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◆Stay with me◆本編「大学生編」

「夢」

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 思い出すのは、強い瞳。

 嫌と言うほど、まっすぐに、見つめてくる強い光。


 何もかも忘れて。
 色んなものを全て忘れて、受け入れて、しまいそうな――――……。



 こんなに遠く離れて、
 こんなに時が経っても。


 ――――……思い出す。




 忘れてしまえたら、良いのに。






◇ ◇ ◇ ◇





「……彰……」
「――――……ん……」

「彰、起きれる?」  

 優しく揺すられて、意識が戻る。

亮也りょうや……?」
「大丈夫? 水飲む?」

「……ありがと……」
 ペットボトルを受け取って、体を起こす。

「……ごめん。…… オレ、どれくらい寝てた?……」
「んー。一時間位かな。今十九時。泊まってくなら寝ててもいいよ」
「……今日は帰る……」

 今、夢で見ていた彼の人を振り払うように、軽く頭を振った。

 オレの居るベッドの端に、亮也が腰かける。
 下だけ履いて、上半身はまだ裸のまま。

「帰るの? 泊ってけば?」

 頬に触れてそう言う亮也に、首を振った。

「……明日朝からバイトだから……今日は帰る」

 ――――……とてもじゃないけど。
 あの夢の後には、そんな気分にはなれない。

「……じゃあ途中まで一緒に行く。飯食お?」
「うん」

 ちゅ、とキスされて、頷く。

「シャワー浴びる?」
「……うち帰って浴びる」

「んー……彰の服どこやったかな……あった」

 亮也が笑いながら、ベッドの下の方をあさって、服を見つけて、差し出してくれた。 ふ、と笑って受け取った。


 オレと亮也のマンションは、徒歩で二十分。
 その途中のファミレスで夕飯を食べて、今夜は別れた。 

 一人、マンションまで歩きながら、ふ、と、ため息をついた。


 仁の夢。

 仁が出てきて、何か、言ってる、夢。
 でも、何を言ってるかは、聞こえない。

 ……夢は、久しぶりに、見た。


 起きてる間は、いつも、仁の事を、思う。

 元気にしてるかなとか。
 何、してるかな、何考えてるのかな、とか。

 ……どうしてこんなに、頭から離れないのか。



 高校生になってしばらくして、仁がおかしな事を言い出した。

 好きだ。 彰しか好きになれない。
 本気で、彰が、好きだ。

 突然、堰を切ったように仁から溢れだした、そんな言葉たち。
 思春期でおかしくなったのかと、余裕を持って様子を見てあげられたのは最初だけだった。

 まっすぐに見つめてくる瞳も。掴んでくる手と、キスの熱さも。
 言葉以上に、その気持ちを伝えてきて。
 ――――……それが、もう、どんどんきつくなって。

 いくら、血がつながってないとは言っても。

 オレが五才、仁が三才のときに両親が再婚して、和己が生まれて。
 ずっと、家族五人。三人兄弟として暮らしてきた。


 オレが、仁のものになんて、なれる訳、ない。

 だから、応えられない、諦めてと伝えたあの日。

 最後に、「彰しか好きになれない」と言われて。
 もう、離れるしかないと思った。

 仁が、オレには何も言わなくなったのを救いに。
 受験勉強をひたすら頑張って、成績を上げた。
 地元を離れて、東京の大学を選ぶために。

 受験校を決める時に、一人暮らしを両親に頼み込んだ。
 合格が分かって、一人暮らしが決まってから、それを仁と和己にも伝えた。


「……オレから、逃げるってこと?」

 仁の言葉と、哀しそうな瞳が、忘れられない。 

 オレは、違うと、伝えた。 
 ただ、その大学に行きたいからだ、と。そう伝えた。


 まだ高校二年になるところで、仁が追いかけて来れる筈もなかった。追いかけたいと思ったかどうかも、今となっては、もう分からないけれど。

 きっと、物理的に離れたら、色んな誤った思いも、消えるはずと信じて。
 

 仁の、その質問の意味には触れずに。
 ――――……ちゃんと答えずに、別れてきた。



 ちゃんとしないで――――…… 別れてきたから。

 こんなに、ずっとずっと、気になるんだろうか。


 多分もう、オレの事なんて、綺麗に忘れてるだろうと、思うのに。

 何で、オレが、忘れられないのか。
 バカみたいだ。

 何のために、あんなひどい離れ方で。 仁の前から消えたのか。

 こんなはずじゃなかったのに。





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