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◇「恋人」

「優月を思う程」*玲央

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 部室について、椅子に腰かけながら、鞄と優月の道具を机の隅に置いた。


 ――――……作詞用のノートを取り出して、シャーペンと共に机に置いた。


 正直――――……1限から学校に来るとか、前までなら冗談じゃなくて。

 早く起きて、一緒にシャワーを浴びて、一緒にご飯を作って食べて。
 少し抱き締めて、キスして、一緒に学校まで来る。とか。


 なんか。
 ものすごい、有意義に朝、過ごしてる気がする。


 そもそも、あんなに朝早く起きるっつーのが、自分でも謎。


 ――――……優月を抱き締めて寝てると、ものすごく安眠するらしい。
 多分優月って、寝てる時まで癒しオーラが出てるに違いない。


 そんな風に思って、おかしくなってしまうけど。


 可愛いんだもんなー、寝顔。
 ……触れてる、髪の毛すら、なんかフワフワしてて愛おしいし。


 肘をついて、ノートを眺めていたけれど。
 何か、優月の事しか浮かんでこない。

 飲み物でも買うか、と立ち上がる。

 
 時間を見ると、今ようやく1限が始まった所。
 部室のある棟から出て、自販機の前に立って、何を飲むか眺めていると。

 優月が好きだって言ってたピーチティを発見。
 ………すげー甘いけど。

 でも、美味しいと嬉しそうな優月を思い出して、ふ、と笑いそうになってしまった瞬間。


「玲央……?」

 呼ばれて振り返ると。
 声でそうだとは気づいたけれど――――……奏人が立っていた。


「奏人……」
「おはよ、玲央」

 近づいてきて、少し離れた所で、止まる。


「後ろ姿は玲央だと思ったんだけど、こんな時間に玲央が学校に居るとか無いから、別の人かなとも思った」

 くす、と笑って、奏人がオレを見上げる。


「玲央、1限取らなかったよね?」
「……ああ」

「……あいつに付き合ってきたの?」
「……」

 嘘をついても仕方が無いので頷く。
 ふーん、と奏人は、頷いて。


「――――……なんか、玲央、違う人みたいだね」


 奏人が笑った気がして、ふ、と見つめると。



「オレはさ、玲央の事好きだから――――…… 別れなくても、もし遊びたくなったら、一番に思い出してよ」

「……奏人」

「でも、もしその時、オレが誰かと付き合ってたら、断るからね。早めの方がいいと思うよ?」

 くす、と笑いながら、奏人がオレを見つめる。

 何と答えるべきか、少し沈黙していると。


「――――……玲央、何か飲み物買ってよ」


 奏人がそう言った。


「……いいよ、押して」

 電子マネーを自販機に当てると。
 奏人は、さっきオレが見ていたピーチティーを買った。

「ありがと」
「……好きなのか、それ」

「うん。甘くておいしい。ていうか、多分玲央は飲まないと思うよ」


 クスクス笑いながら、オレを見て。


「――――……1限だから行く。……ってか、もうだいぶ遅刻だけど」


 苦笑いしながら、奏人はオレからふ、と視線を外した。



「……奏人」
「ん?」

「……ごめんな」


 噛みしめるように、言うと。
 奏人は、オレを再び見上げて。


「――――……謝んないでよ」

 そのまま、ふ、と視線を外される。


「……今無理だけど――――……その内、また普通に話したいし」
「――――……ああ」


「会ったら挨拶位してよ」
「……良いのか?」

「無視されんのは嫌だし」

「分かった」


 頷くと、奏人はじっとオレを見つめて。
 ――――……ふ、と笑んで、じゃーね、と言った。

 頷くと、踵を返して、歩いて行った。



 何とも言えない気持ちに、ふ、と息をついた。



 優月と会う前は、分からなかった。

 好きとか、離れたくないとか。


 セフレはもう、そう言う割り切った関係で。
 勝手にそれ以上を求められても、それはオレには関係ないしと、別れるのに何の罪悪感もなかった。


 優月の事が大事で、可愛くて、離したくないと思えば思う程。

 ……ほんとに、特に何の感情も持たず、今までやってきた事を後悔する。
 


 奏人が見えなくなって。
 何だか気持ちを持て余して、頭をすこし掻いて、そのまま動きを止めた瞬間。




「――――……おつかれ、玲央」


 そんな声に、振り返ると勇紀が立っていた。









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