上 下
72 / 125
◆Stay with me◆本編「大学生編」

「ほんと鋭い」

しおりを挟む



 一緒に買い物をして亮也の家に帰り、しばらく色々話して過ごした。
 夕方になってきたので、飲む準備に、つまみを作り始める。

「オレ餃子焼くから。彰は、皿とか枝豆とか出しといて」
「うん」

 言われるまま手伝う。
 動きながら。仁の事を思い出す。

 十八時まで、か。
 仁、ご飯は食べとくって言ってたけど……。
 早く帰ってきてって、言ってたな……。
 仁の言った、早くって……何時だろ。

 今十七時だから……とりあえず、しばらく飲んで――――。

「彰、枝豆はレンジでいーよ」
「ん、分かった」

 冷凍庫から買ってきた枝豆を取り出して、皿に並べてレンジに入れる。

「彰、なんか、ごはんとか麺とか食べたい?」
「いいや。つまみだげで」
「ん。もうすぐ焼けるから、酒出しといて」
「うん」

 冷蔵庫を開けて、アルコールをテーブルに置いた。 
 一通り準備が終わって、テーブルで亮也と向かい合う。

「はい、かんぱーい」
「んー。かんぱい」

 グラスを合わせて、少し飲む。

 今日は酔わないで帰ろ……。
 密かに少しセーブしながら、亮也と飲んでいたら。

「彰、酔わないようにしてる?」
「ん? ……ああ。うん。ちょっと」
「何で?」
「こないだ酔っぱらったって言っただろ?」
「いいじゃん、別に酔っぱらっても。介抱するよ?」

 亮也の言葉に少し苦笑して。

「そんな酔っぱらってばっかりいれない。明日塾だし。今日は少し早く帰るから」

「ふーん。…… 弟に、早く帰れって言われた?」
「――――ん??」

 あの会話、聞こえるとこには居なかったと思うんだけど……。
 首を傾げて、亮也を見つめると。亮也は意味ありげに、ふ、と笑って。
 グラスをテーブルに置いた。

「なあ、オレさ、会った日からお前の事誘ったじゃん?」
「……うん」

「で、ずーっと誘い続けて、何回目かでOKくれたじゃん?」
「……ん」
 
「それで何回か関係もってからさ。オレがお前に、付き合ってみようぜって言ったの覚えてる? 付き合おうって言ったの、こないだは二度目じゃん?」
「……覚えてるに決まってるじゃん」

 何が言いたいんだろ。
 亮也を見つめていると。ふ、と亮也が笑んだ。

「お前女とも関係あったけど、そっちとも付き合わないみたいだったし。付き合おって言ったオレに、そん時、自分がなんて言ったか、覚えてる?」
「――――」

 オレがなんて言ったか……??
 ……なんだっけ。

「彰が言ったのはさ…… オレを好きな奴を置いて逃げてきたから、自分だけ誰かと付き合ったりできない、って、そんなような事言ってた」
「ああ……言ったかも……」

 ――――付き合えないと言っても、納得してくれない亮也に、本当の事を、少しだけ伝えた、のかも。

「セックスはいいのって聞いたら――――そこまで縛られたくない、って言ってた」
「…言った、かな……よく、覚えてるな……」

 亮也は、ぷ、と笑う。

「変な事言うなぁって思ったんだよ。だからすごく覚えてる」
「――――」

「そんなに後悔する位好きなら、逃げなきゃいいのにって。なんで逃げたか聞いたけど、それは言いたくなさそうだったしさ」
「――――」

「でもオレお前気に入ってたし。変な事言ってるけど、それも含めて、まあいっかと思って」
「――――」

「そんな関係が嫌だっていうならやめようって、お前はオレに言ったけど、 オレ、やめるっていうのは選択肢になかったんだよね」

 なんだか何も、答える言葉が思いつかず、ずっと亮也を見つめながら、小さく頷くだけ。

「お前が結局誰のものにもならないなら、とりあえずオレがお前の一番近くに居ればいいやって、思ったんだよな……」

 そんな風に、亮也が思っててくれたのは、初めて聞いた。
 なんて答えようかと思っていたら、亮也が、ふー、と息をついた。

「……でもオレ、今日分かっちゃった、かも……」
「――――?」

「逃げてきたの――――あの、弟なんじゃない?」
「――――」

「それなら、逃げてきた理由も、さっき、すげえ睨まれた理由も……納得なんだよな」

 鋭いのは、知ってるけど――――。
 普通ならありえない、そんなとこに気づくなんて、やっぱりすごいな、なんて。ぼんやり思ってしまう。

 否定する気も、もはや起きなかった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完)そんなに妹が大事なの?と彼に言おうとしたら・・・

青空一夏
恋愛
デートのたびに、病弱な妹を優先する彼に文句を言おうとしたけれど・・・

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。

あおい
恋愛
貴方に愛を伝えてもほぼ無意味だと私は気づきました。婚約相手は学園に入ってから、ずっと沢山の女性と遊んでばかり。それに加えて、私に沢山の暴言を仰った。政略婚約は母を見て大変だと知っていたので、愛のある結婚をしようと努力したつもりでしたが、貴方には届きませんでしたね。もう、諦めますわ。 貴方の為に着飾る事も、髪を伸ばす事も、止めます。私も自由にしたいので貴方も好きにおやりになって。 …あの、今更謝るなんてどういうつもりなんです?

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

(完)お姉様の婚約者をもらいましたーだって、彼の家族が私を選ぶのですものぉ

青空一夏
恋愛
前編・後編のショートショート。こちら、ゆるふわ設定の気分転換作品です。姉妹対決のざまぁで、ありがちな設定です。 妹が姉の彼氏を奪い取る。結果は・・・・・・。

不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに【魔法学園編 突入☆】

はぴねこ
BL
魔法学園編突入! 学園モノは読みたいけど、そこに辿り着くまでの長い話を読むのは大変という方は、魔法学園編の000話をお読みください。これまでのあらすじをまとめてあります。 美幼児&美幼児(ブロマンス期)からの美青年×美青年(BL期)への成長を辿る長編BLです。 金髪碧眼美幼児のリヒトの前世は、隠れゲイでBL好きのおじさんだった。 享年52歳までプレイしていた乙女ゲーム『星鏡のレイラ』の攻略対象であるリヒトに転生したため、彼は推しだった不憫な攻略対象:カルロを不運な運命から救い、幸せにすることに全振りする。 見た目は美しい王子のリヒトだが、中身は52歳で、両親も乳母も護衛騎士もみんな年下。 気軽に話せるのは年上の帝国の皇帝や魔塔主だけ。 幼い推しへの高まる父性でカルロを溺愛しつつ、頑張る若者たち(両親etc)を温かく見守りながら、リヒトはヒロインとカルロが結ばれるように奮闘する! リヒト… エトワール王国の第一王子。カルロへの父性が暴走気味。 カルロ… リヒトの従者。リヒトは神様で唯一の居場所。リヒトへの想いが暴走気味。 魔塔主… 一人で国を滅ぼせるほどの魔法が使える自由人。ある意味厄災。リヒトを研究対象としている。 オーロ皇帝… 大帝国の皇帝。エトワールの悍ましい慣習を嫌っていたが、リヒトの利発さに興味を持つ。 ナタリア… 乙女ゲーム『星鏡のレイラ』のヒロイン。オーロ皇帝の孫娘。カルロとは恋のライバル。

大事なのは

gacchi
恋愛
幼いころから婚約していた侯爵令息リヒド様は学園に入学してから変わってしまった。いつもそばにいるのは平民のユミール。婚約者である辺境伯令嬢の私との約束はないがしろにされていた。卒業したらさすがに離れるだろうと思っていたのに、リヒド様が向かう砦にユミールも一緒に行くと聞かされ、我慢の限界が来てしまった。リヒド様、あなたが大事なのは誰ですか?

都合のいい女は卒業です。

火野村志紀
恋愛
伯爵令嬢サラサは、王太子ライオットと婚約していた。 しかしライオットが神官の娘であるオフィーリアと恋に落ちたことで、事態は急転する。 治癒魔法の使い手で聖女と呼ばれるオフィーリアと、魔力を一切持たない『非保持者』のサラサ。 どちらが王家に必要とされているかは明白だった。 「すまない。オフィーリアに正妃の座を譲ってくれないだろうか」 だから、そう言われてもサラサは大人しく引き下がることにした。 しかし「君は側妃にでもなればいい」と言われた瞬間、何かがプツンと切れる音がした。 この男には今まで散々苦労をかけられてきたし、屈辱も味わってきた。 それでも必死に尽くしてきたのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか。 だからサラサは満面の笑みを浮かべながら、はっきりと告げた。 「ご遠慮しますわ、ライオット殿下」

処理中です...