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◇兄貴の差し金

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 ――――……兄貴との電話、長ぇな……。
 もう先に寝ちまうか。

 新幹線が発車して、景色が流れ出すと、なんとなくぼんやりと、外を見つめる。

 何でオレ、ここに先輩と居るんだ。
 2時間前までは思いもしなかった事態。

 こっから取引先行くまではいいけど――――……。
 その後一緒に食事すんの? 旅館まで一緒に行くのか? 
 部屋は別として――――……それにしたって、2人きりの時間が、長い。


 はーー。とため息をついたその時。
 先輩が戻ってきた。


「――――……おかえりなさい」
「あ、うん。――――……あのさ、三上」
「?」

「今志樹と話してさ」
「……はい」

「全部ばらして良いって話になったから――――……話、聞いてくれる?」
「――――……」


 全部ばらして良いって話になったから……??

 なんのことやら、全然分からない。


「話が全然見えませんけど……聞きますけど……」
「うん。だよな」

 そう言うと、陽斗先輩は、不意に。突然。前触れもなく。くす、と笑った。


 ……は――――……?


 なんかものすごい、自然に笑ったけど。

 いつもの無表情、どこ行った?


「三上、怒んなよ? 怒るなら志樹に怒れよ? って志樹も言ってたし……」
「――――……何がですか?」

 全然分からない。


「オレが三上の教育係引き受けた時さ。志樹に、これだけは絶対に守れって頼まれた事があって」
「……はい」

 なんかもう、こんな話で兄貴が絡むとろくな事がない気がする。
 いやーな汗が手を湿らす。

「ぜっったいに、褒めるなって、言われたんだよ」
「――――………………は?」

 ぽかん、と口、開いてしまう。


 ……ぜったいに、ほめるな??


「褒めると調子に乗るから、一切ほめるな、ひたすら仕事を詰め込んでいいからって、頼まれて――――…… オレ、最初は嫌だよって、散々言ったよ? でも、志樹が社長を引き継ぐ時、ある程度は蒼生にも任せたいから、とにかく一刻も早く、って頼まれて……」

「――――……」


 ……何を言ってるんだか、良く分からん。


「オレは、むしろ後輩は褒めて育てたいから、ほんときつくてもう最悪で」

 ……そうだよな。あんた、他の奴のことは、ほめるもんな。

 明らかに、オレより仕事遅くて、出来もイマイチな奴らを、それでもあんたは褒めて伸ばしてる。 こないだより早くなったとか、書類の形式が整ってきた、とか、誤変換がなかった、とか。 いいとこ見つけて褒めてる。

 あんたが、冷たかったのは、オレにだけ。


「……だから、そんなの絶対無理って言ったんだけどさ」
「――――……」

「――――……志樹に、お前にしか頼めないって言われて。結局しょうがないって事になって……」
「――――……」


「……でも、普通に仲良くなったら、オレ絶対褒めちゃうけどって言ったら、とりあえず2年間は、仲良くとかしなくていいから、仕事覚えさせろって。……それで三上が病んだらどーすんのって言ったら、志樹が、あいつはそんなヤワなメンタルしてねーからって言うしさ。 でも、三上がほんとに病んできたら、その話も全部無しで、オレは褒めるからって言ってたんだけど……」

「――――……」

「お前、ほんと、メンタル強くて、オレが全然褒めなくても、仲良くしなくても、なんか普通の顔してるし、仕事もどんどん覚えて、期待してるよりもずっと早く仕上げてくるし。――――……だから、とりあえず心を鬼にして、2年間、頑張ってきたんだよ」

「――――……」

「……であと少しで2年だし、もうそろそろいいだろって言ってた所で、2人で出張だしさ。 思うように話が出来ないのも、限界だと思って、今さっき志樹に、もういいだろって電話して。 やっと、OKってもらえた」

「――――……」

「…………んだけど。 三上、聞いてる?」


「……聞いて、ますよ。……聞いて、ますけど――――……」



 ……何だ?


 ……褒めなかったのも、話をしなかったのも、兄貴の依頼??

 そんなバカな事ってあるかよ?




 あのくそ兄貴……。


 話は分かったような分からないような、まだ大分納得いかないことだらけだが、とにかく、あのくそ兄貴に対して、フツフツと、言いようのない怒りだけが湧いてくる。







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