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第2章
◇鍵*圭
しおりを挟む月曜は一緒にご飯を食べに行った。
火曜から木曜は、お互い忙しくて。帰る時間もばらけてしまったから、夜は別々だった。
で、今日。やっと、金曜日。
定時の音楽が流れる。
終わったー。
やっと、今週の仕事、終わったーーー。
長かったよー。
「定時だな。織田、仕事終わりそう?」
「んー……終わりはしないですけど、終わらせることはできます」
「はは。来週に回して帰る?」
「どうしましょうか……先輩は?」
「オレちょっと渡と話したいんだけど、帰ってこないんだよなー……」
うーん。そうなんだよね。
高瀬と渡先輩が午後の途中から、打ち合わせで居なくなて、帰ってこない。
今日は高瀬の家に泊まりに行くから、出来たら合わせたいんだけど。
と思っていたら。ちょうど、高瀬と渡先輩が戻ってきた。
「あ。お帰りなさいー」
なんか、2人共疲れた感じで、ただいま、と言ってる。
ちょっとため息をつきつつ、持ってたファイルを机に置いてる姿だけでも、カッコイイ。
――――……ワイシャツとネクタイ。
ここのフロアの男、全員同じカッコなのに。
……どーして、高瀬はこんなにカッコいいんだ。
何なんだろう、良い匂いしそう。というか。 ……あ、実際、良い匂いだけど。
頭が溶けてそうな事を考えていた時。
「打ち合わせ何だった?」
太一先輩が渡先輩に聞いた。
「追加依頼。しかも結構面倒」
珍しく嫌そうに、渡先輩が言った。
「向こうの作業工程がちゃんと考えられてなかったらしくて、だいぶ変更入りそう」
「そっか。残業になりそう?」
太一先輩が聞くと、渡先輩が高瀬の顔を見た。
「高瀬、今日少し残れるなら、ある程度進めてく? その方が良さそうな気もする」
聞かれた高瀬の視線が、オレの所で、ぴたっと止まる。
うんうん、と頷いて、少し、笑って見せると。
「残れます」
「りょーかい。オレ、ちょっと一服してくる。お前もちょっと休んでな」
「はい」
高瀬は返事をして、椅子に座った。
「オレと織田は手伝うことある?」
「いや、今日はいいや。来週頼むかも」
太一先輩の言葉に、渡先輩が答える。
「じゃあ今日はオレ達は先に帰るか――――……高瀬、頑張れ」
「はい」
「じゃあな織田」
太一先輩が、渡先輩と一緒に部屋を出ていくのを、見送った後。
高瀬がオレを見つめた。
「ごめんな、織田」
「いいよ。謝んなくて。頑張って。オレ今日は帰るね? 明日高瀬ん家行くから、その事は後で電話しよ?」
そう言ってる間に、高瀬がカバンのポケットを探って。かと思うと何かを差し出された。
自然と右手を出したら、何かが乗せられた。
「……鍵?」
「オレんち、行ってて?」
「え」
手のひらに乗ってる鍵を、思わず見つめてしまう。
――――……鍵、預けてもらえるのて……。
……なんか恋人っぽい。
嬉しくて、高瀬を見上げると。
「……だって、オレ、今夜お前と一緒に居たいし」
「……っっ」
完全赤面。
「つか。そんな赤くなんないで。――――……キスしたいの我慢してんだから」
はー、と高瀬がため息をついてる。
オレは、手の中のカギを握った。
「じゃあ、先、帰ってるよ?」
「夕飯、何か買って帰る。腹減ってたら、何か買ってって、つまんでて?」
「うん」
「シャワー浴びたり、好きな事して過ごしてて良いよ。食べたり飲んだりも。全部自由にして」
「うん……ありがと」
優しいなあ。高瀬。
じーん、と浸ってると、高瀬のスマホが長く振動した。
「電話?」
画面を見て、んー、と固まってる高瀬に、なんとなくスマホに目を向けると、「絵奈」という名前が見えてしまった。 別に疑って覗いた訳では全然ないんだけれど。
見えてしまった女の子の名前に固まってると、高瀬がふ、と笑った。
「あ、これ、妹な」
あ。こないだ言ってた、妹か。
良かった、と何となくホッとしながら。
……すっごい、カッコいいお兄ちゃんで、良いだろうなあ~。
なんて、思っていると。
高瀬が出ないまま、電話が切れた。
「……あれ、切れちゃったよ?」
「んー…… 仕事終わったらかけ直すからいい」
「いいの?」
「どーせ、彼氏とどーのこーの、友達がどーのっていう電話だから」
「そういう電話、よく来るの?」
「2.3か月に1回位かな」
「あ、結構あるね」
クスクス笑う。
「高瀬、お兄ちゃんなんだね」
そういえば、面倒見良いし、優しいし。
……お兄ちゃん、と言われたら、そんな気がする。
「そろそろ帰るね?」
オレは立ち上がって、鍵を鞄にしまった。
「織田、後でな」
「うん」
「1、2時間で絶対帰るから」
そう言い切る高瀬に、うん、と笑う。
「待ってるね」
高瀬と別れて、フロアのドアを開ける。
閉める前に振り返ると、高瀬がこっちをまだ見ててくれたので、バイバイ、と手を振った。ふ、と笑って、片手をあげてくれるのを見ながらドアを閉めて、エレベーターに向かった。
一緒に帰って、ご飯行けないのは残念だけど。
先に、高瀬の家で待ってて良いって。
……なんかすっごく楽しい。
鍵、預けてくれるの、すげー、嬉しいし。
ご機嫌で、高瀬のマンションに向かって、歩き出した。
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