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◆Stay with me◆「高校生編」

「意味が分からない」*仁

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 もう、何を話せばいいのかも分からないまま。

「彰、何でキス、させたままにするんだ?」

 さっきから不思議だった事を、聞いてみた。
 すると彰は、オレの胸に手をついて引き離すと、涙目で少し睨むように見上げてくる。

「力強すぎるし、無理やり離しても意味なさそうだし。――そもそも、オレ、ファーストキスでもないし……そんな大した事じゃない」
「――」

「昔も、お前とちゅーしてたし」
「は?……何の話?」

 眉を寄せたオレに、彰は、ふー、と息を吐いた。

「小っちゃい頃から。 にいに、大好きって、ちゅーちゅーしてきた」
「――っ」

「なんなの、お前。――ずっと、変わんないの?」
「ちが――」

 がっくりと、肩を落としてしまいたくなる。
 なんとかそれは踏みとどまったけれど。

 すげえ小さい頃のちゅーと、オレが今してたキスを、同じくくりに入れられるって。

 どんだけ、オレ――「弟」として、見られてるんだ。

「だから、お前とすんの、初めてじゃないし。……舌、入れんのはほんとにどーかと思うけど」
「――」

「何でするんだとか、何を話せばいいのかとか、考える方に必死だったから… 弟、意味も分かんないまま殴る訳にもいかないだろ。お前じゃなかったら、最初のキスで、蹴り入れたって――」

 はー、と疲れたように言う彰。


 違う。
 なんか、違う。

 ――伝えたかったことが、全然、伝わってない。



「――あのさ、彰」
「……ん?」



「オレ、諦めない オレ、彰のことがずっと、好きだったから」
「ずっとって……いつから?」

「幼稚園の時」

 言ったら、彰は、え。と固まった。

「……すげえ、拗こじれてない? それってさ、明らかに、家族――」
「っ違う」

「――仁」

 オレが急に声を荒げたから、彰は、ふ、と口を噤んだ。

「違う、家族じゃない。家族の誰にも、こんなことしたいと思わない。幼稚園から一番好きだったけど――ほんとにこういう意味で好きだと思ったのは、中学の時から」

「――仁さ、中学も、高校も……彼女、居たよな?」

「――っ……居たけど……」

 ……紛らわしてただけ。彰のかわり。
 あとは、自分が女ともできるって安心したかったのと、あわよくば、そっちを好きになれればとも思ったのと――なんて、どれもこれも、とても彰には、言えなかった。

「――オレ、仁のこと、すごく大事だけど……」
「――」

「もし、仁の言ってる好きが、本当に、キスしたいとか……そういう好きだとしても……オレは、それには、応えてあげられない」

「……それでも、オレ、諦められない」

 言い切ったオレに、彰は眉を寄せた。
 それから、額を手で覆って、しばらく俯いていた。


「――仁、ごめん」
「――」


「もうこれ以上、今、考えられない」
「――――…」

「――とりあえず話は分かった。……けど、今テスト期間。受験生の邪魔すんな。あと、お前もちゃんと勉強して」

「――っ」

「テスト終わったら――また話すから」

 これ以上、邪魔できなくなるポイントを、確実についてくる。

 さっきまで――あんなに、可愛かったのに。
 もう、ずっと、兄貴の、顔。

 ――っ……むか、つく。

 心の底から、焦れる。

「とにかくさ」
「――」

「もっとちゃんと、考えて。オレとのそんな関係、何の未来もないだろ? お前、モテるし、オレを選ぶ必要、ないだろ?」

「――考えるけど……彰も、オレの気持ち、覚えといて」

 言うと、彰は、しょうがないな、といった感じで、うん、と頷いた。


 違う。
 ――――…これじゃ、違う。


 そうじゃない。モテるとか関係ない。
 オレは――本当に、誰よりも……彰が、好きなのに。


「……ちょっと、オレ、シャワー浴びてくる」
「え。……あ、うん」

 戸惑ったままの彰を置いて、バスルームでシャワーを浴びる。
 シャワーで覚まそうと思った興奮はまったく冷めてはくれず。ただ体だけは冷えたまま、部屋に戻る。

「彰」

 ドアを開けるとともにそう呼ぶと。
 振り返った彰が、ため息をついた。

「……ずっと彰って呼ぶ事にしたの?」
「これからずっと彰って呼ぶ。――あと、忘れないで」

「……?」

 彰の近くに歩み寄ると、一瞬体が強張った気がしたけれど敢えて気にせず、オレは、彰を肩に手をかけて、ぐ、と引いた。
 そして、唇を、重ねた。

「オレは、こういう意味で、彰が好きだから」

 彰が、まじまじと、オレを見つめてきて。
 困ったように、眉が顰められる。

「忘れないで」
「――じゃあ仁も、ほんとにそうなのか、もう一度ちゃんと考えて。違うって思ったら、ちゃんと言って」

「言わねえけど、一応考える」
「――」

 彰は、はー、と息を吐いて。

「仁。体、冷たすぎる。ちゃんと拭いて、あったかい服着て」

 そんな心配までされて、オレが仕方なく頷くと、彰は「……勉強していい?」と聞いてきた。再び仕方なく頷く。


「仁も勉強して」

 ――はーーーーー。


 ……あんなキスまでしたのに。
 彰は、ものすごく、普通で。


 想いを伝えて――。
 どう転んだとしても、状況が動けばいいと思ったのに。

 思った以上に、優しく、冷静に、受け止められてしまって。




 もう全然――――……意味が、分からなくなった。


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