上 下
395 / 830
◇「周知」

「目玉焼き」*玲央

しおりを挟む

「優月、明日の朝のパンとか買いにいこ?」
「うん」

 マンションの下にある店に入って、カゴを持って2人で買い物。

「そーいえば……」
「ん?」
「オレ、こうやって明日の朝の食材一緒に買うのも、お前が初めて」
「そうなの?」
「そんな長く一緒に居ないし、一緒に何か作ろうとかないし」
「そっか」

 優月はふふ、と笑ってオレを見つめる。

「オレ、玲央の初めてをいっぱい貰ってる感じ……?」
「そうだなー。オレ、今までやってねー事、結構あったんだなーと最近よく思ってる」
「そうなの?」
「オレさ、色んな事経験してると思い込んで生きてきたような気がする」

「でも、玲央はほんとに何でも知ってそうな感じがするけど……」
「……なんかそう思ってた。全然違ったみたいだけど」
「全然って事は、絶対無いと思うけど」

 優月はそんな風に言いながら、オレを見上げてくる。

「色んな事知ってると思うけどな」
「どうだろうな。意外と普通の事、してない」
「……普通の事かあ。んー……普通の事、って、何が普通かって、難しくない? オレ、どれが普通なのかもよく分かんないけど……」

「……普通のデートとかも、そういえばあんました事ないかも。中高ん時に、学校帰りにどっか寄ったりとかはあったけど」
「じゃあ今度、どこかデートしよ? 映画とか見る? 遊園地とか、行く?」

「ん、行こ」

「即答だね」と笑ってから、「どこ行こうか決めようね」と、優月が楽しそうに言う。「ん」と頷いてから。

「なあ、優月、パンとご飯どっちがいい?」
「んー……パンかなぁ」

「OK。玉子買ってこう」
「うん」

 カゴに玉子を入れてから、あ、と優月が笑った。

「何?」
「玲央は目玉焼き、どうやって焼くのが好き?」
「どーやって……普通にフライパンで焼くけど?」

「蓋する? 水入れる? 両面焼いたりする?」
「ああ、そーいうことか……そのまま裏がかりっとして白身が固まれば」

「うちの家族さー皆好きなの違うの。弟は両面焼いてかりっとして黄身も固いのがよくて、妹は、水入れて蓋して白身も黄身も柔らかいのが良いって。父さんは玲央と一緒で、母さんは、もうなんでもいいって言ってて」

「優月は?」
「オレほんとになんでもいいんだけど……どれも美味しいし」

「それどーやって焼くんだ?」
「だからね、ちっちゃいフライパンも使って、同時で違うの作るの」
「……大変だな」

 想像して、クス、と笑ってしまう。

「でしょー? 母さんは、もーなんでも美味しいでしょ、て言うんだけどね」

 オレもそう思うんだけど、と優月がクスクス笑う。


「明日、目玉焼きにするか?」
 オレが言うと、優月は楽しそうに笑って頷く。

「うん。いーよ」
「どれで焼く?」
「玲央が好きなのでいいよ?」

「オレがやったことないやつ試してみるか。優月、どれが好き?」
「んー……黄身半熟で、白身パリパリ?」
「オッケ、じゃあ明日はそれで焼こ。で次はまた違うので」
「うん。分かった」

 ふ、と笑んで見つめ合って。

「優月の家族、やっぱり、会ってみたい」
「……普通だけど」

「目玉焼きの話も、したい」
「え、したい?」

「したい。ていうか、その話してるとこ、聞いてみたい」


 言いながら頷くと、優月はめちゃくちゃ楽しそうに笑って、うん、と頷く。






しおりを挟む
感想 778

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

花婿候補は冴えないαでした

BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

嘘の日の言葉を信じてはいけない

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。

そんなの聞いていませんが

みけねこ
BL
お二人の門出を祝う気満々だったのに、婚約破棄とはどういうことですか?

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

処理中です...