264 / 830
◇「恋人」
「嬉しい」*優月
しおりを挟む「少し接客してくる」
さっきオレが案内した女のお客さん達が、蒼くんを見てきゃあきゃあ言ってる事に気付いた蒼くんが、そう言って奥に歩いて行った。
頷いてそれを見送った里村さんが、ふ、とオレを振り返る。
「ほんとモテるよなぁ」
「そうですね」
ほんとに。 まあ、分かるけど。
「優月君は、土日も居たんだろ?」
「あ、はい」
「蒼はあんな感じ?」
「そうですね。蒼くんと話したい人いっぱいだから。ずっとあんな感じで相手して話してましたよ」
ふふ、と笑って頷くと、里村さんは、ふーんと笑いながら、受付に戻って来た。
昨日は華奢な沙也さんと一緒にここに立ってたからなのか、なんかものすごく、狭い気がしてしまう。背も高いし、がっちりしてるから、余計大きく見える気もすめけど……。
「里村さん、すっごく背、高いですね?」
「185だよ」
「なんか運動とか……?」
「バスケやってたよ。大学までだけど」
「わー、ぴったりですね」
「まあでもバスケやってる奴、デカい奴多いから。そん中だと普通だったけど」
「そうなんですね……普通……」
なるほどそうなんだ、と頷いてると。里村さんはオレを見て、くす、と笑った。
「優月くんは? 何かやってた?」
「オレ、ずーっと、美術部です」
「ああ。絵、描くんだもんな」
「はい」
里村さんを仰いで、くす、と笑ってしまった。
「里村さんて蒼くんと何のお友達なんですか?」
「カメラマン仲間だよ。今日はたまたま引っ張り込まれただけ。優月くんが替わった風邪引いた子いたろ。その子じゃない方も風邪引いたとかでちょうどどうすっかなって言ってるとこにオレが電話したみたいでさ。まああいつの個展興味もあったし、前から聞いてた『優月くん』にも会えるっていうし」
「え。オレに会いにも来てくれたんですか?」
「そう。興味あるだろー、あの蒼が高校生ん時からずっと可愛がってる子とかさ」
さっきも言ってたっけ……。
「蒼くんて、オレの事、可愛がってるとか言うんですか?」
「可愛がってる……とは言わねえけど」
ぷ、と里村さんが笑う。
だよねえ、言わなそうだもん。
苦笑い。じゃあなんでそんな風に言ってるんだろうと聞こうとした時。またお客さんが入ってきて、話は中断。
1人が入ってくると、誘われるようにお客さんが続く。
しばらく受付業務をこなす。
「ごゆっくりどうぞ」
並んでた最後のお客さんを中に送って、小さく息を吸う。
「そろそろ終わりだな」
里村さんの声に、頷く。
ほんとだ。もう時間。週末より、平日の夕方の方が混んでるかな。あっという間の時間だった。
玲央どうしてるかな。ご飯食べないで待っててくれてるんだよね。
……早く行こっと。
それきり時間まではもう、お客さんは来なくて閉館時間になったので、終了の立て看板を出した。蒼くんが接客をしていた人たちが帰って行って、今日は終了。
「2人共ありがとな」
「おう。ていうか、うまい店つれてってくれんだろ?」
クスクス笑って里村さんが言う。
「優月くんも行くの?」
「優月は約束があるみたいだから。な?」
ふ、と笑って頷くと、「そーなんだ、残念」と、里村さん。
「そういや――――……恋人、昇格した?」
急な言葉に、びっくりして蒼くんを見上げて。
名前を言わないのは、里村さんが居るからかなと悟って。
「うん」
とだけ、頷いた。
そしたら、里村さんが、へえ?と笑う。
「恋人が出来たばっかりなの?」
「はい」
頷くと。へえ、いいな。一番楽しい時だよな、と言ってくるので、笑んで頷いておく。
「じゃあその話、また今度な」
蒼くんが言うので、うん、と頷いた。
「いいよ、優月。あとはやるから、早く帰ってやんな」
蒼くんがそう言うので、ん、と頷いて、下の荷物置きから、鞄と紙袋を手にとる。
「蒼、優月くんにはすげー優しいな」
「は? オレ、誰にでも優しいだろ?」
「そうかあ?」
目の前のそんな会話を聞きながら、スマホをさっと確認していると。
「え」
びっくりして、蒼くんを見つめてしまう。
「……どした?」
「ジム早く終わってやる事なかったから迎え行くって……近くのコーヒーショップに居るみたい」
「ふーん……」
クスクス笑う蒼くん。
「聞いて、玲央が良いならこっち戻ってきな。 まあでも、2人が良いなら、全然帰っていいから」
「……ん、分かった。聞いてから電話するね?」
「おう」
里村さんにも挨拶しながら、自動ドアから外に出て。
玲央に、電話をかけた。
……結局、来てくれたんだ。
と思うと。
遠慮して、断っちゃったけど――――……。
……やっぱり嬉しいな。
呼び出し音を聞きながら、ふ、と微笑んでしまう。
389
お気に入りに追加
5,335
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
花婿候補は冴えないαでした
一
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる