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◇希生さんちへ
「弟みたいな」*side野矢蒼 2
しおりを挟むどうやら、希生さんにとっての玲央と、優月といる玲央は、全くの別物らしい。昼食をとりながらの会話でそう思った。
玲央が早起きしてると優月が言うだけで、希生さんは信じられないって顔をしてて、どんだけだよって感じで笑える。玲央自身も全然違ってる自覚があるんだろうな、苦笑するだけで反論もしない。優月は、なんだかそんな玲央に、楽しそうにニコニコずーっと笑ってる。
でもって、そのニコニコの優月を見て、玲央もまた微笑む。
オレ目線だと、イチャイチャしてるようにしか見えねーんだけど。
希生さんと父さんは、どう受け取ってんだろ、これ。
茶碗蒸しを食べて、おいしーと言ったまま、緩みまくってる優月に、玲央が笑ってたので、顔が緩みすぎだとツッコむと。焦った優月が玲央を見て、「そう?」と聞くと、玲央はまた苦笑しながら「大丈夫。……和むから」とか言い放った。
……和むから、か。和むって言う前に少し黙ったのは、ほんとは可愛いとか言おうして、言い換えたんだろうけど。普段は、可愛いとか平気でずっと言ってそうだな、こいつ。激アマには見えない見た目だけど。
――――ほんと、父さんたち二人は、どう聞いてんだか。
そう思ったら、父さんが「分かる。優月、和むよねぇ」とか同意して、玲央と頷き合ってるし。
玲央と優月の出会いのきっかけが猫だったなんて話した後に、玲央は。
「じーちゃんたちには言えないけど。一生忘れないかも。会った時のこと」
笑いながらそんな風に言った。
優月は、なんか急に真顔になって、玲央を見て、もうウルウルな感じ。
おーい。
……お前ら、マジで、とツッコミたい。
状況的には、男同士で付き合ってる二人が、そのじいちゃんと、じいちゃん的な立ち位置の絵の先生のところに、挨拶に来てる風な。そんな時、なんだけどな。
普通なら、こんなほのぼのしてる感じの空間な筈はないだろうと思うのだけれど。
希生さんも父さんも、玲央と優月を見てる目が穏やかすぎて、優しすぎる。
ほんと、可愛い孫たちに、甘すぎ。
希生さんが優月とゆっくり部屋を見て回ってる時、父さんはテレビをつけてて、オレと玲央だけでしばらく話そうってことになった。
「今日は、ありがとうございます」
そんな風に言われて、何が? と聞き返した。
「心配で、付き合ってくれてるんだろうなと、思って」
玲央が、少し笑いながら、そんな風に言ってくる。
「――――どんな風なやり取りになんのか、見たかっただけかもな?」
からかい交じりにそう言うと、玲央は、少し首を傾げて頷いた。
「確かに、面白がってる風には見えますけど」
「ん、面白がってるけど?」
「でもきっと、優月が心配なんだろうなと……違いますか?」
玲央に見つめられて、オレは、心配か、と呟いた。
「……相手が希生さんと父さんだからなぁ。そこまでは心配してないよ」
そう言うと、玲央はそうですか? と微笑む。
「優月は、オレが心配しなくても、全然平気な奴だしな」
「あ、分かります、それ」
「あぁ、分かる?」
「はい。弱っちそうに見せかけて、強いですよね」
「おーちゃんとわかってんだな?」
クスクス笑いながらそう言うと、玲央は、ふ、と微笑んだ。
「あ、でも、ライブで一階席においたら、つぶされそうな感じは、するんですよね。そういうとこは、心配かも……」
玲央が顎に手を触れさせて、んー、と考えてるのを見て、は、と笑ってしまう。
「それも分かる」
オレがそう言うと、「そうですよね」という玲央に、顔を見合って、笑ってしまう。
――――オレの、弟みたいな存在の優月に、
突然できた、彼氏は。
オレと同じな認識で、優月を見てるみたいで。
そういうのが分かると、なんかほっとする。
……可愛い弟には。甘すぎか、オレも。
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