77 / 125
◆Stay with me◆本編「大学生編」
「キスマーク」
しおりを挟む「オレ、そろそろ帰るね」
「ん。あ、片付けいいよ」
「でも少しだけ」
立ち上がって、テーブルの上のごみや、自分のグラスを持って、キッチンに向かう。
「なあ」
一緒に立ち上がって、オレの隣に立った亮也を、ん? と見上げる。
「何?」
「何であいつ、あんなにオレの事嫌がったのかな」
「……うーん……亮也がオレに触ってたから……?」
「触ったっけ?」
「顔上げさせる時。ちょうどその後、仁、来たんだよね……」
「――――じゃあやっぱり彰は、オレがお前の事触ったから怒ったって思ってるって事?」
「……だってそこしか、ないんだもん。よく分かんないよ。その前に、男友達が来るって言った時は機嫌良かったのに」
「――――やきもちなのかな?」
「……でも、女の子のキスマークに反応しないのに、男が顔触った位でって……逆におかしくない? だからやっぱりそういうんじゃないのかも……」
「うーん……なあオレと今居るって、知ってんだよな?」
「え? うん、知ってるよ」
「……ちょっとだけ我慢してて」
「え?――――え」
手首を取られて、開かれて。
「痛……っ」
きわどい所に吸い付かれて――――キスマーク、付けられたと悟る。
「っ……っ何してんだよっ」
「はは、ごめん、怒んないで。いいじゃん、いまさらオレがつけるキスマーク一個増える位」
「そんな事言ってんじゃなくて、何のつもり――――」
は、と気付いて、固まる。亮也がニヤ、と笑う。
「弟に見せてみ?」
「……絶対ぇ見せない」
「だってオレと居るの知ってるのに、キスマークつけて帰ってきたらさ。どんな反応するか見たいじゃん?」
「――――ていうか、キスマークは、もう前に……」
「だから、それは女の子だろ? 今日のは、オレかもって、思う訳じゃん?」
「――――なんか、悪趣味……っ」
睨むと、亮也は、そう?と笑う。
「だってさ、何かきっかけがないと、動かなそうなんだもん。まんまとひっかかってくれたらいいけどなあ?」
「……絶対見せないから」
「ちえ。つまんない」
「つまんないじゃないっつの! ほんとに……」
そんな攻防を経て、亮也のマンションを後にして。
途中のお店で、美味しそうなプリンを買った。
で、今、自分のマンションの、部屋の前。
ボタンもいっこ上に止めた。ここからなら絶対見えないはず。
大丈夫。
酒も、飲みすぎてないし、普通。
「――――」
うん。普通に過ごす。
バイト、忙しそうだったな、とか、話して。
美味しかった、とか、話して。
プリンも一緒に食べよ。
それで、シャワー浴びて、今日はもう、酒飲んで眠いからって、布団に入ろう。よし、完璧。
仁と会った後のシミュレーションを終えて。
――――何してんだ、オレ。なんて、そんな風に思いながら、鍵を開けて中に入った。玄関の電気をつけて、靴を脱いでる所に仁が迎えに出てきた。
「彰お帰り」
「ただいま。ご飯は? 食べた?」
「ん。さっき食べ終わったよ。今片付けてたとこ」
「そっか」
「彰は? どこで食べたの?」
「オレは……友達んちで、軽く食べた」
「飲んでる?」
「うん。少しだけな? ん。これ。プリン」
「……プリン?」
「カフェオレのお礼……オレのもあるけど」
笑いながら言うと、プリンの入った袋を覗いて、仁も笑う。
「ありがと。 一緒に今食べる?」
「うん。食べる。手、洗ってく」
「ん。何か飲む?」
「オレ、水でいいよ」
「了解」
仁がリビングに。オレは、洗面所に入る。
うん。――――普通、だな。
大丈夫そう。 よかった。
――――何だかな。
……仁の機嫌とか……態度とか。
勝手に、感情揺さぶられて――――。
普通に過ごせるだけで、ホッとするとか。
馬鹿だな……オレ。
仁がオレのことを今でも好きか、聞いちゃえばって。
――――亮也てば、簡単に言うけど。
……できるわけない。
キスマーク……見えないよな?
鏡で首元を写す。
今見えないけど、どこだっけ……。
ぷち、とボタンを外して、ああ、ここか。ここならしめとけば絶対見えないや、と思った瞬間、だった。
「彰、オレ、紅茶入れるけど、飲む?」
急に、仁が顔をのぞかせた。あまりにびっくりして。
びくっと大きく震えてしまって。咄嗟に外したボタンを、きゅ、と合わせた。
「――――なに?」
眉を寄せた怪訝そうな顔。少し首を傾げて。
何を思ったのか、仁が、オレの手を掴んだ。
「何隠したの?」
「――――何でもない、隠したわけじゃ……」
「見せて」
ボタンを合わせていた手を外されて、開かれる。
「――――」
しばらく、無言。
「――――誰の、キスマーク?」
つかなんか――――もう。
亮也の、バカ……!! オレもバカ!!! 開けなきゃよかったのに……!
眩暈が、してきた。
21
お気に入りに追加
645
あなたにおすすめの小説
上司と雨宿りしたら、蕩けるほど溺愛されました
藍沢真啓/庚あき
BL
恋人から仕事の残業があるとドタキャンをされた槻宮柚希は、帰宅途中、残業中である筈の恋人が、自分とは違う男性と一緒にラブホテルに入っていくのを目撃してしまう。
愛ではなかったものの好意があった恋人からの裏切りに、強がって別れのメッセージを送ったら、なぜか現れたのは会社の上司でもある嵯峨零一。
すったもんだの末、降り出した雨が勢いを増し、雨宿りの為に入ったのは、恋人が他の男とくぐったラブホテル!?
上司はノンケの筈だし、大丈夫…だよね?
ヤンデレ執着心強い上司×失恋したばかりの部下
甘イチャラブコメです。
上司と雨宿りしたら恋人になりました、のBLバージョンとなりますが、キャラクターの名前、性格、展開等が違います。
そちらも楽しんでいただければ幸いでございます。
また、Fujossyさんのコンテストの参加作品です。
つぎはぎのよる
伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。
同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる