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◇「恋人」
◇優しい月の子*玲央
しおりを挟む朝一緒に学校まで歩いてくる間に、優月のスマホに村澤から連絡が入った。
「玲央、オレ今日、智也と美咲とお昼食べていい?」
「ああ。いいよ」
「話してくるね」
そう言って、笑ってたっけ。
バンドのメンバー3人と別れて2限の教室に向かいながら、朝の優月を思い浮かべる。
そっか。昼別々ってことは、夜まで優月と会えねーのか。
「――――……」
なんか少し、寂しい。とか。
素直に思うのはそれだな……。
何だか優月と居ると、「素直」がしみこんできそうだな。
……あいつみたいに、それを外に出すのは、まだ出来そうにないけど。
でも優月にはちょっと出せるかもな。
何言っても、受け止めてくれる気がするし。
「おーす、玲央!」
そんな声に、振り返ると、稔だった。
「どうだったー? ライブ」
「んー。まあ、大成功かな」
「大成功じゃなかったこと、ねーんだろ?」
稔はそんな風に言って、はは、と笑う。
「今度は行くから、早めに教えて」
「次のライブは学校だから」
「ああ、あれか。去年もやってたよな」
「そ。負けたけどな」
どうしてもこの話だと苦笑が浮かんでしまう。
稔も、ああ、と頷いた。
「あー、そうだっけなー。まあでも玲央が負けるとことか、めったに見ねえから、あれはあれで、貴重でよかったけどなあ?」
「なんだそれ」
やれやれ、と笑っていると。
「そういや、今朝は優月と一緒じゃねえの? 優しい月の子ー」
「なんだそれ、最後の」
楽しそうに笑う稔に、呆れてると。
「お前が言ったんじゃん、優しい月って書く、ピッタリだって」
「言ったけど、優しい月の子って……――――……」
――――……まあ、いっか。
別にそこまでイメージ違う訳じゃねえな。
そこで言葉を切ると、稔が、うわー、お前……と、ちょっと半笑いで見つめてくる。
「まあいっかって、思っただろ。優しい月の子でもいいなとか。可愛いなとか思った?」
「……まあ、思った」
「うっわーきもーー。玲央がキモイー」
「つか、キモイとか、本人が居るとこで言ってんじゃねーよ」
「いやいや、陰で言ったら、こんなの完全に悪口になっちゃうじゃんか。直で言うからいーんだよ」
「良くねえし」
はー、とため息を付きながら、階段を上り、廊下を歩く。
「優月、ライブ見に来たんだろ? 踏みつぶされてなかった? 村澤が心配してたろ」
クスクス笑う稔に、苦笑い。
「バルコニー席に行かせたから、平気だった」
「あ、やっぱり踏み潰されそうな感じなんだ、優月って」
「……そうだな、そうかも。踏み潰されないにしても、なんか大変そうな気がする」
思い浮かべて、くす、と笑ってしまう。
すると、稔が隣で、またまた、うわー、という顔でオレを見てくる。
「何なんだよ、さっきから」
「だって、今また、かわいーよなーとか、思ってたろ?」
「……まあ、そんな感じで可愛いからなあとは、確かに思ったけど」
「だってそーいう顔してたもん。 うわー、何なのオマエ、キャラ変わりすぎ」
ぞわぞわするー、と大げさに震える稔。
「お前うるさい」とため息を付いた。
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