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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「上書きって」

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 嫌っていうほど……――――静かな空間。
 どう、しよう。

 なんか、仁――――静かだけど、少し、怖い。

「彰、今日あいつとしか会ってないんだよね」
「うん……」

「……あいつが、つけたの?」
「――――」

「彰、あいつと……なんなの?」

 なんかもう――――今はどんな嘘言っても、だめな気がする。
 もう……これについては、正直に言おう。 
 じゃないと、どんな誤解されるか……。

「……オレ、ほんとの事だけ、言うから。信じろ、よ?」
「――――うん」

「……亮也が、ふざけた、んだよ」
「――――ふざけた?」

 仁の視線が余計きつくなる。

「ふざけてキスマークなんて……」

「だから…… 仁が、亮也に態度悪かった、から」
「――――」

 自覚はあるのか、仁が、少し静かになる。

「……キスマークつけて帰ったら、どんな反応するだろ、とか言い出して……」
「――――何それ、 オレがどんな反応すると、思ってたの」

「だから……分かんないから、試そうみたいな…… オレ、賛成してないからな。……見せる気、無かったし」

 そこまで話したら。
 仁はやっと、手首を離してくれた。ホッとした瞬間。

「……彰、あいつと、キス、した事ある?」
「え?――――何それ?」

 とんでもない質問に、ぽかん、と口を開けてしまう。

 バレるような事、してない。
 ……バレるはず、ない。落ち着け、オレ。

「こないだ彰が酔って帰った時……水飲ませたら少し零れて……だから拭ったら――――彰、多分、キスされたと思ったみたいで……」

「――――?」

「そん時、亮也て……言った」

 仁の言葉に、動けなくなる。

 ――――何それ。
 全然何も覚えてない。でもそんな覚えてもいないことで、この関係を壊すわけには、いかない。そう思って、口を開いた。

「オレ覚えてないけど…… 亮也、仲良いから……なんか夢に出てきただけだと思うけど…… オレ、寝てたんだろ? キスしたと思ったかどうかなんて、分かんないじゃん……」

 ――――それで、あの後……怒ってたの?
 「亮也」が来たから、店でも怒ったの?

 ……ていうか―――― それで怒るって……。


「キスマークは、ほんとにそういうこと?」
「……うん。ほんと」

 ――――信じて、くれたかな?
 ……大丈夫かな……??

 ……って、大丈夫って。
 オレは、なんで、こんなことばかり――――気にして……。

「――――彰」
「?」

 一度離された手を、再度、掴まれた。

「……仁?」

「――――キスマーク……ふざけて、とか……意味分かんないんだけど」
「あー……うん、オレも、分かんない」

 ほんとに。……亮也のバカ。


「あのさ。じっとしてて」
「え――――なに……?」

 掴まれた手首を開かれて。
 仁の頭が顔の下に急に来て。

「なに……っあ……!」

 びくん。と、体が震えた。

「……っ……な、にして……」

 動揺と、ジンジンした痛みと熱さを残して、仁が、離れた。

「ふざけてつけたんだろ、それ」
「――――」

「だからオレも、ふざけて上書き。……いいよね?」

 ……っ……良くない、っつの……。
 
 仁が、吸い付いたとこから、熱が、広がってく。

 ぎゅ、とそこを押さえてると。

「……なあ、彰」
「――――」

「……ふざけてでも、もうそんなの、つけさせないで」
「――――」

 全然ふざけてない、まっすぐな瞳で見つめられて。
 有無を言わせない、口調で、そう言われて。

「……ん……」

 頷いた。けど。

 ……もう――――仁。
 ほんとに…… 意味が分かんないよ……。

 なんかもう―――― 不安定すぎて、泣きそうな、気分。


「……仁……あのさ……」
「――――うん?」

「―――― オレへのこと…… 勘違いだったって……言った……よな?」

 すぐ、そうだよって、言って欲しかった。
 勘違いだったって。言ってもらって、全部ここで、断ち切りたくなって。

 絶対聞けないと思っていたことを、いきなり聞いた。
 自分でも、少し驚いた。

 その質問に、仁は、一瞬驚いた顔を見せたけど――――。
 じっと、見つめ返してきて。

「――――そう聞いて、彰は、嬉しかったんでしょ?」

 低い声で、そう言った。

「――――え?」

 ――――何、その答え……。

「……ほっとしたんでしょ? ……だから一緒に暮らしてくれたんだろ?」
「――――」

 ――――そりゃ……。
 二年ぶりに会ったあの時に、前と同じように迫られたら……。

 絶対、一緒になんて、暮らしてない、けど。

「オレは、彰と、やり直したかったんだよ……」

 仁は、まっすぐに、オレを見つめてきて。そう言った。
 何も言えず、ただ見つめあう。

 しばらく見つめあっていると。
 仁は、ふ、と息をついた。

「彰、もう、手、洗ったの?」
「え? あ……うん、洗った」

「紅茶は? 飲む?」
「え……うん……」

「用意しとく」

 言って、仁が、消えていった。

 ――――どういう意味だよ。

 今、勘違いだったって、言ってくれたっけ……?
 ……嬉しかったか聞かれて…… やり直したかったって……。

 どういう意味か、よく分からない。

 さっき、触れられてたとこ。

 掴まれてた手や。キスマークをつけ直されたとこ。
 ――――やたら、熱い。



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