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第1章

◇涙の理由*拓哉

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「……どうして、そうなるんだ?」

 とりあえず、一言、聞くと。

「――――……だって……高瀬、好きな子、居るなら……」
「……居るなら?」

「……ますみちゃんは、高瀬が片思いって言ってたけど……絶対そんな訳、無いし」
「――――……」

「……付き合う事に、なるだろ、絶対」

 ……絶対、の意味が分からない。
 片思いの訳が無い、ていうのも、分からない。

 ……織田の中で、オレって、絶対ふられたりしない奴、なんだろうか……。
 好きになったら、即付き合うのが確定って事か。
 
「――――……織田……」
「……」

「……つか…… オレが誰かと付き合ったら――――…… なんで、お前はオレんちに来なくなるんだ?」
「――……だって……今だって、邪魔してるんじゃないかと思うし……」

「――――……は?」

「……オレが、高瀬の家に、週末よく来ちゃってるから…… 女の子誘えないんじゃないかと思って……」
「――――……」

 ……あぁ。
 ……それで、オレに好きな子が居て、付き合うなら、もう来ない……て事に、なるのか。

 理由はなんとなく分かったけれど、全然納得は出来ない。

「……織田」
「……?」

「オレ、お前がうち来なくなるの…… 寂しいから、無理なんだけど」

 もう、そうとしか思えないから、そのまま、言葉を選ばずにそう伝えた。
 すると織田がオレを見つめて。

 次の瞬間。

「――――……っ」
「え」

 目の前の、大きな瞳から、突然、涙が零れ落ちた。
 それはあまりに突然で。

 驚いて、咄嗟に動けない。

「……っ……ごめ……――――……」

 そんな風に言いながら、手の甲で、顔を隠そうとしてる織田の手を。
 思わず、掴んだ。

 ソファから降りて、織田の目の前に座って、見つめる。

「……何で――――…… 泣くんだ?」
「……っ……オレ……酔ってるから……だと思う……っ」

「酔ってたって…… 普段泣かないだろ」

 言うと、言葉に詰まった後。
 俯いて、吐き出すように、続ける。

「……んで…… 寂しいとか……言うの……ってか……オレ、なんで……こんなんで泣いて――――……」
「織田……?」
 
「……っもう…… オレ、自分が訳わかんなくて……」
「――――……何が」

「オレ男だし……結婚、したいし……人生……大体、決めてた、のに……」

 そんな事、断片的に急に言われても、きっと他の奴には、全く意味が分からないセリフ。 でも――――……オレは、痛い位、分かってしまった。


「……あ、ごめん ……っこれ、オレの勝手な話で……」

「――――……」

「――――……高瀬には、関係、ないんだけど……っ」

「――――……織田……」


 関係ないはず、ないだろうに。 

 取り繕うように言う織田を、ただ見つめる。



「――――……男、なのに……何でこんなに……オレ……っ……」

 俯いた織田の瞳から、次々に、涙がこぼれ落ちていく。
 ……掴んだままだった織田の手を、そっと離していた。

 他の奴が聞いたって、何で泣いてるかなんて、分からない。
 織田も、きっと、オレが意味を分かってるとは思わずに。むしろ意味が分からないように、ただ、吐き出してるだけ。

 だけど――――……。
 織田が、なんで辛いのか。なんで泣いてるのか。大体、オレは分かってる。

 結婚して子供を作って、普通に幸せに生きていきたい織田にとって。

 多分。
 ――――……オレを、好きな事が。
 辛いんだろうと。想像できて。

 あくまで、オレと、そうなるつもりはないし、なりたくもない。
 それなのに、好きなのが、辛い。

 ――――……そういう事なんだろうと、
 いっそ、分からなければ、辛くないのに。

 その涙の意味も、嫌というほど、分かってしまって。
 何と言って、慰めてやればいいか、分からない。



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