上 下
234 / 822
◇週末の色々

◇不思議*優月

しおりを挟む


 
 20時になって、入り口を閉じて、閉館の案内を出してから中に戻った。
 明日の受付の準備を整えてると、蒼くんが近づいてきた。

「もう他の売り場のスタッフも帰るから、優月も良いよ、帰って」
「あ、うん。蒼くんは?」

「オレはちょっと電話したりしないといけないから、少し残る」
「そっか。分かった。明日、早く来れるなら来た方がいい?」
「授業あるだろ?」
「ん。でも、いつもちゃんと出てるから。1コマ休んで来れたら来るね」
「いいよ、無理しなくて」
「うん」

 受付の机の下から、鞄を出して、スーツの紙袋も出す。

「スーツ、ありがとうね、持ってきてくれて」
「ああ。玲央は? 待ってんだろ?」
「うん、多分」

「ここに迎え来てもらえば?」
「どこにいるか分かんないから……電話してみて良い?」
「いいよ」

 頷いてくれるので、玲央に電話をかけてみる。

『優月? 終わったか?』
「うん、終わった。今、どこにいるの?」
『そこから5分位の店。今会計して出るから。そっち行けばいいか?』
「待ってて良い?」
『ん、待ってて』

 優しい声で玲央が言って、電話が切れる。


「――――……ほんと、お前、玲央が好きなんだな」

 蒼くんが急にそんな事を言うので、目が点。


「え、何で?」
「そんな用件だけの電話だけで、そんなしあわせそーな顔して」
「……してた?」

 してたかなあ? と首をかしげると、蒼くんは、くっ、と笑って、頷く。


「してた。 で? すぐ来るって?」
「うん。5分位のお店だって」
「じゃそれまで一緒に待ってる」
「うん」

 頷いて、ふ、と息をつく。

「忙しかったね、蒼くん。疲れたでしょ」
「立ちっぱなしがなー? 足痛ぇし。今日はもう帰って寝る」
「うんうん。明日もあるもんね」

 ふふ、と笑って蒼くんを見上げていると。
 あ、と蒼くんがオレを見つめてきた。

「さっきのバンドの写真だけどさ。SNSとかに載せる写真くらいなら、すぐ撮ってもいーぞ」
「えっほんと?」
「時間と場所が合えばな? ライブしてるとことか? 練習してるとことか。行ってすぐ撮るくらいなら」
「それは言ってなかったから、聞いてみるね」
「ああ」
「ありがと、蒼くん」

 見上げて、ふふ、と笑ってしまう。

「なんかさっきも、思ったんだけど」
「ん?」

「玲央と蒼くんが、話してたり、蒼くんの作品を玲央が見てたりさ。その、蒼くんに玲央の写真、撮ってもらいたいな、とか思うのもさ」
「ん」

「なんか、すごく、不思議。――――……オレ、玲央に会ったの先週の金曜なんだよ。ちゃんと一緒に居たのは、月曜からだしさ。なのに、その玲央と蒼くんがなんか喋ってるのとか」

 なんだか急におかしくなって、蒼くんを見上げた。

「――――……なんかさ?」
「ん?」

「……ちょっとしか会ってないのにさ。蒼くんは玲央の気持ちを想像して話すしさ。 玲央も、なんか、蒼くんの絵や写真を見て、蒼さんぽい、とか言うし」
「――――……」


「玲央と蒼くん、ちょっとしか喋ってないのに、なんか不思議」
「――――……まあ確かに。ちょっとしか会ってねえけど」

「けど?」


 しばらく、んー、と考えてた蒼くんは、クッと笑い出した。


「……何となく、何言いそうか、分かる気がする」

 そんな風に言う蒼くんは、何だか不思議ではあるのだけど。
 ……でもなんか、ほんとにそんな気もして。


 
 ほんと不思議。
 似てる……という訳でもないんだけど。


 でも、大好きな2人が、関わってるのは。
 ――――……なんか、楽しいし、なんか嬉しい。
 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺

toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染) ※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。 pixivでも同タイトルで投稿しています。 https://www.pixiv.net/users/3179376 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/98346398

つぎはぎのよる

伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。 同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

転生令息の、のんびりまったりな日々

かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。 ※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。 痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。 ※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.

ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話

かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。 「やっと見つけた。」 サクッと読める王道物語です。 (今のところBL未満) よければぜひ! 【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長

モブ男子ですが、生徒会長の一軍イケメンに捕まったもんで

天災
BL
 モブ男子なのに…

処理中です...