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第1章
◇何なんだ?*拓哉
しおりを挟む「織田……?」
先に織田にシャワーを浴びさせてドライヤーを渡してから、自分もシャワーを浴びて戻る。織田はソファにもたれかかって、眠っていた。
一応、髪は乾いてる。
……あったかくなって、寝たのかな。
しょーがねーな。話は明日でいいか……。
「……織田、起きれるか? 風邪ひくから、ベッドで寝て」
「――――……ン……?」
「まだ布団しいてないから、オレのベッドでとりあえず布団入れよ」
「――――……あ、ううん。いい…… ごめん、寝ちゃって」
「――――……?」
いつもなら、うん、と素直に頷いて眠りに行きそうなのに。
なんだか頑張って、目を開けて。 オレを見上げてくる。
「? ――――……水飲むか?」
「……うん。ありがと」
とりあえず、水を飲ませようと思って。
水に氷を浮かべる。
「ほら。飲んでて。 髪、乾かしてくるから」
「うん」
「寝るなら、オレのベッド入ってていいよ。すぐ布団ひくし」
「……寝ないから平気」
「……じゃ待ってて」
やっぱり、少し、変かな。
――――……さっきのも、何だったんだか。
女の子連れて帰る、って。
なんだ、それ。
少し悶々としながらドライヤーをかけ終えて、織田の元に戻る。
冷たい水に少し目が覚めたのか、寝てはいなかった。
けれどやっぱり、顔は赤いし、ぼーっとしてて。
いつもは「楽しく酔ってます」みたいな顔をしているけど、今日は楽しい通り越して、本当に酔っぱらってるな、という感じ。
「……お前、今日、すごい飲んだの?」
「――――……うん。久しぶりで楽しかったし…… あと最後の方でちょっと……」
「女子と飲んでた時?」
「――――……うん……まあ……」
ふーん、と返事をしながら、オレは織田の隣に行って、ソファに浅く腰かけた。織田は背中をソファに寄りかからせて、立てた膝を、何となく抱えている。
「……なあ、大丈夫か?」
手をそっと伸ばして、俯いてる織田の額に触れて、前髪を掻き上げさせた。
まっすぐに返ってくる瞳が、一瞬、困ったみたいに揺れた。
泣くのかと思って、驚いて、手を引いた。
おかしな沈黙が、流れた。
「――――……織田? どうかした?」
「――――……」
「……なにかあった?」
「――――……」
全然、返事をしてくれない。
また、俯いている。
「……織田がそうやってると、オレ、なんか、辛いんだけど」
思っている事を、そのまま伝えると。
織田が、ふ、とオレを振り仰いで、まっすぐに、見つめてきた。
「……ごめ、ん……」
「……ん、いいよ。 いいけど……」
「――――……」
「何なのか、話せよ」
そう言うと。
また、黙ってしまって、また視線を逸らされた。
「――――……織田?」
……ほんとに、おかしい。
同期会の3時間弱の間に、いったい何があったんだ。
途中まですごく楽しそうにしてたよな。
……ほんと、何なんだ?
「――――……織田、早く言って。 何……?」
急かすと、織田が、かろうじて口にしたのが。
「……ますみ、ちゃん」
この言葉だった。
「……ますみちゃん? 誰?」
言うと、織田は、え、と振り仰いでくる。
「……同期の、杉田ますみちゃん」
「……ああ、 杉田ね。 うん。 居たな、今日」
下の名前、憶えてないし。
……ていうか、織田は、ますみちゃんて呼んでんのか。
そんな所にすら、ひっかかるものを感じながら。
「杉田がどうした?」
「ますみちゃんがさ、高瀬に告白しようとしたって話を聞いて」
「ん?……あ。 あれか……」
しばらく考えて、思い当たったのは、「好きな奴がいる」と答えたあの質問。やっぱりそういう意味だったのか、と思う程度で。
「好きな子が居るって、高瀬が言ったから、言えなかったって、聞いた……」
「――――……」
……何で織田に言うんだ。
……まあ……オレと織田が、仲いいと思ってるから、か……。
言わなきゃよかった、と思いながら。
織田の言葉の続きを待つ。
「――――……だから、オレ……」
「うん」
「――――……あの……高瀬んち、くるの、やめる」
「――――……は?」
「……今日で、最後に、する」
「――――……」
……意味が、分からない。
なんで?
「だから」って――――……どこから来てんだ?
オレから目線を外して俯いてる織田の横顔を、眉を顰めて、ただ、見つめてしまう。
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