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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「熱い」

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「――――彰……」

 絞り出すみたいな、声。
 仁の手が、オレの手首に触れて。ぐ、と握られた。

「――――っ……?」

「……ごめん、彰」
「――――」

 仁から漏れた言葉に、一瞬で色々浮かぶ。

 ……なにが、ごめん……?
 何を謝っているのか、色々考えて、でもよく分からない。

「今、時間無くて、行かなきゃいけないから……――――あとで話そう」
「――――」

「……終わったら、すぐ帰ってくるから」

 そう言って。手を離すと。
 仁は、出て行った。


「――――」


 あの日以来。

 初めて、顔、見た。 触れた。
 声、聞いた。

 スーツ。似合ってたなー……。
 ――――すごい、カッコいいし。

 ……モテるだろうなー。ほんと。

 こないだ父さんが話してた、仁のお父さんの話。
 スーツ姿が、男でも見惚れる位カッコよくて、とか。言ってたなあ。

 ……うん。なんか今、すごく納得した……。

 なんて、ぼんやりと。
 とりとめのなさすぎる事を、ぼーー、と考えながら。


 仁に掴まれた手首を、何となく、自分で掴んだ。

 仁に触れられてた場所が。
 何だか、熱いような気がして。

 そんな訳ないのに。でも、ここだけ、何でなのか、すごく、熱い。
 

 ――――なんかもう。
 どうしたらいいか、分からない。


 何が、ごめん、なんだろう。
 ――――仁が何を、謝る事があるんだろ。


 立ち上がって、自分の部屋に戻ると、スマホを手に取った。


「――――」


 ごめん、いつも。どうしようもなくなると、話したくなる。
 先に心の中で謝って置いて、そうしながら、発信ボタンを押した。


『……もしもし彰?』

 いつも通りの声に、安心してしまう。

「寛人、おはよ……ごめんね、寝てた?」
『ん、はよ。平気。――――朝からどーした?』

「……今日暇?」
『明日から学校だから、何となく今日は暇な日にしたけど……』

「……寛人んち行っていい?」

 一瞬寛人が黙って。

『いーけど…… オレがそっち行こうか?』
「いい。オレ、ここから離れたい……」

『……は? ――――ああ、もう、いいよ。こっち来い。あ、昼飯なんでも良いから買ってきて?』
「うん、買ってく。すぐ行って良い?」
『いーよ、待ってる』

 待ってる、と言ってくれたので。
 すぐに準備をして、家を出た。


◇ ◇ ◇ ◇


 寛人の家についてチャイムを鳴らした。
 ドアが開いて、オレの顔を見た瞬間、寛人は眉を寄せた。

「……なんか、ちょっと痩せたか?」
「――――んー……あんま食べてないから……そーかも」
「お前なー……」
「だって食欲あんまり無くて……」

 寛人が、はあ、とため息。

「何買ってきた?」
「色々。お弁当とかおにぎりとかサンドイッチとか唐揚げとか、サラダと、春雨スープとか、なんか色々買った……残ったら夕飯に食べて?」
「いくら?」
「要らない。話し聞いてもらうから」

「……お前、後で昼、ちゃんと食うって約束しろ」
「……うん、食べる」

「あと、今日からちゃんと飯食え。約束しねえなら話聞かねえぞ」
「……うん。分かった、食べる」

 心配されてるのが分かるので、素直に頷くと。
 寛人は、ふ、と苦笑い。

「ん、よし。――――座んな?」
「うん」

 中に入って、テーブルに買ってきたものを置いて、椅子に腰かけた。


「……で? どーした? やっと仁と話したか?」

 ううん、と首を振る。あれ?という顔の寛人。

「話したから来たんじゃねえの?」
「……朝、会っちゃって――――そしたら、何か…… ごめんって言われて。今日入学式だから……帰ったら、話そうって」

 ふうん、と、寛人が首を傾げる。

「……話してから、ここに来れば?」
「……話す前に、寛人と話したくて」

「――――はいはい。どうぞ。何を話したい?」

 寛人が、片肘をついて、顎に手を置いて。
 じっとオレが話し出すのを待ってる。

「……オレさ」
「うん?」

 話し出したけれど。
 ――――何を話していいのか、よく分からない。

 もう何だか、仁と話すのが怖くて。
 寛人の顔見たかっただけな気がしてきた。

 仁と話す前に寛人と会って、なんか、落ち着きたかった。


「……オレってさ、今日、仁と、何、話すんだと思う……?」
「――――」

 寛人が目の前で、がく、と崩れた。


「お前――――あれ、オレの親友、いつからこんなにバカだっけ……?」

 深い深いため息を、つかれてしまう。


 うう。寛人、ごめん。
 ――――でもほんと、何話すのか分かんなくて。

 
 どうしようもなく怖くなって。
 あそこに居たくなくて、逃げてきちゃったから……。



『ごめん、彰』

 そう言って、掴んできた、手の感触。
 まだ、残ってる。


 結構な日数離れて。少し薄れて来てた色んな感情が。
 一瞬で、戻ってきて。

 ――――心ん中、全部、揺さぶられる。
 

 もうほんとに。そういうの全部が ……怖い。



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