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◆Stay with me◆「高校生編」

「告白」*仁

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 あき兄が、他の誰かと仲良くしているところを見せつけられるばかりなら、むしろ同じ高校に入らなきゃ良かったと思いながら、ずっと過ごした。

 それが、余計に歪んだのは夏の終わり。

 完全に部活を引退しても、あき兄は陸上部の彼女や仲間と一緒に居た。見かける度にすごく楽しそうに笑っている。

 なんで、オレはこんなにいつも、あき兄ばかりなのに。
 なんで何も知らず、毎日楽しそうに――――……。

 そんなの、当たり前のことなのに。

 オレは、知られないように、バレないように暮らしてきた。
 わざと彼女を家に連れて帰ったり、あき兄の前で彼女と仲良さそうに電話してみたり。 だから、あき兄が、オレの気持ちなんか知るはずはない。

 あき兄は悪くない。知ってる。分かってる。

 けれど、もう、耐えられなくて。


 あき兄に、この気持ちを伝えよう。
 この苦しさを、あき兄にも押し付けようと、思いついてしまった。

 そしたらきっと――――…。
 あんな風に、ただ、楽しそうには、笑ってはいられないはず。

 そんな歪んだ気持ちが、胸を焼く。

 どうせこのまま、一人で苦しんで、隠して進んだって、嫌な終わりしか想像できない。どう転んだって、おかしくなりそうで。やばくて。真っ暗で。

 このままじゃ、こんなに大好きな人を、自分勝手に、心から憎んでしまいそうで。

 だったら――――…  どう転んだっていいから。

 あき兄を、好きでいられる内に、好きな気持ちを、伝えたくて。



 好きな気持ちを全部隠したまま嫌いになって憎んで、そっちを伝えてしまう前に。



 本当に、思ってることを、あき兄に伝えたくなってしまった。

 それが、どんな結末になったって。
 ――――…… オレが、あき兄を、憎むよりは、マシだと。


 何度、考え直しても、その結論以外、出せなかった。




◇ ◇ ◇ ◇




 その日は、テスト期間で、オレとあき兄は、午前中で学校が終わった。

 十五時から母が和己を連れて歯医者に出かけた。買い物も寄ってくると言ってたから、夕方までは、帰らない。

 家で二人きりになる時間があったら伝える。そう決めて、もう結構な時間が経った。
 基本、母と弟が家に居るので、もう今日しかないと、思った。


「……あき兄」
「……んー?……」

 机に向かってるあき兄は、問題を解いてるらしく、間延びした答えをして、動かない。数秒待って。それでも、こちらを向かない。


「――――……彰」


 初めて、あき兄を、呼び捨てにした。すると。少しして。


「……ん……?」

 きょとんとした顔で、彰が、振り返った。


「彰、話があるんだけど」

「え。いいけど……何で、急に呼び捨て?」

 別に怒る訳でもなく。
 不思議そうな顔を見ていたら。

 改めて、どうしても、伝えたくなってしまった。


「……好きだ」

「……え?」


 彰が、ふっと首を傾げた。
 オレの次の言葉を待って、何も言わない。


「彰の事が、好きだ」

「だからなんで、呼び捨て……ていうか、 好きって、何?」

「彰の事が好きで、おかしくなりそうなんだ」

「――――……?」


 オレの真意を計れないのか、彰の眉が寄る。

 椅子に座ったまま見上げてくる彰の手首を、掴んで、ぐい、と引き、自分に引き寄せた。


「……じん?」

 これでも、まだ、ただ戸惑っているだけの、表情。
 何も、伝わって、ない。


「――――……彰が好き。ずっと、ずっと、好きだった」

「――――……」


 ぎゅう、と抱き締める。


「ちょ、待って――――……ごめん、仁、一回離して……?」


 見たことのないような、彰の、戸惑った顔。

 少しは……伝わったんだろうか。


「待って…… 好きって、何?」

「――――オレ、彰の事が、好きなんだ」


「? ――――……あり、がと……?」


 きっと、まだ、半分も――――……半分どころか、全く伝わっていない。
 彰の顔を見れば、それは分かった。


「――――……」


 弟が、何を言いたいのか探りながら。
 ただ、不思議そうに見上げてくる瞳。


 彰のその目を、見つめたまま。



 オレは、その唇に、唇を重ねた。



 キス、しても。

 
 彰は、ぴくりとも、動かなかった。
 唇が、触れたまま。何回か瞬きをして。


 ただ、じっと、オレの目を、見つめ返していた。


 ゆっくり、唇を離した。


「……じ ん……?」


 オレの名を呼んで、薄く開いた唇に――――……耐えられなくなって。

 その肩を抱いて、腕の中に引き込んだ。




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