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第1章
◇織田の居ない飲み会*拓哉
しおりを挟む夕方、織田と話して、自分の言葉で実感した。
『なんか、オレ、織田が居ない飲み会が久しぶりかも』
その言葉通り。
飲み会は必ずお互い一緒で。居ない事がない。
新人研修からこっち、会社の飲み会ばかりが入ってて、学生時代の飲みが久しぶりだったので、織田が居ない飲み会が久しぶり。
織田の方も、会社の飲みが入ってないこの日に、飲み会を入れていたらしく、珍しく、別の飲み会に参加する為に、新宿駅で、別れた。
久しぶりに会うゼミのメンバー。男女6人ずつで今日は12人集まっていた。いろんな課題を一緒にやったメンバーなので、わりと関係は深くて、居心地は悪くない。
皆それぞれ就職した会社の話になって、盛り上がってる。
酔いが進むにつれて、キレイな先輩が居るとか、上司がカッコイイだの騒いでいて。
「高瀬くんは、やっぱりモテてる? 同期、女子いるんでしょ?」
「女子は少ないかな。男のが断然多い」
「女子一人占めとか?」
クスクス笑われて。
「そんな事はないよ」
「付き合ってる人、今いないの?」
「今居ない」
周りの奴らがへー、と首を傾げてる。
「恋人が居ない期間なんてあるんだ?」
「珍しくない?」
「……オレ、居ない時もあるけど」
「いやいや、ないでしょ。 別れたってなったら、すぐ告白されて、だったじゃん」
「そうだよ、ないだろ」
……いったいどんなイメージなんだ。
「……ちょっと気になる奴が居るから。しばらくこのままでいい」
言った瞬間。
周りが一斉に同じ反応。
え゛え゛え゛ー!!
だの。
うそだー!
だの。
「お前らうるさい」
冷たく払うと、周り中、苦笑い。
「あー、なんか、拓哉って感じ」
「この冷たい感じ……」
「久しぶりで、もう割と気持ちいい位だよな」
「分かる分かるー」
好き勝手言ってる奴らに、視線を流しつつ、酒を飲む。
いつも、こういう飲み会の時、織田が居るから。
なんとなく目で、居場所を確認するくせがついてて。
――――……今日は、どんなに見回しても、居ないのは分かっているのに。
「――――……高瀬ってさ、職場でもそういう感じでいるの?」
「そういう感じて?」
「ぱっと見もだけど、喋り方、抑揚ないじゃん? オレ最初お前怖かったもんなー。その冷めた目で見たら、先輩に目ぇつけられそうだなーと思って」
「なんだそれ。怖かったのか?」
「怖かったよ。 顔すげー整ってるから、余計。なあ?」
「うん。怖かった」
あはは、と周りが笑う。
「超カッコよかったよ、会ったときから。 入学した最初から噂だったもん、超カッコイイ人がいるって」
「女子はなー、そうだったかもしんねーけど」
一通り好き勝手に言われながら、特に突っ込みも入れず過ごしていたら。
「だからー、お前、職場もそれで通してンの?」
「……どうだろ」
違うかも。
――――……織田がいっつも、隣に居るから。
オレの言葉が足りないかなと思って、でも面倒くさいからそのままでいいか、と思う時に、織田が自然と追加して話すから、場の雰囲気はすごく和む。
――――……あと、いつも織田が可愛いから、なんか、今までにない位、オレの機嫌が良くて、モチベーションがずっと高いというか。
普段の織田を思い浮かべたら、思わず、ふ、と笑んでしまった。
「――――……」
オレの返事を待って、オレを見ていたらしい周りが。特に女子が、一斉に騒ぎだした。
「なになに、今高瀬くんて、何を思い出したの?」
「そんな風に笑うの、初めて見たしー!」
きゃあきゃあ言い出した女子を「お前らうるさい」と、押しのけながら、男子たちが乗り出してくる。
「なになに、イイ女でも居るの?」
「聞かせろー」
肩を組まれて、相当うざい。
「別にイイ女なんて居ないから。チームに女居ないし」
「じゃあ何だよー、何思い出したー」
「いや、別に……」
「うそつくなー!」
あー……うるさい。
詳しく話す気もないので、軽く流す。
――――……そんな言われるような顔で、オレ、笑った?
と、少し、首を傾げつつ。
織田、今頃どうしてるかな。
あんまり飲みすぎてないと良いけど。
なんて、すぐ、思い出してしまう。
ここに居ない事が、切なく感じる位、
――――……そばに居たいと、思っている自分が不思議だった。
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