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◇希生さんちへ
「相性」*優月
しおりを挟む「お先に。ありがとうございました」
お風呂を出て、髪を乾かしあってから玲央と部屋に戻ると、「結局一緒に入ってきたんだな」と蒼くんが笑ってる。
「温泉みたいで、すっごく気持ちよかった」
ほくほく気分で伝えると、希生さんが「そうでしょう」と笑ってくれた横で、蒼くんは立ち上がった。
「希生さん、水もらいます」
「どうぞ~」
蒼くんは、冷蔵庫から出したペットボトルを、玲央とオレに渡してくれる。
「とりあえず、水飲みな。顔、赤い」
「うん。ありがと」
ごくごく一気に飲んで、おいしー、と言うと、蒼くんは苦笑い。
「つか、めちゃくちゃ気持ちよかった、ね……」
苦笑いで玲央を見てるけど、玲央もなんだか苦笑しながら、首を振ってる。
「玲央、気持ちよくなかった?」
オレが言うと、ん、と玲央がオレを見て笑う。「いいから、優月」と蒼くんが笑いながらオレを見る。
「お湯熱かったか?」
「ううん。そうじゃないんだけど……それがさ、玲央とオレ、じゃんけんがなかなか勝負つかなくて」
「は? ――――じゃんけん?」
蒼くんが首を傾げて、ん?とオレを見つめてくる。
「そうそう。お風呂の中で十回勝負してから出ようよって言ったんだけど……なんか、玲央とオレ、あいこがすっごく多くて。なかなか決まらなくて。ね?」
そう言って玲央を振り返ると、玲央は蒼くんを見ながら、黙ったまま頷いている。
「――――……」
蒼くんはなんだかしばらく、玲央と見つめ合ってたけど。ふたりとも無言で。その後、蒼くんはふっと笑い出して、クックッと笑い続けている。
「……つか、じゃんけんしてたのか、風呂で?」
「うん。そう」
「……どっちが勝った?」
「玲央」
「ふうん……」
可笑しそうに頷いて、蒼くんは玲央を見ると、「お疲れ」と言って、またクッと笑い出す。
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「……いや。別に」
はー、ほんとにお前は、と言いながら、蒼くんは先生と希生さんを振り返った。
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「じゃあ行ってくる。明日、オレ、朝から出ることになって」
「え、そうなの?」
「打合せが入っちまったから」
そっか、残念、と言ってると、ぽふ、と頭を撫でられた。
「あ。そういえば」
「ん?」
「蒼くん、じゃけん、ぽん」
不意に言ったオレの言葉に反応して出したじゃんけん。
オレの負け。
「じゃんけんぽん、ぽん、ぽん」
――――……ていうか、ずっと、負け。
「もー! ほんと勝てない、蒼くんにはー」
むー、と膨れると、玲央が面白そうにとなりに来て、蒼くんに向けて手を出す。
「蒼さん、じゃんけん……ぽん」
ぽんぽん、と繰り返していくじゃんけん。
勝ったり負けたり、いい感じ。……何か、全然あいこには、なんないな、
「いい勝負かもな?」
クスクス笑う蒼くんと玲央。
「えー、何で? なんで玲央とオレはあいこになるのに、蒼くんと玲央でやると、玲央は負けないの?」
「んー確かに」
玲央もちょっと首を傾げて、苦笑い。
「相性の問題じゃねえの? お前らはほのぼのあいこでいいんじゃね?」
「じゃあ蒼くんとオレは、相性悪いの?」
「オレにとっては相性いいけどな」
それは勝ちまくりだから?と、むむむと、眉を顰めていると、久先生が笑う。
「蒼は大体じゃんけんは強いんだよね」
「そう。てことは、オレと玲央が、相性悪いのかな。あいこになんねーもんな」
「相性悪いというか、似てるんじゃないか?」
希生さんが言って、玲央と蒼くんを見比べている。
「ま、いいや。とりあえず相変わらず優月は弱かったなーてことで。風呂行ってくるわ」
そう言って、蒼くんはオレから離れると、自分の荷物から着替えとかを出して、「バスタオルとかだけ借りまーす」と言いながら、部屋を出て行った。
「むー」
「勝てないの? 蒼さんに」
「そうなんだよー、ほんと勝てない。悔しいなあ」
むむむ、と膨らみながらそう言うと、玲央は、オレを見て、ふ、と笑いながら、くしゃくしゃと頭をなでる。
その笑みが優しくて、なんかすぐうきうきしてしまうから、玲央はすごい。
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