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◇「恋人」

「素直すぎ」*玲央

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 優月と別れて、1限を部室で勇紀と過ごして。それから2限に出た。

 今日はあそこのカレーが食べたい!というので、とりあえず甲斐達にも、今日は5号館の隣の食堂に居る、と連絡を入れた。必ず一緒という訳ではないけど、一応、いつもの学食から変える時は、伝えてる。

「なあなあ! オレマジで優月に会いたいんだけど!」
「今日は2限の友達と食べるって言ってたから、昼は無理。夜は絵描きだから無理。諦めろ」

 そう言うと、えええー!とものすごく、嫌そう。

「なんだよもー……」

 ぶつぶつ言ってた勇紀は、あ、とオレを見て。

「食堂のトイレって混むから、5号館のトイレ寄ってから行く。先いっといて」
「ああ。分かった」

 勇紀と別れて、食堂に足を踏み入れた瞬間。
 メニューの辺りで集まってる連中の所から。


「……づきは、可愛い子かな?」

 なんて声が聞こえた。

 ――――……優月っつった? 

 自然と視線がそっちに向く。 
 肩を組まれてる、あの、後ろ姿は……。


「優月?」

 オレが視線を向けてた奴が、オレの声に反応して、ぱっと振り返る。
 同時に、組まれていた肩が外れた。

「玲央」

 めちゃくちゃ笑顔で――――……ほんと可愛い。
 ふ、と笑って見つめ返すと。

 にこ、と笑って、オレをじっと見つめてくる。
 

「玲央、今日はここで食べるの?」
「あぁ、勇紀がここが良いって」

「勇紀は?」
「今トイレ行った」

 頷いて、優月がオレを見上げてくる。すごく嬉しそうに。

 ……かわいい。
 誰の目も無かったら。
 抱き締めてキスしてンのに。

 思った瞬間。
 優月が今まで一緒にいた奴らが。

「なんか優月めっちゃ嬉しそう」
「ほんと」

 そんな風に優月に言った。

 ――――……嬉しそう。
 まあ確かに。
 ……優月の感情って、ほんと、周り中に筒抜けだよな。

 多分、それに負けない位、オレも嬉しくて。
 ……つか、オレの方が、よっぽど、抱き締めたかったり、キスしたかったり。中の感情は激しいと思うんだけど。

 オレのは、なかなか漏れないんだよなー……。

 なんて思いながら、クスクス笑われてる優月を何気なく見ると。

「――――……」

 一瞬にして、真っ赤になってて。
 さすがにちょっと、あまりに素直すぎて、驚く。

 反応がバレバレすぎだけど――――……いいのか?
 まあ別にオレは良いけど。

 ほんと、素直……。可愛い。
 そのオレの目の前で、案の定。優月は一気にからかわれ始めた。
 

「なになに、優月、ゆでだこすぎるけど」
「耳まで真っ赤じゃん」

「な、なんでも、な――――……」


 この状態でなんでもないとか言っても、無駄だろうに。
 どうしようかなと思ってるオレを見上げて視線が合うと、余計に真っ赤になっていく。

 もうこのまま、トイレにでも付き合わせるか。
 そう思った瞬間。


「ゆーづーきーーーーー!!!」

 あ。うるせえの来た。
 思った瞬間、勇紀が優月に抱き付いた。

「ぅ、わっ」

「優月、会いたかった――――!!」
「ゆ、ぅき……」


 優月、ものすごいびっくりした顔してるけど。 
 ――――……でもきっとこれで、紛れるな。

 勇紀が張り付いてて剥がれそうにないのを見て、優月の友達らは、先行ってると、離れて行った。

 それを見送ってから。

「……まあいいタイミングだったけど。 そろそろ離れろ」

 勇紀を引きはがして、抑える。

「お前ちょっと落ち着けよ」

 苦笑いで言うと、「離せよ、玲央ー」と藻掻いてるが、「ダメだ」と一蹴。
 優月が落ち着いたみたいで、ぷ、と可笑しそうに笑ってる。


「大丈夫か? もう、トイレにでもひっぱってこうかと思ったけど……。勇紀来て良かったな」

 優月にそう言うと、優月は、あ、という顔をして。

「ごめん……」
「いいけど」

 何でだか謝る優月に、クスクス笑ってしまう。
 別に。嬉しそうと言われて真っ赤になるとか。
 オレにとっては可愛いってだけだ。


「――――……もー離せよー、玲央ー!」

 優月が可愛くて油断してたら、手を振りほどかれ、勇紀はまた、優月を抱き締めた。

 オレは、ため息。けれど。勇紀がしみじみ。

「はー。玲央から聞いたよ。……よかったね、優月」

 そんな風に言ってて。

 優月も、ん……と、何だか、勇紀のその言葉に浸ってるっぽいので。
 今度は引きはがさないでやる事にした。

 その時。

「おーい……入口で、何してんのお前ら」
「優月の相手、勇紀だし。違うだろ相手が」

 食堂に入った所で抱き合っている2人の姿に、呆れたように笑いながら、颯也と甲斐がやってきた。

「あ」

 優月が2人を振り返ると、2人は何だかすごくびっくりした顔。ん?と不思議に思っていると。

「……何泣いてんの?」
「ほんと良く泣くな、優月」

 苦笑いで颯也と甲斐が言う。

 ――――……泣いてたのか、勇紀に、良かったね、と言われて?
 浸ってるなとは、思ったけど。


「もう返せ」

 優月の腕を引いて、自分の近くに引き寄せて、顔見ると。

 ほんとに涙、ウルウル潤ませてて。


「何で泣くかな……」

 なめたい。
 涙。

 そのまま、めちゃくちゃキスしたい。

 出来ないので、仕方なく、涙を指で拭った。




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