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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「謎のランチタイム2」

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 もう下手に喋るとろくな事にならないから、無言で食べる。
 食べてる間に、詰まりたくない。

 寛人も仁も、あんまり気にしてる風でもなく、黙って食べてる。 
 ほんと。この空間は一体……。

 ……寛人は、高校時代に、オレと仁の間であった事を知ってる。
 そこまで細かく言ってないけど、好きだと言われて、キスされて、その後、拒絶したって事までは、知ってる。 

 オレが逃げるように実家を出た理由は言ってはないけど、多分悟ってる。

 こっちに来て、恋人を作ってない事も知ってて、セフレみたいな関係を持ってる事も知ってる。
 別に話したくないのに、なんでだか話してる内にバレてしまう。
 
 ……頑なに、亮也の事だけは、言ってないけど。これに関しては、男となんて思いつかないみたいで、問われないから、バレないで居られてる。

 同居する事になった仁との事も、最初は心配して、毎日連絡しろとか言ってたけど、四日目の「大丈夫」を入れたら、その後は何かあったら言ってこい、という事になって、もう日々の連絡はしていない。

 仁との事、昔から今まで、大体の事、知られてはいるけど。
 大変な諸々は、もう、過去の事で。

 今は、ただ一緒に暮らしてて、バイト先の人手不足で、仁にサポートに入ってもらったという事実があるだけ。


 今は仁に関して、何もやましい事なんてないはず、なのに。
 何で、仁と向かい合わせたくないんだろう、オレ。

 食べ物が、何だか、全然、おいしいと感じられない。


「彰、ごめん、立ってくれる? 飲み物入れてくるから」
「うん」

 一度立ち上がって、仁が席から出て行ってから、席に座り、すぐに寛人に向き直った。

「寛人」
「ん?」

「……何、したいの?」

 聞くと、寛人は食べ終わった皿を端にどけながら、ちら、とオレを見た。

「別に? 話したかっただけ」
「……意図は?」
「別に。――――なあ、あいつさ」
「……?」

「超良い男になってんな」
「―――……そう、だね」

「すげえ大人っぽくなってるし。……オレに対する態度は変わってねえけど」

 くくっ、と可笑しそうに笑って。
 それから、ふ、と息をついた。

「……それでも、やっぱ、別人みてえ。……色々悩んだからかな……」
「――……なに、それ」

「別に。――――まだ、彰、て呼んでるんだな」
「……名前は、なんか、それで呼びたいって言うから」

「ふうん……」

 なんかもう、ずっと、何かが詰まったような、話の仕方。

「寛人、何が言いたいんだよ……もう、すごい疲れるから、はっきり喋ってよ」
「――――まだ分かんねえな……」

「っ……分かんないのはこっちだって……」

 ほんとに、意味がわかんないって……。
 
 そこで仁が帰ってきてしまった。
 寛人との話を続ける訳にもいかず、味が良く分からない食事を、とりあえず最後まで食べる。

 食べ終わって、もう、そろそろ帰りたいな……なんて思っていたら、突然。

「あのさ。片桐さんて……」

 仁が、寛人に向けて、話しだして。

「ん?」

 寛人が、まっすぐに仁を見つめる。
 そこで、しばらく、仁は黙った。そして。

「……高校ん時にオレが彰に言った事、知ってるんですか?」

 そう、言った。
 硬直してるオレをよそに、じっと仁を見つめた後、寛人が答える。

「……オレが聞きだした事だけは、聞いたけど。多分彰は全部は話してないと思うから……一部知ってる、が正しいかな」
「――――なるほど……」

 ちら、と仁がオレに視線を向けてくる。

「……あのさ、彰。悪いんだけど…… ちょっと、席外して」
「――――え?」

 仁の言葉に、耳を疑う。
 そんなオレを見て、寛人は苦笑い。

「そうだな。彰、ちょっと外出てて。今日は奢るから、そのまま出てっていいよ。あとで電話するから」

「……は?……寛人まで何言って……」

 え。この二人を残して、オレが外に出るの?

「……嫌、なんだけど……」

 そう言うと、何故かこんな時ばかり意味不明に気が合う二人。

「大丈夫だから」
「大丈夫だって」

 仁と寛人に、同時に言われる。

「え、本気で言ってるの……?」

 もう一度聞くと。

「「本気」」

 ……もう、実はものすごく気が合うんじゃないだろうか。
 ……ほんとに、意味が分からない。

 仕方なく、二人を置いて店を出た。

 けれど。出た瞬間に、戻ろうかと思ってしまう。


 でも、あそこまでそろって出てろと言われたら、戻れない。

 …………。

 意味が、分からない。



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