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第2章

◇勘違い*拓哉

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 織田と電話がつながると、あ、バレちゃった、みたいな声。
 明日まで隠しとくつもりだったのかなと思うと、苦笑い。

 その後、一緒にお弁当を食べて、それぞれで、仕事を始めた。

 本当は織田のを手伝ってあげたかったし、それで早く終わらせるのもありかと思ったけど。一生懸命やろうとしてる、織田っぽいところに手を出したくはなくて、かなり我慢した。

 少し話しかけながら、お互いの仕事を進めて、ある程度キリが良いところまで進んだ一時間程度で、撤収することにした。

「ごめんね、高瀬、なんかこんな時間まで付き合ってもらって」

 会社のエントランスを出ながら、織田がそんな風に言ってくる。

「……結局一緒に帰れて、オレはすごく嬉しいけど?」

 思ったのはそれだけだったので、そう伝えると、織田はきょとんとした顔をしてオレを見て、それから、少し恥ずかしそうにしながら、ふわふわ笑い出した。

「……それは、オレも嬉しい」

 えへへ、みたいな顔をしてオレを見上げるの。
 ……ほんと可愛いな。

 と、その時。

「あ」
 という、割とデカい声が聞こえてきて。

「そこの二人ー」
 と、続く。

「あ」
 振り返った織田がそんな声を上げてる。オレは、もう、誰か分かってるから、振り返りたくなくて振り返っていないのに。

「高瀬高瀬、後ろ」
 織田がオレの腕をトントンたたいてるのは可愛いんだが。

「分かってる」
「ん?」
 あ、分かってるの?という顔で、オレを面白そうに見上げたのも可愛いんだが……。

「お前ら、ほんとにずっと一緒に居るんだな」
 ちょっと呆れたような、面白がっているような、声。

「須永も遅かったんだねー、お疲れー」
「そっちもお疲れ」

 織田は、前からずっと仲良しだったみたいな口調で、須永と話し出した。
 仕方なく、体の向きを変えて、須永に向き直った。

「あからさまに邪魔って顔すんのやめてくんない?」
 須永が苦笑い。

「何。残業?」

 短い言葉で聞くと。

「残業以外でオレがここに居る訳ないだろ。なあ?」

 須永が織田にむけて、最後問いかけている。

「はは。そーだね」
 なんて織田はニコニコ答えてる。

「今までも会ってたの? オレ達って」
「ああ、オレは見かけてたよ。高瀬も、いっつも一緒の織田も」

「そうなんだ。じゃあこれからも会うかもね」

 会わなくていーけどな、と心の中で言うオレ。
 特に織田には会わなくていいぞと思っていると、オレの表情から何か察したのか、須永は笑いながらオレを見る。

「あのさー、高瀬、もうオレ社会人でさ、モデルもやってねーし、お前に張り合う気はない訳、分かる?」
「…………」

「それに、女の子ならまだあるかもだけど、織田とは無いから。っつか、オレがちょっかい出したって、織田、乗らないよな?」
「乗るわけないじゃん」

 ケラケラ楽しそうに笑って即答してる織田を見ながら、須永がオレを見てくる。

「だから、警戒しないでくんない?」
「……まあ。様子見で」

 そう言うと。

「様子見だって。……高瀬って怖いよなー? 織田、こんなやつ、見限ったら、試しにオレと……」

 じろ、と睨むと、須永は面白そうに笑って、織田を見つめる。

「ほらなー? 冗談通じねーんだもん」
「……お前のは本気かどーか分かんねえから」
「冗談だって。なー? 織田?」
「……うん、これに関しては、冗談だよ、高瀬。絶対須永は、オレより高瀬の方が好きだもん」

 突然こんなことをきっぱり言った織田に、オレと須永は、えっと思わず顔を見合わせてしまう。

「まだ言ってたの、それ」
 須永がクッと笑い出した。オレもさすがに苦笑い。

 織田のそれ、酔っぱらってたからとかじゃなくて、結構本気で言ってたのか……。

「ほんと織田、面白いなー」

 クスクス笑いながら、須永は織田を見る。

「まあ、また会ったら声かけて」
「うん。でも高瀬はあげないけどー」

 最後はこっそり言って、織田は須永にバイバイと手を振ってる。

「……ちょっと、その勘違いだけはよく言い聞かせといて、高瀬」

 苦笑いの須永に言われて、仕方なく、そこだけは、オレも頷いた。

「じゃーなー」

 立ち去ってく後ろ姿をなんとなく見送ってから。

「……なんか織田」
「ん?」
「……すげえ仲良くなってない?」
「んー……? いやそんなこともないよ?」

 不思議そうにオレを見て、首を傾げてる。

 ……ほんとこういう、意識せず、するっと人と仲よくなるとこ。
 貴重で大事だと思うんだけど。

 須永とは仲良くならなくていいんだけどなと思いつつも。
 ニコニコオレを見上げているのが可愛いので、なんだか、緩んでしまう。
 




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