262 / 830
◇「恋人」
「甘える?」*優月
しおりを挟む再び数人のお客さんが続いて、案内を済ませて、また一息。
「里村さん、少し休憩して、飲み物とか飲んだ方が良くないですか?」
「蒼が戻ってから――」
「大丈夫そうですよ、今なら」
ふ、と笑んで、里村さんを見上げると、里村さんはじっとオレを見下ろした。
「どんな子なのかなーと思ってたんだ、蒼が可愛がってるとかさ」
その、言い方だと……。
「……蒼くんが可愛がるって、不思議なんですか?」
「――ああ、不思議、だなあ」
くく、と、笑いながら言うので、オレも思わず苦笑い。
「……だってあいつそういうタイプじゃねーもん」
「どう聞いてるのか、分かんないんですけど」
おかしくなって、くす、と笑ってしまう。
「高校生から蒼くん、ずーっと変わんないので……ずっと世話焼きのお兄ちゃんですけど」
「世話焼きねー……」
「からかわれること、多いですけどね」
笑ってしまいながらそう言うと、里村さんは、ますます面白そうに笑う。
自動ドアが開いて、蒼くんがスマホを後ろポケットにしまいながら、戻って来た。
ふと、オレと里村さんを見てから、里村さんに視線を流す。
「晃、優月に絡むなよ」
「……絡んでねえし。な?」
ふ、と見下ろされて、うんうん、と頷いて蒼くんを見つめる。
「蒼くん、里村さんも、休憩してきて? 何かあったらすぐ電話するから」
「んー……行くか、晃」
「ああ」
「いってらっしゃい」
と、二人そのまま行くのかとおもいきや。
「晃、先行ってていいよ。――優月」
自動ドアが開いた所で、蒼くんが不意に戻ってきて。
「玲央は来てねえの?」
と言う。
「来てないよ」
「あれおかしーな。絶対ついてきてるんだと思ったのに」
……確かに来ようとしてくれてたけど。
「ああ。お前、断った?」
「――」
何で分かるんだ。
「何で? 甘えりゃ良かったのに」
「――だって、なんか、悪いし」
はは、と蒼くんが笑って、オレの髪をまたクシャクシャにする。
「バカだなーお前。 甘えた方が絶対喜ぶって」
「だから、髪グシャグシャにしないでよ、スーツなんだから」
髪を整えながら蒼くんをちょっと睨んでいると。
「遠慮しない方がいいぞ。あーいうタイプは、頼られた方が嬉しいから」
「え。……そうなの?」
「絶対そうだろ」
そうなんだ。
……えーでもなー……。
「やってくれるっていう事、全部受けてていいの?」
「イイと思うけど――何だ、玲央がついてきてるんだったら、うまい店、連れて行ってやろうと思ったのにな」
そんな言葉に、ふ、と笑ってしまう。
「先に言ってくれたら、玲央に言ったのに」
「だってオレ、あいつ絶対ついてくると思ってたから。来てなくて驚き」
クスクス笑われて、何回も断ったっけ、と思い出して苦笑い。
「また今度、誘って? 玲央に言っとくね」
「おう。じゃすぐ戻る。五分位」
「もうちょっと行ってて良いよ。混んだら、電話するから」
「ん」
今度こそ出て行く蒼くん。
自動ドアから出ながら、外側に立ってた里村さんに気付いて、「先行かなかったのか」とか言ってる。
二人が並んで歩いていくのを見送りながら、ふ、と息をついた。
……全部甘えるって。
かなり難しいけど。
いつもだけど。
蒼くんの言葉ってなんか説得力があるから、すごく迷う。
そうなのかなーて。
でもどうなんだろ。 これは分かんないなあ。
386
お気に入りに追加
5,335
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
花婿候補は冴えないαでした
一
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
一日だけの魔法
うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。
彼が自分を好きになってくれる魔法。
禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。
彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。
俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。
嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに……
※いきなり始まりいきなり終わる
※エセファンタジー
※エセ魔法
※二重人格もどき
※細かいツッコミはなしで
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる