264 / 822
◇「恋人」
「嬉しい」*優月
しおりを挟む「少し接客してくる」
さっきオレが案内した女のお客さん達が、蒼くんを見てきゃあきゃあ言ってる事に気付いた蒼くんが、そう言って奥に歩いて行った。
頷いてそれを見送った里村さんが、ふ、とオレを振り返る。
「ほんとモテるよなぁ」
「そうですね」
ほんとに。 まあ、分かるけど。
「優月君は、土日も居たんだろ?」
「あ、はい」
「蒼はあんな感じ?」
「そうですね。蒼くんと話したい人いっぱいだから。ずっとあんな感じで相手して話してましたよ」
ふふ、と笑って頷くと、里村さんは、ふーんと笑いながら、受付に戻って来た。
昨日は華奢な沙也さんと一緒にここに立ってたからなのか、なんかものすごく、狭い気がしてしまう。背も高いし、がっちりしてるから、余計大きく見える気もすめけど……。
「里村さん、すっごく背、高いですね?」
「185だよ」
「なんか運動とか……?」
「バスケやってたよ。大学までだけど」
「わー、ぴったりですね」
「まあでもバスケやってる奴、デカい奴多いから。そん中だと普通だったけど」
「そうなんですね……普通……」
なるほどそうなんだ、と頷いてると。里村さんはオレを見て、くす、と笑った。
「優月くんは? 何かやってた?」
「オレ、ずーっと、美術部です」
「ああ。絵、描くんだもんな」
「はい」
里村さんを仰いで、くす、と笑ってしまった。
「里村さんて蒼くんと何のお友達なんですか?」
「カメラマン仲間だよ。今日はたまたま引っ張り込まれただけ。優月くんが替わった風邪引いた子いたろ。その子じゃない方も風邪引いたとかでちょうどどうすっかなって言ってるとこにオレが電話したみたいでさ。まああいつの個展興味もあったし、前から聞いてた『優月くん』にも会えるっていうし」
「え。オレに会いにも来てくれたんですか?」
「そう。興味あるだろー、あの蒼が高校生ん時からずっと可愛がってる子とかさ」
さっきも言ってたっけ……。
「蒼くんて、オレの事、可愛がってるとか言うんですか?」
「可愛がってる……とは言わねえけど」
ぷ、と里村さんが笑う。
だよねえ、言わなそうだもん。
苦笑い。じゃあなんでそんな風に言ってるんだろうと聞こうとした時。またお客さんが入ってきて、話は中断。
1人が入ってくると、誘われるようにお客さんが続く。
しばらく受付業務をこなす。
「ごゆっくりどうぞ」
並んでた最後のお客さんを中に送って、小さく息を吸う。
「そろそろ終わりだな」
里村さんの声に、頷く。
ほんとだ。もう時間。週末より、平日の夕方の方が混んでるかな。あっという間の時間だった。
玲央どうしてるかな。ご飯食べないで待っててくれてるんだよね。
……早く行こっと。
それきり時間まではもう、お客さんは来なくて閉館時間になったので、終了の立て看板を出した。蒼くんが接客をしていた人たちが帰って行って、今日は終了。
「2人共ありがとな」
「おう。ていうか、うまい店つれてってくれんだろ?」
クスクス笑って里村さんが言う。
「優月くんも行くの?」
「優月は約束があるみたいだから。な?」
ふ、と笑って頷くと、「そーなんだ、残念」と、里村さん。
「そういや――――……恋人、昇格した?」
急な言葉に、びっくりして蒼くんを見上げて。
名前を言わないのは、里村さんが居るからかなと悟って。
「うん」
とだけ、頷いた。
そしたら、里村さんが、へえ?と笑う。
「恋人が出来たばっかりなの?」
「はい」
頷くと。へえ、いいな。一番楽しい時だよな、と言ってくるので、笑んで頷いておく。
「じゃあその話、また今度な」
蒼くんが言うので、うん、と頷いた。
「いいよ、優月。あとはやるから、早く帰ってやんな」
蒼くんがそう言うので、ん、と頷いて、下の荷物置きから、鞄と紙袋を手にとる。
「蒼、優月くんにはすげー優しいな」
「は? オレ、誰にでも優しいだろ?」
「そうかあ?」
目の前のそんな会話を聞きながら、スマホをさっと確認していると。
「え」
びっくりして、蒼くんを見つめてしまう。
「……どした?」
「ジム早く終わってやる事なかったから迎え行くって……近くのコーヒーショップに居るみたい」
「ふーん……」
クスクス笑う蒼くん。
「聞いて、玲央が良いならこっち戻ってきな。 まあでも、2人が良いなら、全然帰っていいから」
「……ん、分かった。聞いてから電話するね?」
「おう」
里村さんにも挨拶しながら、自動ドアから外に出て。
玲央に、電話をかけた。
……結局、来てくれたんだ。
と思うと。
遠慮して、断っちゃったけど――――……。
……やっぱり嬉しいな。
呼び出し音を聞きながら、ふ、と微笑んでしまう。
247
お気に入りに追加
5,157
あなたにおすすめの小説
利己的な聖人候補~とりあえず異世界でワガママさせてもらいます
やまなぎ
ファンタジー
9/11 コミカライズ再スタート!
神様は私を殉教者と認め〝聖人〟にならないかと誘ってきた。
だけど、私はどうしても生きたかった。小幡初子(おばた・はつこ)22歳。
渋々OKした神様の嫌がらせか、なかなかヒドイ目に遭いながらも転生。
でも、そこにいた〝ワタシ〟は6歳児。しかも孤児。そして、そこは魔法のある不思議な世界。
ここで、どうやって生活するの!?
とりあえず村の人は優しいし、祖父の雑貨店が遺されたので何とか居場所は確保できたし、
どうやら、私をリクルートした神様から2つの不思議な力と魔法力も貰ったようだ。
これがあれば生き抜けるかもしれない。
ならば〝やりたい放題でワガママに生きる〟を目標に、新生活始めます!!
ーーーーーー
ちょっとアブナイ従者や人使いの荒い後見人など、多くの出会いを重ねながら、つい人の世話を焼いてしまう〝オバちゃん度〟高めの美少女の物語。
【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る
紺
恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。
父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。
5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。
基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。
大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜
7ズ
BL
異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。
攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。
そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。
しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。
彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。
どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。
ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。
異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。
果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──?
ーーーーーーーーーーーー
狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛
浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした
雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。
遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。
紀平(20)大学生。
宮内(21)紀平の大学の同級生。
環 (22)遠堂のバイト先の友人。
どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~
黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。
※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。
※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。
大自然の魔法師アシュト、廃れた領地でスローライフ
さとう
ファンタジー
書籍1~8巻好評発売中!
コミカライズ連載中! コミックス1~3巻発売決定!
ビッグバロッグ王国・大貴族エストレイヤ家次男の少年アシュト。
魔法適正『植物』という微妙でハズレな魔法属性で将軍一家に相応しくないとされ、両親から見放されてしまう。
そして、優秀な将軍の兄、将来を期待された魔法師の妹と比較され、将来を誓い合った幼馴染は兄の婚約者になってしまい……アシュトはもう家にいることができず、十八歳で未開の大地オーベルシュタインの領主になる。
一人、森で暮らそうとするアシュトの元に、希少な種族たちが次々と集まり、やがて大きな村となり……ハズレ属性と思われた『植物』魔法は、未開の地での生活には欠かせない魔法だった!
これは、植物魔法師アシュトが、未開の地オーベルシュタインで仲間たちと共に過ごすスローライフ物語。
【完結】身代わりの人質花嫁は敵国の王弟から愛を知る
夕香里
恋愛
不義の子としてこれまで虐げられてきたエヴェリ。
戦争回避のため、異母妹シェイラの身代わりとして自国では野蛮な国と呼ばれていた敵国の王弟セルゲイに嫁ぐことになった。
身代わりが露見しないよう、ひっそり大人しく暮らそうと決意していたのだが……。
「君を愛することはない」と初日に宣言し、これまで無関心だった夫がとある出来事によって何故か積極的に迫って来て──?
優しい夫を騙していると心苦しくなりつつも、セルゲイに甘やかされて徐々に惹かれていくエヴェリが敵国で幸せになる話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる