73 / 235
第2章
◇見てしまう*圭
しおりを挟むあ、やば。と呟いて、高瀬はオレの腕を引いた。
「打ち合わせの時間なんだよ。行こ?」
「え、あ。 先輩たちは?」
時計を見て、焦って立ち上がる。
「もう先に行った。織田にも声かけてたけど、聞こえてなかった?」
「――――……」
……全然、聞こえてなかった。
「織田が笑わせるから、一瞬忘れたじゃん。いそご。資料持って」
今日は、プログラムのクライアントとの打ち合わせ。
資料を抱えて、高瀬と一緒に会議室へと向かう。まだ勉強の為に参加しているようなもので、先輩達が話を進めるのを、一緒に参加して見せてもらう。だから、そんなに身が入ってなくても、クリアできなくはない。
でもそれにしたって、ちゃんと聞いてないと。
「すみません、遅くなりました」
言って部屋に入る。
渡先輩と太一先輩が資料を開いてて、まだクライアントは来ていなかった。
「まだ20分あるし、大丈夫。座って、少し今日の説明するから」
太一先輩の言葉に頷いて、隣に腰かけた。
仕事しろ、オレ。
ちゃんと、集中しろ。
頭の中に何度その言葉を浮かべたか知れない。
先輩達がしてくれる説明が済んで、ちょうど到着したクライアントとの打ち合わせが始まる。
斜め前に座った高瀬をなるべく見ないように。
ひたすら、資料とにらめっこで、打ち合わせを過ごした。
◇ ◇ ◇ ◇
やっと。打ち合わせが終わった。 打ち合わせの間。
頭の中に、高瀬の事しかなくて。
昨日から今日にかけて言われた事とか、高瀬の色んな顔が、頭から離れなくて。斜め前に座った高瀬をつい眺めてしまって。
たまに、はっと気付いて、高瀬を見ないようにしようと資料に目を戻すけれど、また気付くと、高瀬を見つめて。
なんかもう……重症すぎて、自分ではどうにもできない。
ダメだ。そろそろクビになりそう。
予定外に長引いた打ち合わせがようやく終わって、太一先輩に先に戻っていいよと言われた。
高瀬を見ると渡先輩と話していたので、何だか疲れ切ったオレはいったん机に資料を置きに戻った後、なんだか落ち着かなくて、トイレに辿り着いた。
「――――……」
とりあえず用を済ませて、手を洗い、そのまま鏡を覗き込む。
『――――……お前の事が、可愛くて』
高瀬のセリフが、頭に甦る。
……可愛い……?
うーん。 ……高瀬、よくわかんない、趣味だな?
なんて考えながらも、それを言った時の、高瀬の優しい笑みが頭に浮かんで。1人恥ずかしくなってきて、ぶんぶん、と首を振る。
その時。トイレのドアが開いて、高瀬が顔を覗かせた。 オレを見つけて、ふ、と笑う。
「居た。つか、先行くなよ」
言いながら入ってきた高瀬は、中に誰も居ない事を確かめると、ぶに、とオレの頬に触れた。
「……だって、高瀬、先輩と話してたし」
「待ってればいーだろ。 ……言いたい事、あったんだよ」
「言いたい事??」
聞き返した瞬間。不意に、キスされてしまった。
会社のトイレでキスされた事に、かなりびっくりして、高瀬を見上げると。高瀬はクス、と笑った。
「――――……あんまりオレの事、見ないでくれる?」
「え?」
「……オレの顔、見すぎ」
「……ッ……」
カッと赤くなったオレに、高瀬はクッと笑い出した。
「あんなに見られると、困る」
「……っ……??」
優しく緩んだ瞳が、まっすぐに見つめてくる。
頬をする、と撫でられて、ぴく、と肩が揺れた。
「……触りたくなるから」
「――――……!」
更に真っ赤になって、オレがもう完全に硬直していると。
腕をぐいと引かれて、キスされた。
「先週みたいに避けられるのは嫌だけど、見過ぎも違う意味で困るから――――……適度にな?」
ぽんぽん、と頭を叩かれて。
それから、もう一度、今度は頬にキスされた。
「はは。――――……真っ赤……」
クスクス笑われて。
恨めし気に、高瀬を見上げてしまう。
「っ……っ……からかって、楽しんでる?」
「ん?」
クス、と笑った高瀬は、オレの頭をナデナデと撫でて。
「すっげぇ、楽しいけど?」
覗き込まれて、鮮やかに笑われると。
――――……どき、と心臓が音を立てる。
ああ、もう。
――――……むり。
「――――……仕事終わったら、夕飯いこ?」
「……っからかうから、行かない」
素直に頷かずに、抵抗してみる。
「ふうん? じゃ、他の奴と行こうかな」
「……ッ……行く」
短い時間の中で、ものすごい葛藤があったけれど。
結局は頷いたオレに、高瀬はおかしそうに笑った。
42
お気に入りに追加
1,419
あなたにおすすめの小説
西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~
雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。
元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。
※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
クズ男と別れたら、ヤンデレ化して執着されました
ノルジャン
恋愛
友達優先だとわかっていて付き合ったが、自分を大切にしてくれない彼氏に耐えられず別れた。その後彼が職場にも行けない状態になっていると聞いて……。クズなヒーローが振られてヒロインへの気持ちに気づくお話。
※ムーンライトノベルズにも掲載中
義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。
アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。
捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!!
承諾してしまった真名に
「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる