cm 空とは小学校からの友達 山名氏 颯(やまなし かける) 年齢:24歳 身長:178cm 職業:塾の講師 (国語担当)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...