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第1章

◇特別に*拓哉

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 初めて家に誘った日。
 織田は結構ふらふらしてて。

 オレは、それを軽く支えながら帰ってきた。

 そもそも、オレは酔っぱらいが好きではない。
 好きではないというか、理解できないし、むしろ、嫌い。

 酒臭い、うるさい、みっともない、面倒くさい。
 自分の中の「酔っぱらい」を敢えて言葉で表現するのであればそんな感じ。

 自分が酒に強くて、なかなか酔わないって事もあって、気持ちが分からない。弱いなら、飲まなきゃいいのに、と思う。

 ずっとそう思ってきたから、酔っぱらいを介抱した事なんかなかった。
 大体そういうのは、進んで介抱役を引き受ける奴がどこにでも居るから、完全に任せてきた。それなのに。

 マンションのエレベーターに乗り込んで、ボタンを押して織田を振り返ると。

「――――……たかせ……」
「……ん?」

 ぼんやりした顔で、オレを見上げてくる。
 なんだかこのままだと倒れるんじゃないかと思って、寄り添って支えた。

「――――……急に、きちゃって、大丈夫だった?」
「大丈夫じゃなきゃ、誘ってない」

「……ごめんね、オレがふらついてたからだよね」
「――――……」

「……ごめん、さっき、上に乗っちゃって」
「あ、覚えてるのか」

 思わずクスクス笑ってしまうと、織田は、うん、と頷いた。

「――――……その前に話してた事も、ちゃんと覚えてるよ」
「……ん。そか」

「……高瀬が良い奴だって話」
「――――……そんな話じゃないって」

「……そんな話、だよ」

 クスクス笑って。織田が見上げてくる。

「――――……」

 何も返せないまま、エレベーターが部屋の階についた。織田を連れて、部屋まで歩く。鍵を開けて、ドアを開けて中に招き入れると、とりあえず玄関に座らせた。
 その目の前に、しゃがんで、織田を見つめる。

「……気分は?」
「――――……ん、すっごい良いよ?」

 フワフワ笑う。

「ふらふらして何言ってんだよ」

 そんな風に言いながら、けれど織田が可愛くて、笑ってしまう。

「……ごめんね、迷惑かけて」
「――――……かけらも迷惑って思ってないから平気」

「……ありがと」

 ふふ、と織田がまた笑う。


 そう。
 なんでだか、これっぽっちも迷惑だと思ってない。

 ……マジで、酔っぱらい、嫌いなんだけど。オレ。
 織田の酔い方は、オレの嫌いな酔い方では、無い気はするけれど。

 幸せそうだし、ずっと笑ってて、別に気持ち悪くなってるわけでもないし。
 ただひたすらに――――……可愛い感じ。

 ……に見えてるのは、オレが、織田のことが好きだから、なんだろうか。

 織田がオレを見つめる視線は。

 多分、恋愛感情込みの、好き。

 ただ、友達で、終わろうと思ってるんだろうとは、分かる。
 それでも、毎日毎日、大好きだっていう視線と言葉が向かってくる。

 今までは、付き合ってる相手ですら、好意を持たれ過ぎると、途端に冷めて、面倒になり、関係を続けられなかった。

 それが親があんなだったから、もともと自分もそうなのかと、考えたりする事もあって。なぜ思われる程に冷めてしまうのかは分からなかったけれど、とにかく、冷めるものは冷める。

 執着され始めると、急に冷めていく気持ちをどうする事もできず。

 もとからあまり人に執着しないのは自分で分かってたし、その冷めていく自分を、どうにかしなければとも、思わなかった。

 冷めた相手と別れても、また別の相手が現れる。
 必要以上にモテる人生だったせいで、余計に、その時の相手への執着も薄かった。

 ずっとそんな感じで生きてきたのに。

 そういう意味でいったら、織田の視線なんて。
 しかもそもそも、男だし。

 ……絶対、あり得ない位に不快なはずなのに。

 織田に対して感じる気持ちに、嫌だと感じるものが極端に少ない事。
 それはもう、分かってる。

 少ないというか、ほとんどない、んだと思う。

 今まで嫌だと思っていたことすら、織田がしてるとかけらも嫌じゃなくて。

 しかも、もしかしたら今までも、そこまで嫌じゃなかったのかもしれない、なんて。 今までの自分の気持ちすら、とらえ方が変わってきて。

 なんだか、自分という人間が、
 織田に関わってると、変わっていくような。

 ……不思議な感覚。

 きわめつけが、さっきの――――…… 親の話。

 あれはほんとに、人生で一番いやな記憶で。
 両親の不倫話なんて、信用もできない奴には話せないし。

 ――――……多分このまま、誰にも話さずに生きていくんだと、思ってて。

 自分の中だけで処理しきれずに、捨て去っていくものだと思っていたのに。

 ――――…… 話せた事が、まず、そもそも、ありえないレベル。

 話した結果、返ってきた言葉も、予想もしなかったような言葉で。
 それに対して、オレが感じた事も――――……。

 全部、予想を飛び越えてて。
 だけど、それが――――…… 嫌じゃなくて。
  
「……織田」

 目の前の、織田の柔らかい髪を、くしゃ、と撫でる。

「明日土曜日なんか予定ある?」
「……ううん、明日入れてない」

「……じゃ、今日泊まって、明日ゆっくりしてけよ」
「――――……うん」

 オレを見て、織田は、ふわ、と笑った。


「ありがと、高瀬」


 そう言って、オレを見つめてくる織田に。
 心の奥の方で、何か暖かくて。

 オレは、それが何かを、もうほぼ、自覚していた。


 それでも――――…… 恋愛関係に進む気は、なかった。

 結婚して子供が欲しいって言ってたし。
 ――――……今だけ、だ、きっと。

 オレが想うのも。織田が、オレを想うのも、今だけ。

 心の中で想いながら、こんな想いが薄れるのを待ちながら、
 仲の良い同僚として、大事に付き合っていこうと、思っていた。










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