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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「好きだけど」

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「仁が幸せかどうかは、仁が決めるだろ」
「――――」 

「仁がお前と居たいから好きだっつってんのに、お前が勝手に考えて、拒否るのは違うだろうが」
「――――」

「分かってるだろ?」


 ……分かってるけど。
 ……でも。……考えちゃうんだよ。

 他の人との方が、まっすぐ、幸せになれるんじゃないかなって。
 でもって、その部分、かなり大事な部分でさ……。
 
「それに、仁の話なんか、もうどっちかしかないし。お前を諦めるって話か、諦めないって話か。どっちかだろ」
「――――」
「……そんで、お前は?」
「――――」

「……仁に何を言われるかは関係ねえぞ。お前は、仁に何て言いたい?」
「――――オレは……」

 そこで、何も言えずに口を閉ざす。

「仁の事、好きなの? 好きじゃねえの?」
「……好き……だけど」

「兄弟に戻りたいの、戻りたくねえの?」
「……戻れるなら……戻った方がいいと思う」

「……戻れんの?」
「……戻りたい、んだけど……」

 また黙るオレに、寛人は腕を組んで、斜めにオレを見つめる。

「……ほんとに戻れんの? お前、再会してから、仁の事好きだってほぼ認めてたじゃんか。 完全にその気持ち無くせねえなら、無理だと思うけど」

 現実をまっすぐ、突き付けられると。
 もう。

 ……めっちゃ辛いし。


「――――…寛人……」
「ん?」

「オレ、もう、何も考えずに、兄弟がいい……」

 ぱたん、とテーブルに倒れる。

「あほ彰。倒れんなよ……」

 はー。
 寛人はまた、ため息。

「だって……もーだめ……。……オレもう、何も考えたくないかも」
「駄々っ子か……」

「……だって……」

 ……好きだよ。
 何も考えなければ、仁のことが好き。

 仁と、二人きりの世界で、仁と二人だけで生きていけるなら、迷わず好きって言うよ。

 ……でも、そんな事あるわけないし。
 ………だったら言えるわけないじゃん……。

 しかも。
 ――――他の男と、してたの。

 ……仁が、許してくれる気が、しないし。

 ほんと、もー、何も、考えたくない……。

「お前、なんかマジで、駄々っ子化してンな……」

 寛人が苦笑い。

「もうさ。諦めて、全部話してくれば? それでダメならもう諦めれば」
「……全部なんて言える訳ないじゃん……ていうか、仁、弟になるって、いったし」

「はー…… お前なあ……」

 その時。
 テーブルに置いておいた、オレのスマホが震えだした。

 ディスプレイには、仁の名前。
 ――――出れない。

「……出ろよ」
「……今むり」

「……出ろって」
「……むり……」

「……オレ、出るぞ」
「えっ?」

 びっくりしてる目の前のスマホを取られ、本当に寛人が電話に出てしまった。

「もしもし、仁? あぁ、オレ。……んー。彰、ちょっと用事があって、オレんち来てる。 仁、入学おめでと。入学式終わったとこか?」

 ――――勝手に、出ないでよ……。
 ……寛人……。

 どうせ奪い返そうとしたって、届かないし。
 ……無駄だと諦めて、見守っていると。

「仁は今から帰るけど、彰は何時に帰ってくる?だって」
「――――」

 何時。……何時だろう。

「……迎えに行く?て聞いてるけど?」

 迎えは要らない。
 ぶるぶると首を振る。

「じゃあ何時に家につく?だって」
「……っ……夕方……までには帰る」

 言うと、寛人がそれを仁には伝えず、は?という怪訝な顔。

「……いますぐ帰れよ」
「……」

 ブルブル。首を振る。

「はー。 ……ああ、仁? 彰、飯あんま食ってないみたいで、なんか痩せたみたいだからさ。 とりあえず、昼だけはめっちゃ食わせて帰らせるから。あと今、悩みすぎて、駄々っ子みてえになってるから」

「……っっっっ」

 寛人……っっ。
 今のセリフ全部取り消して……。

 なんてことを言うんだと、どん引きして見つめると。
 寛人はもう、すごく可笑しそうに笑いながら。

「ん? ああ。――――彰、電話、代わってだって」

 ……代わりたくない。
 こんなことを告げられた仁と話したくないけど、これ以上、寛人と話させていると、次何を言われるれのか……。

 スマホを寛人から奪い返すためにも、仕方なく、出ることにした。

「……もしもし……」
『……痩せたってほんと?』

「……全然。大丈夫」

 少しの沈黙。

『……なあ、彰、オレ、待っててって言ったよね?」
「――――」

 また少し、黙った後。

『……何で、片桐さんとこ、逃げんだよ』
「――――え」

『……っ……やっぱ、ムカつく――――はー……』
「仁……??」

『……もう無理。――――彰』
「――――」

『帰ってきたら―――…… 今度こそ、とことん、話すから。オレ、夕飯買って帰る。そっちで昼、ちゃんと食ったら、どこにも寄らず、まっすぐ帰って来いよ。分かった?』

「――――うん……」

 あんまりに、きっぱりはっきり言われて、もう頷くしかなく。
 じゃああとで、と電話が切れた。

「――――」

 なんとも言えない。

「早く帰れって?」
「……昼ご飯食べたらすぐ帰れって」

「じゃもう食べようぜ」
「――――なんか仁に……ムカつくって言われた」

「ん? 何が?」
「何で寛人んとこに逃げんのって……」

 寛人は、ぷ、と笑って。

「正直だな。いいんじゃね?」

 クスクス笑いながら、寛人が食事を広げ始めて。
 手伝いながら。

「……やっぱりオレ、かえり……」
「帰りたくないとか言うなよ」

「――――」

「……もう良いじゃん。 隠し事が無くなってちょうどいいだろ。先に全部バレて良かったんだよきっと」
「――――」

「……あとは、お前が、どーしたいか、だろ。 話せ。 死ぬほど話してこい」
「――――はー……」

 もう。
 話す前から、全精力、奪われてるのに……。
 死ぬほど話すか……。


 憂鬱すぎて全然食欲ないのに、寛人に無理やり食べさせられて。
 ますますぐったりなランチタイムだった……。


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