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「運命っていうか」
しおりを挟む駿が帰ってしまってから、清水さんのところに戻った。急に帰るとかも言いにくくて、先輩が来てご飯を食べたら帰らせてもらおうと決めて、とりあえず、清水さんと二人で、個室タイプの居酒屋に入った。 四人掛け、清水さんと向き合う。
話題は、お互いの仕事の話で、話自体はとても興味深い。
……いい人で、楽しい。
でも、さっきの駿の後ろ姿と。こないだ女の子と消えた後ろ姿が。
何だか目の前によみがえってくるみたいで。……もう正直、泣きたい。
なんで駿と離れて、私、違う人と二人きりなんだろ。
ため息をついてしまいそうになるのを何度も堪える。そうしていたら、不意に。
「さっきの人は彼氏?」
「え」
「さっき会った人」
清水さんに急に聞かれて、顔を見て。……嘘をついても仕方ないので、はい、と頷いた。
「カッコいい子だね」
「……そう思いますか?」
「うん。まあ誰でも思うんじゃない?」
清水さんが微笑む。
「……すごくモテる人なんです。なんで私と付き合ってくれてるのかなーて思うくらい」
「んん?」
「?」
変な声を出されて、清水さんに視線を向けると。
「ていうか、水野さん、素敵だけどね?」
「……ありがとうございます。すみません。気を使わせて」
「いやいや、ほんとに」
はは、と笑いながら、清水さんが私を見つめる。
「接客してもらってさ。その間に他のお客さんと話してるとこも見たけど。すごく良かった。というか、あの店の接客、すごくいい感じだよね」
「お客様至上主義の会社なんです……」
「あぁ、そうなの?」
「はい。徹底的にって感じで……研修とか結構すごいです」
「はは。疲れてる?」
「……分かりますか?」
そう聞くと、清水さんは、ふ、と笑った。
「うちも結構、接客が厳しいから分かる。自分のメンタル次第で、厳しい時あるよね」
「……そうなんです。ほんとに……」
「でも、水野さんは、良い感じで接客してたよ。オレ、楽しかったし……って、あ、オレ、でもいい?」
「あ、もちろん。好きに話してください」
「じゃあ普通に話すね。そう、お客さんの笑顔とかが、モチベーションになるなら向いてると思うんだけどね」
「……あー……それは、なるかも」
「そう? オレも結構、そういうとこあるから、向いてるかなーと思ってて」
「は、そうですね、清水さんの接客も、心地いいです」
「心地いいって初めて言われたかも。 ありがとう」
「いえ」
ふ、と笑い合った時。とんとん、と扉が叩かれて、先輩が顔をのぞかせた。
「あ、お疲れ様です」
「うん、お疲れ~飲んでますか?」
先輩が言いながら、私の隣に座って、飲み物を頼んだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「えええっ彼氏が来ちゃったの? 何で?」
先輩が来てしばらくして、「なんか、花音、元気ないね?」と気づかれて、結局話すことになってしまった。
「……何でって……うーん……多分、話をしに来てくれたのかなと、思うんですけど」
「あららー……ごめん、私が誘っちゃったから」
「いえ、それは全然……」
「待っててもらって、一緒に三人で行けばよかったね」
先輩の言葉に、私は首を横に振った。
「なんか、そういうの全部含めて……運命っていうか……そうなることになってるのかなーって。なんか今、全部そんな感じなんです……」
そう言うと、先輩と清水さんが、苦笑してる。
「まあでも、そういうのあるよね。何やっても裏目に出て、結局うまくいかなくなっちゃう相手とか。居るよね」
自分でも考えてはいたけれど、先輩に言われると、ずずーんと響く。咄嗟に何も返事が出来なくなった私に、清水さんが更に苦笑した。
「でも、反対に、どんなにまずくなっても、結局切れない人もいると思うよ」
「――――」
何だか清水さんをじっと、見つめてしまう。
「……そう思います?」
私が聞くと、清水さんは「うん。思うよ」と微笑んでくれる。
「清水さん、良い人ですねぇ」
ふふ、と先輩が笑う。と、テーブルの上の先輩のスマホが鳴り出した。「あ。旦那だ。ちょっと待ってね」と言って、少しの間、話した後。
「今日こっちの方で仕事だったみたいで、迎えに来るから一緒に帰ろうだって」
「あ、じゃあ私たちも一緒に出ましょうか」
「そうだね、結構いい時間だし」
「……いいなあ、先輩。仲良しで」
思わず言うと、先輩は苦笑い。
「喧嘩だってするよ? でもまあ、言いたいことは言うし、気遣いもするし。適度が良いと思う。遠慮とかは無しがいいよ?」
「そうなんですけど……」
はー、と息をつくと、清水さんが、「難しいよね」と肩を竦めさせた。
しばらく話した後、先輩の旦那様が来る時間に合わせて三人で店を出て、駅でそれぞれ別れた。地元の駅について、とぼとぼ歩いていると、一人になったら、浮かぶのは、駿の後ろ姿ばかりで。
最近私、ため息おおすぎ。
なんて思うと、またため息をつきそうになった。
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