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「犬に触る」とか。
しおりを挟む「花音、こっちから見てみて」
静かにそう言いながら、恵ちゃんが私を手招きする。
そっと覗き込むと、三匹生まれたという赤ちゃんたちは、すやすや眠っていた。
眠っていたココは、私が近づくと、ぴくっと顔を上げて私を見た。子犬たちだけが小さいホットカーペットの上に乗っていて、三匹は何故か、これでもかというくらいに、むぎゅっと、くっついてて。お腹のあたりに小さい布が掛けられている。
……うわー…… なんだろう、これ。
犬? ……なんかホコホコの焼き立てパンみたい……。ふわふわしてしそうなのが、見た目からも分かる。
きゅ、と胸の奥が縮んだ。
あれ? 可愛い……かも。
犬は犬だから、きっと多少は怖いと思うかも。と思っていたのだけれど。
さすがに、ふわふわホコホコの焼き立てパンみたいな存在には、「怖い」のかけらも無かった。
ただ、近づくと、ココがじっとこっちを見ていて、それはちょっと怖い。
でも多分これはきっと……。
「ココがちょっと警戒してる」
ふふ、と笑って、恵ちゃんはココを撫でた。
やっぱり、と思った。大事な赤ちゃんたちを、守るためなんだと思うと、なんだか不意に感動する。
「ココ、ちゃんとお母さんなんだよ。何人か見に来てるんだけど、知らない人が来るとガードするの。まだ、花音だから、吠えてないけど」
一応、ココも私を知っているとは思う。……私は撫でたことはないけど。
恵ちゃんは、私が犬を苦手なのは知ってるので、私が居る時は、ちゃんとココを押さえてくれているから、あまり近づいたことはない。だからまあ私も、ココを連れてる恵ちゃんと立ち話くらいは出来る。視界に入るのも嫌とか、そんなことは無いんだけど……。
多分ココは、私のことを「飼い主の恵ちゃんが笑って話す人」くらいに思ってるのかなあ……?
「どう? 怖い?」
そう聞いてくる恵ちゃんに、私は首を振った。
「ううん……可愛い」
「でしょうーー?? もう私、もう、ほんと可愛すぎて、メロメロでねー! 花音にも可愛いって思ってほしかったのー」
これなら怖くないでしょ? と恵ちゃんは笑う。
「あ、そうだ。私、今からココのお散歩に行ってくるから。ちょっとこの子たち、見ててもらえる? 赤ちゃんが気になるみたいで、ココがすぐ帰りたがるから、少しで帰るから」
「うん、良いよー。見てるだけでいい?」
「寝てるし。起きても、ぴょこぴょこしか動かないから」
「うん。いってらっしゃーい」
ココをゲージから出しながら、私を見た恵ちゃんは、そうだ、と笑った。
「もし触りたいなって思ったら、ココが出るからチャンスだよ。指先で、ふわふわに優しく触る位なら起きないから、大丈夫だから」
「……触れないと思うけど」
少し首を傾げながら恵ちゃんを見つめると、恵ちゃんは、ふ、と微笑んだ。
「うん、だから。もし、触りたいって思ったら。触ってもいいよ?」
クスクス笑いながらそう言って、恵ちゃんは、出て行った。
恵ちゃんは長い黒髪が綺麗な女の子。中学で転校してきた私に一番に声をかけてくれて、そしたら家がすぐ近く。それで仲良くなって、高校まで一緒。大学からは別だけど、よく連絡取り合ってて、外でちょこっとだけ喋ったり、よくしてる。気さくで優しくて、友達になれて良かったなーと思ってる。
触りたいと思ったら、かぁ……。
「犬に触る」なんて、考えたこともない。一生触らず生きてく気がしてた。
触るとか考えると、ソワソワした感じで、ドキドキする。
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