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◇「恋人」

「恋愛の話」*優月

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 2限終了。
 やったー、早くご飯食べて、玲央とクロに会いに行こう。

「優月飯行く?」
「うん、行く」
 立ち上がりながら答えて、皆と歩き出す。

「今日は幼馴染良いの?」
「うん、昨日食べたから」
「ほんと仲いいなー」
「そだね」

 頷いていると前に歩いてた2人が振り返った。

「あの女の子、超美人だよな」
「ん??」
「幼馴染の子」

「あー、美咲?――――……うん、昔から、綺麗だったよ」

 そんな風に答えると、皆がへー、と興味津々。


「1回も好きになった事とか無いの?」
「そうだよな、恋愛っぽくなんないの?」

「……んー。無いね、多分、お互い1回もないね」

 そう言うと、皆がどっと笑う。

「ずっと姉弟って感じだったから。今もそんな感じする時あるし」

「そんなもん?」
「綺麗だなーとか思わないの?」

「そりゃ綺麗だなとは思うよ? 思うけど……恋愛じゃないなー。ていうか、そもそも絶対美咲のタイプじゃないし、オレ」

 クスクス笑いながらそう言うと、なるほど、と皆がすごく納得する。

「そんな納得されるのもちょっと嫌なんだけど」

 むむ、と言うと、皆また笑ってるし。

 まあいいけどさ。
 言いたい事は分かるし。


「そういえば優月の恋愛話って聞いたことねーな?」
「そーいやそーだね」

「んー。去年はそういうの何もなく過ごしてたからね」

 ここに居る皆は大学からの友達。去年は好きな子とか居なかったから、まあ、話してる訳もない。

「ん? 去年は?」

 鋭い1人に突っ込まれる。

「去年はって、何? 今年はあるのか、そういうこと」
「え、マジで?」

 お、と盛り上がってきた時、ちょうど食堂について、皆がドアを入る所で1列になる。このままうやむやにならないかなーと期待してると、前に居る友達に、「居るの? 好きな子」と聞かれた。


「……ん」

 頷くと、おーそうなんだ、と笑う。


「付き合ってる?」
「……うん」

 また頷くと、おお、とすごく楽しそうな顔をして。


「なあなあ、優月今付き合ってるんだって!」

 前を歩いてた皆を呼び止めて、おっきな声で叫ばれた。

「わあ、声がでっかいってばっ」
「いいじゃん、なんかめでたい」

 時間が早かったからか、まだそこまで混んでない食堂で騒いでるから、めっちゃ目立ってる気がする。 


「何々、ほんと?」
「学校の子?」
「学部は?」
「どんな子?」

 めっちゃ聞かれてる。

 ……ここで、玲央だって、言うべきだろうか……。
 なんかさっきもこんなこと考えてたっけ……。

 いや、多分ここでそんな事言ったら、もう、皆にここで叫ばれる……。


「いいから、ご飯買おうよ……」

 そう言ったら、皆、オレを余計取り囲んでくる。


「言えよー、聞きたいじゃん」
「そうだよ、そういえば、皆の恋話知ってるけど、優月のだけ何も知らないし」

「だって、無かったんだもん」

 困ってそう言うと。

「だから今はあるんだろー?」
「そうだよ、どんな子か位言えよー」

 そう言われて。


「……すっごく、優しい」

 玲央の事を思い出してしまって、ちょっとしみじみ言ってしまったら。
 皆がはた、と固まって。

「何だそれー! もっと詳しく言えー」
「学校の子?」

 ……頷いたら、絶対、吐かされるまで、離してくれない気がする。
 でも、違うって嘘つくのもなんか、玲央を否定するみたいで、嫌だし……。

「が、学部違うから、知らないと思うから……さ。ご飯買おう」

 言って、皆から離れようとするのだけれど、腕を掴まれて、戻される。と同時に、1人に肩を組まれてしまう。


「もー、優月ってばー、水くさいこというなよー」


 ……この学校は、学部毎にクラスに別れる。
 クラスで動くのは、英語とかそういう全員が確実に受ける授業くらいで、それ以外では、あんまりクラスとしての活動は無いのだけれど。

 何だかやたら仲が良いオレのクラスは、お酒無しの飲み会とかをよく開いてる。付属校の出身でもないし、サークルとか入ってないオレでも、なんかすごく仲良しがたくさん居るのはそれのおかげ。それはとっても楽しい、のだけれど。

 水くさいとか言われちゃうと、ちょっと困るんだけど。
 今、この時点でものすごく楽しそうな皆に、相手が玲央だなんて情報を与えたら、大変な騒ぎにー……。


「名前は?」
「…………な、内緒……」

「はー?」

 皆が叫ぶ。


 ここは、学食に入ったすぐの所、メニューの前なので、少なからず邪魔だと思う……。


「ね、皆、ここ邪魔だから、動こうよ……」


「なあ、どんな子?」
「そーだよ、教えろよー」


 うーん、オレがこんな話するの初めてだから。
 ……聞きたいっていうのはすごく、分かるんだけど……。


「今度飲み屋とかでゆっくり……」

 そう言ってみるのだけど。

「どんな見ため? 可愛い? 綺麗?」
「優月は、可愛い子かな?」


 そんな事言われて、ふふ、と笑ってしまう。


 めちゃくちゃカッコよくて、たまに可愛いなーって人だけど。
 ……言ったら、盛り上がりがすごすぎると思うので、言えない。

 と思った瞬間。



「優月?」


 後ろから呼ばれる。
 ――――……凛とした声。

 聞き間違えるはずも、なく。


 振り返ると同時に、オレに肩を組んでた友達が手を離した。



「玲央」


 オレが玲央の名前を呼んで、笑顔になると。
 ふ、と優しく瞳を緩めた玲央。


 それを見た瞬間。


 オレが付き合ってるのは、この人だよ、って皆に言ったら、どうなるのかなーと、すごく興味が……。



 ……言える訳ないけど。









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