上 下
67 / 125
◆Stay with me◆本編「大学生編」

「自由な人達」

しおりを挟む


 今日は、仁は、十四時からのバイトなので、昼を食べたら出ていった。
 午前中、一緒に買い物行った時に、夕飯はカレーライスが良いって言っていたので、仁が出てすぐ作り始めて煮込み中。もうすぐできあがる。 

 ……暇。

 仁が来る前、自分が何してたか、少し考えてみる。

 ――――女の子達と遊んでたり。亮也と会ってたり。他の友達と遊びに行ったりも、してた。
 セフレの子達だって、別にそういう事だけしてた訳じゃなくて、遊びに出かけたり、ご飯食べたりもしていた。一人で過ごしてた訳じゃない。ていうか、むしろ色んな人と会ってた。

 なのに。なんか、仁が来てから、オレ、仁だけになってる気がする。

 大学生になる、弟。
 別行動なんて当たり前。……ていうか、一緒に動く事自体、普通そんなにないんじゃないかと思うのに。

 ――――一緒に居たいというのか……。
 居なきゃいけないような気になっている、というのか……。

 仁は、今、こっちに知り合いは居ないから、そりゃそうなるかなって気もするんだけど……。

 オレは別にこっちの友達たちと会ってもいいのに。
 誘われても、春休みは忙しいと言い続けて、結局全部断ってしまった。

「――――」

 これが良くない気がしてきた。
 仁だけ、とかの状況にしてるから……。

 仁の事か、考えられなくなってて。
 ……昔と今の仁の事ばっかり……。

「―――― なんか…… おかしくなりそ……」

 ぽそ、と呟いた。
 ……はー、と、テーブルに突っ伏した瞬間。電話が鳴った。ディスプレイを見ながら、通話ボタンを押す。

「……もしもし、亮也?」
『彰?』
「うん」
『今日ひま?』

 ――――ずっと今のまま、一人で居たくないし。
 ……恋人、とかいうのも話さないと。

「いいよ。外で会えるなら。十九時には家に帰るけどいい?」
『ん、いいよ。どこ行く?』

「体動かしたいんだよね。なんか……あ、テニスは?」
『いーよ。三十分後、駅で待ち合せでいい?』
「わかった」

 電話を切って、立ち上がって、カレーを煮込んでいた火を止めた。



◇ ◇ ◇ ◇

 テニスコートをレンタルして、二時間、打ち合い続けた。

「――――すげーいい汗かいた」

 気持ちよかったな。
 やっぱ、こういうのしてないと、ダメだな。うん。

 更衣室で着替えていると、急に、亮也がぷっと笑い出した。

「……何?」
「……お前、ほんと、負けず嫌いだなーと思ったら、笑えて来た」
「亮也だってそうじゃん」
「彰ほどじゃねえよ」

 クスクス笑いながら亮也が言う。

「……なんかすごく楽しかった。ありがと」

「ん。 彰これからどうする? 今十七時前だけど……あと二時間くらい」
「んー……コーヒー飲みにいこ。話したいし」
「いーよ」

 二人で歩きながら、通りがかりのコーヒーショップに入った。

「結構いい運動になったな~」
 首を軽く回しながら、亮也が笑う。

「ほんと。テニスやるの、前に亮也とやった以来かも」
「オレも。あれいつだっけ……」

 言われて、うーん……と考える。

「寒かったから……冬、だったかなあ? 去年だよね?」
「そーかも。 また近々やろうぜ」
「うん」

 頷いて、少しの沈黙。
 水を飲んで口を潤してから、亮也にまっすぐ視線を向けた。

「……あのさ、亮也」
「ん?」
「こないだの話なんだけど――――やっぱりオレ」

 言いかけた所で。亮也が、ふ、と息をついて。

「……分かった。もういいよ」
「え」

「やっぱり無理なんだろ?」
「……ごめん」

「……そっちはとりあえず今は、諦める」
「……ん? とりあえず……?」

 引っかかって、ん?と首を傾げると。
 亮也は、ニヤ、と笑った。

「とりあえず、諦めるけど、いつかその気になるかもしんねーじゃん?」
「――――」

「まだあと二年は、お前と居るしさ」
「――――亮也って……すごいと思う」

 思わず感心して呟いた言葉に、亮也はクスクス笑う。

「そう? 彰と恋人になれないなら、オレ、他のセフレ切んないからね?」
「……そこは好きにしていいよ」

「あと――――オレ、彰とも、セフレがいいな」
「――――」

「どーしてもしたくなったら、オレを呼んで? オレとなら、今更だしさ。気持ちいい事して発散したくなったら、な?」

「亮也……」

 なんだかもう。ここまでくると、笑ってしまう。
 
「……笑ってんなよな、オレは本気。覚えとけよな?」
「……とりあえず聞いとくけど……」

 そこで運ばれてきたコーヒーに口をつけて。
 それから、また、亮也を見上げた。

「亮也、オレと友達になれる?」

 その質問をしたら。亮也は、ふと顔を上げて、オレを見つめた。

「友達って、セフレも入る?」
「……入んない」

「嘘だよ。 呆れんなよ」

 オレの顔を見て、苦笑いを浮かべてから。

「んー……オレにとってはセックスするかしないかだけの違いなんだよな。お前と居ると楽しいから居るんだし。というか、セックスしてても友達だし。しなくなってもそれは変わらない。彰が嫌だっていうなら、しなくても居られるし」
「――――わかった。……ありがと」

 何となく嬉しくなって。ふ、と笑ってしまうと。

「――――まあでも、キスしたくなるけどなぁ、そんな風に笑われると」
「……バカ」

 一言返したオレに、亮也はクスクス笑った。

「もーちょっと自由に考えたら? どーせ人生一回なんだからさ。自分が好きな方、楽しい方でいいんじゃない?」
「……お前は自由過ぎだと思うけど」

「オレと彰を足して割れば、ちょうどいいかもね」

 そんな風に言う亮也に、笑って頷く。


 ――――自由にかー……。

 そういえば、寛人も自由だよな。
 なんか、誰にも侵されない感じ。

 なんでオレの周りには自由な奴が居るんだろ?

 オレも自由に生きれたら――――。
 自由に生きれたら、どーすんだろ……。


 なんて少し色々思いながらも。

 ……無理だなー、オレには。
 
 ふ、とため息をつきながら。
 能天気な亮也の顔を見つつ、いいなー、なんて思ってしまった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

上司と雨宿りしたら、蕩けるほど溺愛されました

藍沢真啓/庚あき
BL
恋人から仕事の残業があるとドタキャンをされた槻宮柚希は、帰宅途中、残業中である筈の恋人が、自分とは違う男性と一緒にラブホテルに入っていくのを目撃してしまう。 愛ではなかったものの好意があった恋人からの裏切りに、強がって別れのメッセージを送ったら、なぜか現れたのは会社の上司でもある嵯峨零一。 すったもんだの末、降り出した雨が勢いを増し、雨宿りの為に入ったのは、恋人が他の男とくぐったラブホテル!? 上司はノンケの筈だし、大丈夫…だよね? ヤンデレ執着心強い上司×失恋したばかりの部下 甘イチャラブコメです。 上司と雨宿りしたら恋人になりました、のBLバージョンとなりますが、キャラクターの名前、性格、展開等が違います。 そちらも楽しんでいただければ幸いでございます。 また、Fujossyさんのコンテストの参加作品です。

つぎはぎのよる

伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。 同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

処理中です...