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第1章

◇織田の居ない飲み会の後*拓哉

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 電車に乗ると、結構混んでて、中へと押し込まれる。

 かなり至近距離で、織田と向かい合って、立つしかなかった。
  少し下にある、フワフワした髪の毛。


 ああ、なんか――――…… ほんと、可愛いな。織田。


 あんまり近すぎると、いっつも照れるので。
 こんな近いと、まあそうなるだろうなとは思うのだけれど。

 まっすぐは、見上げてこない。
 顔が、すこし、赤い。

「……こみすぎ……」

 照れ隠しに、文句言ってるのがバレバレで、可愛い。


「織田?」
「え?」

 呼ぶと、ふ、と見上げてきて。
 目が合って、2秒3秒、見つめあった途端。


 カッと赤くなって、ふ、と顔を逸らされた。



 ――――……もともと可愛いと、思ってる奴と。

 こんな至近距離で、こんな、体勢で。
 こんな赤い顔と見つめあって。


 ……普通を装っていられてる、自分を、
 心底、褒めてやりたい。

 ガタン、と揺れて。
 織田が、オレの肩のあたりに、がん、と額をぶつけてきた。


「ご、め……」

 多分最大限にオレにぶつからないようにと思ってはいるんだろうが。 揺れの方向が悪いのか、立ち位置が悪いのか。ひどく揺れるたびに、オレにぶつかる。

「痛…… ごめん、高瀬……」

 俯いたまま、謝ってる。

 ……可愛すぎ……。

 ようやく電車を降りれた時には、織田は、もはやぐったり。

「ごめん、高瀬、ちょっと座らせて」
「いいよ」

 人の列についていかず、ホームの端のベンチで、小休憩。

「織田、平気?」
「……んー……」

 織田は、ワイシャツの一番上を外して、ネクタイを緩め、パタパタと仰いでる。

「熱い?」
「……熱いっていうか…… 落ち着いてるところ」
「落ち着いてるところ?」

 くす、と笑いながら繰り返して聞くと、織田は、は、と一瞬固まって。

「えっと……酔いをね、落ち着かせてるところ……」

 と、言い直して、ますますパタパタして、風を起こして冷ましてる。

「ふーん……?」

 さっき、もうあんまり酔ってない、て言ってたのに。

 ――――……くっついてたから……かな。
 ……マジで可愛いんだけど……どうしたらいいんだろう。


「……ちょっと待ってて」
「? うん」

 ホームにはもう人気はない。次の電車を待つ人が遠くに数人いる位。
 織田から少し離れて、自販機で水を買った。

 あ、お水買いに行ってたのか、という顔の織田に近付くと。
 ひや、と冷たいペットボトルを、少し俯いてる頬に触れさせた。

「ひゃ……!」

 びくう!と震えた織田に、ぷ、と笑いながら。

「あげる。飲んだら?」

「え、オレのなの?」
「うん」

「ありがと……高瀬、優しいなー……」

 なんてニコニコしながら。
 頬に自分で当てて少し顔を冷やしてから、蓋を開けて、一口飲んだ。


「おいしい」

 ふんわり笑む織田が、本気で可愛すぎて。
 危うく抱きしめてしまいそうになるけれど。

 同期で抱き締めるとか、無い無い。
 と、自分を律する。


「高瀬、やっぱりモテるよなー……」
「……ん?」

「……こういう事、さらっと、するの。 絶対モテるよな」
「――――……」

 ……いや。
 あんまりしない。

 織田の世話やくのが好きだから、してる。

 というのも、言うべきでない事は分かっているのだけれど。
 誰にでもこんな事してる訳じゃない、しかも、今のだと、女の話だし。

「……オレ、こういうの、他の奴にはあんまりしてないよ」

 これ位なら、いいかなと、思う表現で、伝えてみた。
 そしたら。

 え?と口を開けて、不思議そうな顔をして、オレを見上げてから。
 きゅ、と唇を噛んで、また再び、カッと赤くなった。


「――――……」

 だめだ、もう、可愛い。

 耐えきれなくなって、手を伸ばして、その腕をぐい、と掴んで引き寄せて。


「あるこ、織田」
「え、あ……うん」

「すこし……―――……酔ってるだろ?……支えてるから」
「――――……」

 しばらく黙った後、織田が、腕を振りほどかずに、頷いた。

 これ位なら――――…… 酔っ払いを支えてるだけ、に見えるだろうし。


「――――……高瀬、またいい匂いする」
「……そう?」
「……うん……」

 織田、この香水好きだなー……。
 ――――……これ位近づかないと、香らない位にしてるけど……。

「……高瀬」
「ん?」

「――――……なんか……いっつも……ありがと」
「――――……」


 ――――……何なの、お前。

 オレ。
 結構な精神力を使って、これ以上触れないように、我慢してるのに。

 少し下にある織田と視線が絡むと、織田は、ふわりと緩んで柔らかく笑む。


「――――……こっちこそ、ありがとな」

 言うと、織田は、「え。……オレは何もしてないけど」と言って、笑った。

 改札を出て、マンションまで歩き始めて。
 掴んでいた腕を外すと、そっと、肩を抱いて、引き寄せた。

「っわ」
「いっつも、織田といると、すげえ楽しいから。ありがと、て言った」

「………っっ」


 ……おお。一瞬で。
 ……顔から、火を噴いた。
 
 思わずマジマジと見つめてしまうと。


「~~~~っっ」

 織田は、その場で、しゃがみこんで、頭を垂れている。


「おーい…… 織田ー?」

 織田の目の前にしゃがんで、織田の頭に触れながら。
 歩道のど真ん中にしゃがんでいるので、前後から誰もこない事を確認。

「……高瀬ってさ」
「ん?」

「……オレの事、結構好き?」
「――――……好きじゃなきゃ、家に誘わないよ」

 そう言ったら、そっと顔を上げてきて。
 まだ赤いまま、じ、とオレを見つめた。

「……そっか……」
 ふ、と嬉しそうに笑って。


「じゃあ、オレ達、両想いだね」

 なんて、言って、超笑顔。


「――――……」


 立ち上がって、2人一緒に、歩き出す。


 ――――……どんな意味で言ってんだか。
 両想い、なんて。

 ……まあ。 今織田が言ってるのは――――…… 友達、かな。


 嬉しそうな笑顔で隣を歩いてる織田の頭を、また、くしゃ、と撫でた。


「……ほんとよく撫でるし……」
「いいじゃんか。……両想いなんだし」

 言うと、織田は、また黙ってから。

 おかしそうに、ふふ、と笑った。
 オレもつられて笑って。顔を見合わせる。


 ――――……空に浮かぶ月が、キレイで。
 幸せなような。 ……少し切ないような。

 そんな想いを感じながら、一緒に、歩いた。








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