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第2章

◇写真見たい*圭

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 食事を終えて、2人で片付け開始。
 オレがスポンジで洗って、高瀬が水で流していく。 

「あ、そうだ……絵奈ちゃんのさ?」
「ん?」

 ふ、と見下ろされて、目を合わせる。

「淳くんって友達、知ってる?」
「……あー、知ってる。家にも来てたし。一番仲のいい男友達だろ?」

「その子に、オレにしとけって言われたんだって」
「――――……」

 高瀬は、目を一瞬大きくして。 そのあと、ふうん……と笑って、また食器に目を落とした。

「……まあ、向こうはそうなるかなと思ってた」
「知ってたんだ?」

「……んー、あいつ、オレの事、じっと見るから」
「ん??」

「睨むみたいな? 家にそいつが来てる時もオレが居ると、絵奈が、お兄ちゃんお兄ちゃんってこっち来るからさ。絵奈が高校生の頃が一番オレに張り付いてたから……面白くなさそうだったの、覚えてる」
「あ、そうなんだ」

 絵奈ちゃんを大好きな淳くんと。
 気づかず、淳くんに彼氏の恋愛相談をする絵奈ちゃんと。
 高瀬大好きで、兄にはりついてる絵奈ちゃん。
 で、高瀬をじっと見てる淳くん。

 ……ぷ。 すっごい、なんか、かみ合ってない感じ。

「まあ、そうなんだろうなとは思ってたけど……でも高校時代は何もなく終わってたし、大学入っても、絵奈は顔ばっかいい奴と付き合ってるし。もしかしたらこのまま、友達貫くのかとも思ってたけど」

「てかさ、淳くんてさ、絵奈ちゃんがあんまり普通普通言うから、どんだけ普通なんだろうと思って……」

「あ、写真見た?」
「うん、見せてもらった。……カッコいい子だよね、普通に」

「まあ……そうなんだけどな……絵奈が付き合う奴、モデルみたいな奴が多いから。それに比べると普通なんだよなきっと……訳のわかんね―基準だけど」

「高瀬が基準なんだって知ってる?」
「……あー……なんか話してて思った事はあったような……」
「うん、オレも話してて思ったよ。高瀬が基準てきついよねえ。なかなか勝てないもん」
「そう?」
「うん、そう」
 クスクス笑いながら言うと、高瀬は完全に苦笑い。

「普通のオレじゃなくて、オレがモデルやってた頃の写真が基準ぽくて。その写真、絵奈持ってたし。……髪型とか服とかめっちゃセットしてもらって、かっこつけてるやつ。 メイクもしてるしさ」

 それを聞いて、突然思ったのは、もう絵奈ちゃんの話ではなく。

 ……めっちゃかっこつけてる、高瀬の、モデル時代の写真?
 え。

 ……それは。


「………」

 先に洗い終わって、そのまま高瀬をじーーーっと見つめる。

「……? どした?」
「写真、見たい!」

「は?」
「モデルやってた頃の写真! 見せて?」

「――――……」

 最後の食器を流し終わって、手を拭きながら、高瀬は苦笑い。

「……あー……今度な……」
「え、何で? 今見たい」

「……あんま好きじゃねーから」
「……絶対カッコいいのにー! 見たいー!」

「……じゃあ今度、マシな奴1枚探しとく。でもほとんど捨てたからな……」
「えええーなんでーー?」

「……別にやりたくてやった訳じゃなかったし。良い思い出ある訳でもないし」
「え。モデルって良い思い出じゃないの?」

「……ライバル争いきついし、華やかだけど面倒だし、オレ、そもそも見られるの好きじゃないみたいだし」
「え」

 最後の所で、つい、固まってしまった。

「織田?どした?」
「……見られるの好きじゃないの?」

 あんなに、今だって、色んな人が高瀬を見てるのに? 会社の女の子達もだし、外歩いてれば振り返る子もしょっちゅうで。

 ………というか。
 ……その子達よりも。えーと……。

「……オレ、すっごい、高瀬の事見てる……気がするんだけど」
「――――……」

「見られるの、嫌だったりする?」

 しばし無言だった高瀬が、ぷっと吹き出して、口元を押さえてる。

 その瞳がふと優しく細められて、どき、とした瞬間、伸びてきた両手に、両頬挟まれて、引き寄せられてしまった。

「――――……何言ってんの、織田……」
「……っ」

「……他人に見られまくるのが、嫌いっつったんだよ」
「――――……」


「お前に見られるのが嫌な訳ないじゃん」
「――――……っ」

 例によって、一気に頬に血がのぼる。
 ていうか、高瀬にこんな風に言われて、そうならない方がおかしいと思う。

 なんで、高瀬の瞳は、こんな、キラキラしてるんだろ。
 優しく緩むのが、好きでしょうがない。

 初めて会った時も、吸い込まれそうなんて思ったけど――――……。


「分かった?」

 そんな風に言われたら。
 まっすぐ見つめ返して、頷くしか、できる事なんて、ない。


「……うん」

 頷いたら。
 愛しそうに、ふ、と笑んで。

 そのまま、唇が、重なるまで。
 大好きすぎる、瞳を、見つめていたけれど。


 すぐに、深くなるキスに、ぎゅ、と、つむるしか、なかった。


 愛しくてたまらなくて。
 ぎゅ、と高瀬に抱き付いたら。

 さらに抱きすくめられて。キスされた。




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