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◇そばに居る意味
「大好き」*優月
しおりを挟むレジの前で甲斐が会計を済ませていて、店を出てから勇紀が言う。
「今日は、優月の歓迎会も込みだから、優月の分は奢りね。四人で割り勘~」
「え。いいよ、払うよ?」
「今日はいいよ」
玲央が言って、皆も頷いてくれるので、それ以上は言わず、ありがとう、と伝えた。エレベーターで降りて、道の隅で丸くなる。
「今日はもう帰ろ。明日あるし。優月、また明日ね、待ってるからね」
「うん。頑張ってね」
「早く寝ろよ、特に玲央」
颯也がじろ、と玲央を見てる。
「今日は程々にして、とっとと寝る事」
「……分かってる」
「何その間。お前、分かってるかー? 優月、今日は拒否れよ?」
甲斐に言われて、瞬間的に真っ赤になった。
「つか、虐めんな」
玲央に肩を掴まれて、後ろに引かれて、玲央にくっついてしまう。
触れられるとドキドキしてしまうのは、ほんとに変わらない。
「虐めてねーし。優月だって明日仕事なんだろ。無茶すんなよ」
「分かってる」
今度は即答して、玲央がオレをちら、と見下ろして。
「あれだけで何でそんな赤くなるかな……」
すり、と頬を撫でられて、ぷ、と笑われる。
……今も赤いのは、甲斐のセリフだけじゃないんだけど。
……玲央が肩掴んで引き寄せるからだし。
「さ。帰ろうぜ。――――……じゃあな」
「おやすみー」
「優月、明日ねー」
皆で挨拶しあって。
三人は、駅の方に向かって歩いてく。
反対側、いつもは通学の人で混んでる道を玲央と並んで歩く。
この道は、完全に住宅街でほぼ居住者しか通らないので、大学生の通らないこの時間になると、ほとんど人は歩いてない。
「今日はいつものマンションに行く。その方が明日お前んち行くの楽だから」
「うん」
ん?
今日は……? って??
「次は、オレんち連れてく」
「――――……え」
「あっちなら料理もできるし」
玲央を見上げると、な?と、綺麗な瞳でまっすぐに見つめられて。
ふ、と優しく笑まれる。
見惚れてしまう位。
綺麗な、笑顔で。
「――――玲央……」
うん、と頷いて。
外だから抱き付くわけにもいかなくて。
玲央の腕にそっと触れた。
そしたら、クスクス笑った玲央に、手を繋がれた。
――――……玲央、大好き。
どうしてとか。
なにがとか。どこがとか。
なんか、どうでもいい位。
玲央が、大好きすぎて。
――――……大好きな人の側に居れるのが、嬉しくて。
やっぱり、少し、泣きそうになる。
嬉しすぎると、泣きたくなるんだなあ、なんて。
今日はすごく思ってしまった。
「楽しかったか?」
「うん」
「変な話聞いた?」
「ううん。……仲いいんだなーって思った」
「はは。まあ。仲は良いかもな。……タイプ違うんだけどな」
言いながら玲央が笑う。
「練習場所とか、仲間との食事に誰かを連れてくとか、そうそう無いから、新鮮だった」
「そうなの?」
「セフレは連れてかねえし。颯也の彼女はこういうのは来ないし。勇紀はコロコロ彼女変わるし、甲斐も彼女作んねえし。ほとんど無いな」
「……行って大丈夫だった?」
「大丈夫じゃなさそうに見えた?」
クス、と笑って、玲央が逆に聞いてくる。
「見えなかった。皆優しいし」
「じゃあ大丈夫って事だろ」
「うん」
頷いて、何となく笑顔になっていると。
「……優月ってさ」
「ん?」
「まわりの人間て、皆優しいって思ってる?」
「え? あー……うん、結構、思ってる、かな……」
「――――……」
良く分からない質問に、首を傾げながら、でも、そうかなと思って答えると、玲央がクスクス笑った。
「逆にお前に冷たくできる奴が居るなら見てみたいな……」
玲央がまた良く分からない事を言いながら、笑ってる。
「どういう意味?」
「いや。何でもない」
ふ、と笑って、玲央がオレの手を少し強く握る。
「早く帰って、シャワー浴びて、布団入ろ」
「――――……」
「今日は、なるべく何もしねえようにするから」
「なるべく……??」
「んー。じゃあ、少しだけにするから」
……あ、何かするんだ。
ふ、と笑って玲央を見上げたら。
「何もしねえっつーのは、無理じゃね? だって、オレ、昼別れてからずっとお前に触りたいの我慢してたし」
唐突にまた、色っぽい雰囲気で流し目されて。
どき、として言葉に詰まる。
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