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第1章

◇片思い*拓哉

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 織田と過ごした夏が終わった。 

 好きだという気持ちだけ積み重ねて。
 でも、関係を進めようとは、思えない、というか、織田が望んでないだろうからできないまま。

 2人で過ごすのを、楽しくて、幸せだなとも思いながら。
 一方で、モヤモヤしながら、時を過ごした。

 
 長く続いた残暑もようやく落ち着いて。
 夕方になると、たまに肌寒いなと感じる事が出てきた頃。

 久しぶりに同期全体に声をかけて、集まる事になった。

 オレは、織田と一緒に仕事を終わらせて、少し集合時間よりは遅れて、一緒に店に向かった。

 もうほとんどの同期が集まってきていた。
 店に入ると同時に、織田は織田で仲の良い男連中に引っ張っていかれ、オレはオレで、数少ない女子に引かれ、最初は何故か女子のテーブルに座らされた。

 仕事の話やら、休日はどうしてる、やらと、色々振られて話していると、オレの隣に、すでに酔っぱらった男連中が座ってきた。

「お前はなんで女子を独り占めしてんだよー」
「オレらとは飲めねーのかー」

 絡まれて、苦笑い。しばらくその相手をしていると。
 ふと、遠くで、織田がまた楽しそうに笑ってるのが見えた。

「――――……」

 ほんと。
 ――――……いつも楽しそうだな。

 思わず、微笑んでしまう。

 その時。いつの間にか真隣に来ていた女子……杉田すぎたに、腕をぽんぽん、と叩かれた。
 周りにいた男連中は馬鹿騒ぎ中。

 何となく、そっちには取り残されて。
 杉田と、2人の空間になっていた。


「……高瀬くんて、彼女、居るの?」

 周りの喧騒に紛れて、囁かれる言葉。

 あー……。
 もし居ないなら、と続く会話かな。

 そう思って。一瞬言葉に詰まる。

 彼女は、居ない。
 ――――……彼女は居ないけれど……。


「……彼女じゃないけど…… 好きな奴は居るよ」
「――――……片思い、て事?」


 片思いか――――……。
 心の中の想いは一緒かもしれないけれど……絶対、織田は、表に出しては来ないだろうから……。

「……そんな感じ、かな」
「――――……そうなんだ……高瀬君でも、片思いなんて、するんだね」

 そんな事を言われて、苦笑い。
 それ以上、何を言われる事もなく、その話は終わった。

 その後は久々に会った色んな奴と話してる内に、結構な時間が経っていって。ふ、と気づいた時には、織田がかなり飲んでる風に見えた。

 織田、顔赤い。――――……大丈夫かな。
 気になって近づくと、さっきの自分と同じように、今度は織田が女子に囲まれていた。割って入っていって、織田の隣に立った。

「織田? 大丈夫か?」
「あ、高瀬……」

 声を掛けながら、隣にしゃがむと、ぱっと嬉しそうな笑顔で見上げてくる。

 こういう顔が、な。
 ――――……可愛く見えて、ほんと…… 困るんだよ、な。

「織田、帰れるか?」
「ん?」

「ちゃんと自分ち、帰れそう?」
「ん?……また、高瀬んち、連れて帰ってくれる?」

 あはは、と楽しそうに笑ってる織田に、思わず苦笑い。
 
 ――――……これはかなり、酔ってんな……。

 もう、連れて帰るか、と思った瞬間。
 楽しそうな笑顔が、一瞬、曇った。

「……それとも、女の子、連れて帰る?」
「――――……ん?」


 ――――……今、なんつった?

「――――……織田?」
「……あ、何でも、ない……ごめん」

「――――……何、今の」
「……何でも、ないから」

 珍しく、困ったような顔をして。
 そして、オレから視線をそらして。

 織田がグラスを持とうと伸ばした手を、思わず掴んで、止めてしまう。


「もう酒、やめとけ。――――……オレんち、来るか?」
「――――……迷惑……じゃない?」

「だから……迷惑なら言わねえし」
「――――……」

 じ、と見上げられる。

「……ありがと、高瀬」

 ふわ、と笑うけれど。
 ――――……なんだか、微妙な、笑顔。


 結局、皆より少し早く退散する事にして、織田をマンションまで連れ帰った。
 その間ずっと、織田はいつもどおり、楽しそうだった。

 でも、さっきの言葉と表情がずっと気になってて。

 オレは、早く2人になって、話したかった。












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